あっしがセミだった頃 [小説]
ミーーン ミンミンミンミン、、、
気温三十四度の炎天下、東京郊外の住宅街の小さな稲荷神社に立つ くぬぎの木に留まって、あっしは全身の力をふりしぼり 腹筋をふるわせて鳴いてやした。
ーーーこれは、あっしが前世で セミだった頃のお話しでやす。
あっしが物心ついたのは、稲荷神社の一本のくぬぎの木の根の先の土中でやした。
土中は、冬はほんわかと暖かく 夏はひんやりと涼しく、常にしっとりと柔らかく幼虫のあっしの身体を包む、とても心地の良い場所でやした。
食料は、鼻先まで伸びたくぬぎの樹液をいつでも好きなだけ吸い、外敵らしい外敵も どこからも現れやせんでやした。
眠る時と樹液を吸う時以外は、気ままに瞑想にふける毎日を送ってやした。
自我について、宇宙について、愛について、運命について、生命について、、、
あっしは自由で、幸せに溢れてやした。
幸せな時というのはアッ!という間に過ぎてゆく とはよく言ったもので、あっしの幸せな幼虫時代の七年間は、まさに アッ!という間に過ぎ、成虫になるために地上へ出なければならない時が来やした。
くぬぎの木の根先から、「地上なんてのはロクな所じゃないよ」と聞いてはいやしたが、セミの幼虫は七年経ったら望むと望まざるとに関わらず 地上へ這い出て、羽化しなければならないサダメにあるので、あっしには抗うことが出来ず、仕方なく、ある生温い明け方に、境内の縁の立ち枯れの紫陽花にピトリと静止し、成虫になりやした。
ミーーン ミンミンミンミン、、、
くぬぎの言ってた通り、地上なんてのは、ほんとにロクな所じゃありやせんでやした。
常軌を逸してクソ暑い上に、身体にへばりつく様な湿気。
その中で 気を失いそうになるくらいに全身の力を振り絞って 鳴かなければならないのでやす。
それがセミの成虫に与えられた使命なのでやす。
木の幹から樹液をすするのは、頭部が痛くなるほど 幹に口先をぶっ刺さなければすすれず、いつ 昆虫採集の材料にされるか カラスに喰われるかも気が気ではなく、そして何よりもめんどいのは、生命を了える一日前に、好むと好まざるとに関わらずに、生殖活動をしてからでないと 死んではいけない、というサダメでやした。
成虫になって三日目ーーー
幸せな年月がアッ!という間に過ぎていったのに対して、辛い日々の一日というのは 何と長いことでやしょう。
あっしは、一日が土中にいる一年以上にも長く感じやした。
これなら、サッサと 昆虫採集の材料になるか カラスの餌食になって、天寿を全うする七日が経つ前に生命を了えたほうがよっぽどマシでやす。
あー、誰か、あっしの生命を早く奪ってくれないだろうか!!
あっしはそう願いながら、ミーーン ミンミンと ヤケになって鳴いてやした。
と、ヨチヨチ歩きの女の子と若いお父さんが、神社の脇を歩いてきやした。
ヨチヨチ歩きの女の子があっしを見つけるや、「パパ、あれトッテ!」と 小さな指をあっしに向けやした。
あっしは生命を了えられるチャンスだと、浮き立ちやした。
がーーー
若いお父さんは、「セミさんはね、幼虫の頃は 真っ暗な土の中で、一人で七年間もずーっとがまんして生きてきたんだよ。 それからこうしてセミさんになって、やっと 広いお空やおてんとうさまや木を見たり、飛んだりできるようになったんだよ。 でも、セミさんになってからは、たったの七日しか生きていられないんだ。 だから、かわいそうだから、捕らないでおいてあげようね」
女の子の手を引いて 去って行ってしまいやした。
あっしは、がっかりしてしまいやした。
ミーーン ミンミンミンミン、、、
五日目の朝が来やした。
カラスの一群が近づいてきやした。
あっしは今度こそ、生命を了えられるチャンス到来!と ますますミンミンと存在を主張しやした。
しかしーーー
カラスの口々には、紀ノ国屋や成城石井の袋が咥えられ、咥えたままで その中の一羽がこう吐きやした。
「セミかぁ、、、ケッ! 何にもねぇド田舎ならセミでも喰わな生きていけんけど、ここいらは高級住宅街だかんな。フレンチやイタリアンが週ニで喰い放題よ。 それにセミってヤツは、土中生活はおっそろしく長いのに、空飛べるのは七日しかないんだよな。 かっわいそーで喰えねぇよ!」
あっしは落胆してしまいやした。
そして六日目ーーー
ミーーン ミンミンミンミン、、、
鳴くよりもっとめんどい生殖活動をしなければならない日がやって来やした。
