愛しい玩具を捨てました [詩・詞]

愛しい玩具を捨てました
真白いコーヒーカップと共に
愛しい玩具を捨てました
まだみぢんも汚れていなかったけれど

決して カップ片手に 遊ぶ享楽が嫌になってしまった訳ではないのです
十年余りの間 叶えられずにいた趣味を 再開させる事ができる状況になったからなのです
一年と少しの間 私を夢中にさせてくれていた玩具
けれど 玩具は玩具 しょせんは「遊び」以外の何物でもないのです

趣味が金色に輝く月ならば 玩具は皿に転がる一粒の胡椒
それほどまでに「趣味」は 私にとって 価値あるものなのです

玩具さん ありがとう
この一年と少しの間 私を享しませてくれた玩具さんは 私のこれまでの人生の中で 一番 享しみ甲斐のある玩具でしたよ
でも ごめんなさいね
勝手に遊ぶのを止めてしまって

愛しい玩具を捨てました
真白いコーヒーカップと共に
愛しい玩具を捨てました
まだみぢんも汚れていなかったけれど

趣味の扉を開けたとたん 私が玩具に夢中になっていた事など 天馬の如き早さで 忘却の彼方へと消えつつあります、、、、、

20220301_101120.jpg

タグ:断捨離
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新緑を抜けて [詩・詞]

私は歩く
道の向うは林である
林が近づいてきた
新緑がまばゆい
新緑の林に入るや 私は走りたい衝動にかられた
私は走った
木漏れ陽を受け 木々を抜け 下草を蹴った
私は走った 私は走った
呼吸(いき)の続くかぎり走った
----もう走れない
高鳴る鼓動を抑えつつ足をとめた
気がつくと----
私は 淡い若草色の 身体の引き締まった一匹の犬になっていた

木漏れ日.jpg
タグ:新緑
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雨が降る [詩・詞]

雨が降る 雨が降る
夕べはしとしと 今夜はどしゃぶり
毎夜毎晩 雨が降る
閉ざした雨戸の向う側で
毎夜毎晩 雨が降る

しかし 翌朝 雨戸を開けると
雨の降った形跡など どこにも見当たらないのだ
庭の枯れ草も コンクリートも 花壇のレンガも
カラリと乾いたままなのだ
空は白群色に澄み渡り 風はそよぎ 雀がさえずる

けれど 夜になって 雨戸を閉ざすと
また今夜も 確かに必ず 降るに違いないのだ

雨が降る 雨が降る
夕べはしとしと 今夜はどしゃぶり
毎夜毎晩 雨が降る
閉ざした私の内側で
毎夜毎晩 雨が降る

雨が降る.jpg
タグ: 雨音
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 さいごの一口  [詩・詞]

 
   さいごの一口 どう飲もう
   さいごの一口 どう干そう

   ブラウンシュガーをたっぷり溶かし とろりゆるりと味わうか
   生クリームの輪を描き きゅっと一気にすするのか

   さいごの一口 どう飲もう
   最後の一口 どう干そう

   ほんとは私のコーヒーだもの 好きに飲んでもいいでしょう
   私のための一杯の筈 好きに干してもいいでしょう

   ここまで 苦さに口ゆがめ
   ブラックコーヒーこの喉に
   流し続けてきたのだからさ

ひとくち.jpg

タグ:コーヒー
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 やせこけた犬  [詩・詞]

魚の骨 さびた釘 鼻緒のちぎれた片方だけのビーチサンダル・・・・
やせこけた犬は そんな物らを前に座っていた
両前足に 守るように抱えながら
うすっぺらいガラスさながらの目玉を まばたきもさせずに

ある日
私は 朽ちた木片を 彼の前に差し出した
やけこけた犬は 尻尾を振って木片を咥えた
次の日
私は へこんだ空き缶を鼻先にかざした
彼はやはり 尻尾をちぎれんばかりに振り 空き缶を抱え 愛おしそうに舐めまわした

その次の日
私は 金彩の施された白磁皿にサーロインステーキを盛り 彼の前に立った
やせこけた犬は 目玉を動かしもしなかった
ステーキの皿を 目の前に突き出した
彼は 小さく「ううう・・・」と 威嚇した
鼻っ面にくっつけた
ガラスの目玉が歪みくぼみ 「わん!」と一声吠えるや 魚の骨らにうずもれるように 身を伏せた

