映画「まわる映写機めぐる人生」を観にゆく [感想文]

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十二月某日ーーー
聖蹟桜ヶ丘駅近くのキノコヤというバーのニ階で、ssブロガー仲間でもある映像記録者の森田恵子さんの監督されたドキュメンタリー映画「まわる映写機めぐる人生」が上映されるというので、一もニもなく出向く。

久しぶりに乗る京王線。
住宅街の木々は たいしゃ色や山吹色に染まり、秋の終末を実感させられる。

私は聖蹟桜ヶ丘駅に降り立った事はまだなく、暖かい日であれば 駅周辺の通りを縦横に散策したかったところだが、本格的に寒い日となってしまったので、駅に隣接するカフェで時間を過ごし小腹を満たし、スマホの地図を片手にキノコヤを目指す。

ーーーが、これが見つからない。
キノコヤが在ると記してあるさくら通りという駅前大通りを三十分も行ったり来たりして、道ゆく人に尋ねたりもする。
三人目に尋ねた美容院の店主さんが ようやっとご存知で、無事 辿り着ける。
大ざっぱな地図しか見ていなかったので、キノコヤはさくら通りから脇道を入った所に在ると判らなかったのだ。

レトロかつモダンな小ぢんまりした店構えの扉を押すと、すでに観映目的のお客さんが三、四人いらっしゃった。
料金を払いドリンクにシメイの赤を選んでいると、背後から「あらあ!ぼんぼちさん!」弾んだ男性のお声がした。
同じくssブロガーで映像作家のsigさんである。
「わぁ!今日はsigさんもいらっしゃるかな?って思ってたんですよ。前もってお声掛けすればよかった」
「いえいえ、それはこちらこそ」
sigさんのお話しで、この時初めて 扉脇の椅子に静かに掛けておられる女性が 森田恵子さんだと判った。
ゆったりとお育ちになったと想像される とても品の良い素敵な女性だった。

上映準備が整い、私達客と森田さんと店員さんの十人ほどは、二階に移動した。

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映画の内容はーーー
戦前から戦後にかけて永年 映写技師をやっていらした方へのインタビューや、ATGが都市部の一部の映画ファンに熱狂的に支持されていた時代 どうすれば都市部ではない地域でも上映出来るか奔走した方の話しや、地方の芸大の映画学科の学生さんが 自身の学校の在る土地でどう市民に映画をテーゼしているかや、現在 あえてフィルム上映に拘っている劇場の若手の技師さんの語りなど、興味深いものばかりだった。

中でも私が気になっていたのは、東京では洋邦問わず 古い作品や自主をかけてくれる映画館は幾つも在るが 地方ではどの様な状況なのだろう?という事だった。
本編を観ると、地方でも そういった方向性で頑張っている劇場が取材されていた。
しかし、上映後にそれを森田さんに喜ばしく伝えると、「そういうことをやってくれている劇場もあるにはあるんですけど、まだまだ地方はとても少ないんです」と 残念そうにお答えになった。

又 非常に共感を覚えずにおれなかったのは、作品ラスト近くで、シネマヴェーラ渋谷の四十代と思しき映写技術者さんが、「最近はパソコンやスマホの小さな画面で一人で映画を観て『映画を観た』と自認している人が多いけれど、映画を観る という行為は、観に行く日に家を出るところから始まって、他の大勢の観客と共有体験をして、その日の天気や匂いまでも観た映画に連結され、家に着くまでが映画鑑賞なのだと思います」と語られていた事だった。

アップテムポのBGMも要所要所に効果的に使われていて、もったりせずに 大変に密度の濃い充実した作品だと感じた。

私は、あくまで素人の趣味というスタンスでだが、長年 映画にまつわる勉強をしたくてしたくて、社会人になって久しくして時間に余裕の出来た時期に、演技の実技 演技論 シナリオ作法の実践 朗読の実技 世界実験映画史 映像理論を それぞれの研究所で学んできたが、映写技師さんのお仕事についてはまるで無知だったので、そういった観点からも、実りある勉強をさせていただいたという観映後感だった。
森田恵子監督に感謝である。

帰路ーーー
sigさんと京王線で調布までご一緒した。
車内でしきりに、今日の森田さんの作品について 過去に作られたsigさんの映画について そして私のブログについて語り合った。

最寄り駅に着くと、商店街のクリスマスイルミネーションが 暖色系に灯っていた。

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