「アナタの声ってステキ! グッときちゃった!」
道を挟んだ一戸建ての庭の木からやってきたメスゼミでやした。
とっととセミに与えられた義務を果たせばそれでいいんだと、あっしはそのメスゼミと、チャチャッとコトを済ませやした。
愛などみぢんも無い、単に本能に押し流されただけの、性欲の放出でやした。
あっしは、ウットリと動かなくなったメスゼミを後に、マンションの前の舗道にせり出したムクゲの木に 飛び移りやした。
七日目ーーー
長く辛い七日間でやしたが、これでようやっと地上とオサラバできると思うと、嬉しくて嬉しくて ほくそ笑まずにおれやせんでやした。
ああ!それにしても、何と辛くて長い七日間だったことか!!
思い返すのは、アッ!という間に過ぎていった 充実し幸せだった土中の七年間のことばかりでやす。
その日の暮れ方ーーー
あっしの脚力は弱まり、ムクゲの木から ポトリと落ちやした。
そして、腹を上に舗道に転がり、無意識に腹筋が小さく ジジ、、、ジジ、、、と鳴りやした。
いつの間にか 老人達五人組が、あっしを囲み 見下ろしてやした。
「あらぁ、このセミ、死にかけてるわぁ」
「セミは、たったの七日間しか生きられないからなあ」
「真っ暗な土の中では七年もの間、耐え忍ばなきゃならないのにね」
「ほんとうに可哀想な生き物だなあ」
「ほんとほんと、悲しくなっちゃうわ。 私達は七十年以上も生きてるっていうのにねぇ」
ナンマイダァ ナンマイダァ、、、
老人五人組は、あっしの上で しわくちゃの手を合わせやした。
あっしは、腹筋がのジジ、、、が、だんだんと消えゆかんとするのを覚えやした。
老人達の十本の手が、ぼんやりとしてきやした。
こうして、あっしがセミだった頃の生は了りやした。
気温三十四度の炎天下、東京郊外の住宅街の小さな稲荷神社に立つ くぬぎの木に留まって、あっしは全身の力をふりしぼり 腹筋をふるわせて鳴いてやした。
ーーーこれは、あっしが前世で セミだった頃のお話しでやす。
あっしが物心ついたのは、稲荷神社の一本のくぬぎの木の根の先の土中でやした。
土中は、冬はほんわかと暖かく 夏はひんやりと涼しく、常にしっとりと柔らかく幼虫のあっしの身体を包む、とても心地の良い場所でやした。
食料は、鼻先まで伸びたくぬぎの樹液をいつでも好きなだけ吸い、外敵らしい外敵も どこからも現れやせんでやした。
眠る時と樹液を吸う時以外は、気ままに瞑想にふける毎日を送ってやした。
自我について、宇宙について、愛について、運命について、生命について、、、
あっしは自由で、幸せに溢れてやした。
幸せな時というのはアッ!という間に過ぎてゆく とはよく言ったもので、あっしの幸せな幼虫時代の七年間は、まさに アッ!という間に過ぎ、成虫になるために地上へ出なければならない時が来やした。
くぬぎの木の根先から、「地上なんてのはロクな所じゃないよ」と聞いてはいやしたが、セミの幼虫は七年経ったら望むと望まざるとに関わらず 地上へ這い出て、羽化しなければならないサダメにあるので、あっしには抗うことが出来ず、仕方なく、ある生温い明け方に、境内の縁の立ち枯れの紫陽花にピトリと静止し、成虫になりやした。
ミーーン ミンミンミンミン、、、
くぬぎの言ってた通り、地上なんてのは、ほんとにロクな所じゃありやせんでやした。
常軌を逸してクソ暑い上に、身体にへばりつく様な湿気。
その中で 気を失いそうになるくらいに全身の力を振り絞って 鳴かなければならないのでやす。
それがセミの成虫に与えられた使命なのでやす。
木の幹から樹液をすするのは、頭部が痛くなるほど 幹に口先をぶっ刺さなければすすれず、いつ 昆虫採集の材料にされるか カラスに喰われるかも気が気ではなく、そして何よりもめんどいのは、生命を了える一日前に、好むと好まざるとに関わらずに、生殖活動をしてからでないと 死んではいけない、というサダメでやした。
成虫になって三日目ーーー
幸せな年月がアッ!という間に過ぎていったのに対して、辛い日々の一日というのは 何と長いことでやしょう。
あっしは、一日が土中にいる一年以上にも長く感じやした。
これなら、サッサと 昆虫採集の材料になるか カラスの餌食になって、天寿を全うする七日が経つ前に生命を了えたほうがよっぽどマシでやす。
あー、誰か、あっしの生命を早く奪ってくれないだろうか!!