私は嘲笑した

やせこけた犬は
清貧者でも 美徳者でも 強固な精神の持ち主でも何でもないのだった
ただ 己れがやせこけた犬であることを自認したくないだけなのだった

私はサーロインステーキをむしゃむしゃと食みながら やせこけた犬から遠ざかった
うすっぺらいガラスさながらの目玉が怨みがましく光ったまま 小さくなっていった 

やせこけた犬.jpg

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 浄化  [詩・詞]

庭の睡蓮鉢などに湧いたボウフラを駆除するには
灯油を流し込むのが一番なのだそうです
ボウフラは水面で呼吸をしているので 油の膜で呼吸を止めてしまえるのだそうです
その後の灯油はどう処理すればいいかというと
火をつけて さっと燃やしてしまえばいいのだそうです

さぁ! 汚らしいボウフラを 人をイライラさせるボウフラを 百害あって一利なしのボウフラを
この町から一掃しましょう!
そして 賢く 気高く 美しく 秩序正しい者だけの 平和な町を維持しましょう!

その前に ボウフラを つついて 叩いて 弄ぶことを忘れずに・・・・

ぼうふら.jpg

※この記事は、散文詩という虚構の文学作品でやす。 ボウフラの駆除方法については、各々の自己責任の元 安全に行ってくださいでやす。
タグ:ボウフラ
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 林檎・三  [詩・詞]

えぇ 放(ほか)してしまいましたよ 蛆虫の這い出してきた林檎を
日曜の深夜 安売りスーパーのナイロン袋にぶち込んで
不快さのたけをゴミ捨て場のコンクリートに叩きつけんばかりに 投げてきました

----もしも蛆虫が湧かなかったら いつまでも綺麗な林檎を見ていられたのに ですって?
いいぇ 
私は 蛆虫が湧く前から この林檎に飽き飽きしていたのですよ
だって
蛆虫が湧いたら 堂々と放(ほか)してしまえるじゃあないですか
蛆虫が這い出すまで林檎を飾り続けていたら 私がどれほど この林檎を大切に思っていたかという証しになるじゃあありませんか

ほんとうは
とうに前から 隣町で見つけたもっと綺麗な林檎を冷蔵庫に 用意していたのです

りんご.jpg

タグ:りんご
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 林檎・二 [詩・詞]

えぇ 這い出してきましたよ
出窓に飾り愉しんでいた林檎の向う側から 蛆虫が

----別段 憂いてなどいません
いつか這い出してくるだろうと思っていましたから

いえ ほんとうは 這い出してくるのを 今日か明日かと いらいらしながら待っていたのです
だから あえて 西日の射し込む出窓を じっとりと締め切っていたのです

這い出してきたら 林檎の綺麗なところだけを見ていたかったのに蛆虫を目の当たりにしてしまった不快さを露わにして
放(ほか)してしまうことができますからね

りんご3.jpg


 ※次回は「林檎・三」を公開しやす

タグ:りんご
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 林檎・一  [詩・詞]

えぇ 解っていますよ
この林檎の向う側半分に 蛆虫が湧いていることくらい
それを百も承知で 私は 林檎を出窓に飾り愉しんでいるのですよ

なに こちら側まで蛆虫が這い出してきたら
月曜の可燃ごみの日に 安売りスーパーのナイロン袋にぶち込んで 放(ほか)してしまえばいいだけの話です

ようは 林檎の綺麗なところだけを見ていられれば それでいいのです

りんご2.jpg


 ※次回は「林檎・二」を公開しやす
タグ:りんご
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 隠花植物  [詩・詞]

タンポポより スミレより サクラソウより ミモザより
私は隠花植物に惹かれる

ぬめりとした触感や
へにゃりとした傾ぎもさることながら
何より 私が隠花植物に惹きつけられる要因は
隠花植物には 己れは隠花植物であることが疎ましくてならない という匂が 隠せど隠せど匂い立つことにある
顕花植物へと終ぞ進化できなかった 悲しみ 憂い 失望 嫉妬 寂しさ 恨み が 胞子の一つ一つに充満し 寄る辺ない浮遊をし続けていることにある

私は 隠花植物の胞子を 肺いっぱいに味わう
愛おしさにむせかえり 涙しながら
隠花植物.jpg

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