あっしはそう願いながら、ミーーン ミンミンと ヤケになって鳴いてやした。
と、ヨチヨチ歩きの女の子と若いお父さんが、神社の脇を歩いてきやした。
ヨチヨチ歩きの女の子があっしを見つけるや、「パパ、あれトッテ!」と 小さな指をあっしに向けやした。
あっしは生命を了えられるチャンスだと、浮き立ちやした。
がーーー
若いお父さんは、「セミさんはね、幼虫の頃は 真っ暗な土の中で、一人で七年間もずーっとがまんして生きてきたんだよ。 それからこうしてセミさんになって、やっと 広いお空やおてんとうさまや木を見たり、飛んだりできるようになったんだよ。 でも、セミさんになってからは、たったの七日しか生きていられないんだ。 だから、かわいそうだから、捕らないでおいてあげようね」
女の子の手を引いて 去って行ってしまいやした。
あっしは、がっかりしてしまいやした。
ミーーン ミンミンミンミン、、、
五日目の朝が来やした。
カラスの一群が近づいてきやした。
あっしは今度こそ、生命を了えられるチャンス到来!と ますますミンミンと存在を主張しやした。
しかしーーー
カラスの口々には、紀ノ国屋や成城石井の袋が咥えられ、咥えたままで その中の一羽がこう吐きやした。
「セミかぁ、、、ケッ! 何にもねぇド田舎ならセミでも喰わな生きていけんけど、ここいらは高級住宅街だかんな。フレンチやイタリアンが週ニで喰い放題よ。 それにセミってヤツは、土中生活はおっそろしく長いのに、空飛べるのは七日しかないんだよな。 かっわいそーで喰えねぇよ!」
あっしは落胆してしまいやした。
そして六日目ーーー
ミーーン ミンミンミンミン、、、
鳴くよりもっとめんどい生殖活動をしなければならない日がやって来やした。
「アナタの声ってステキ! グッときちゃった!」
道を挟んだ一戸建ての庭の木からやってきたメスゼミでやした。
とっととセミに与えられた義務を果たせばそれでいいんだと、あっしはそのメスゼミと、チャチャッとコトを済ませやした。
愛などみぢんも無い、単に本能に押し流されただけの、性欲の放出でやした。
あっしは、ウットリと動かなくなったメスゼミを後に、マンションの前の舗道にせり出したムクゲの木に 飛び移りやした。
七日目ーーー
長く辛い七日間でやしたが、これでようやっと地上とオサラバできると思うと、嬉しくて嬉しくて ほくそ笑まずにおれやせんでやした。
ああ!それにしても、何と辛くて長い七日間だったことか!!
思い返すのは、アッ!という間に過ぎていった 充実し幸せだった土中の七年間のことばかりでやす。
その日の暮れ方ーーー
あっしの脚力は弱まり、ムクゲの木から ポトリと落ちやした。
そして、腹を上に舗道に転がり、無意識に腹筋が小さく ジジ、、、ジジ、、、と鳴りやした。
いつの間にか 老人達五人組が、あっしを囲み 見下ろしてやした。
「あらぁ、このセミ、死にかけてるわぁ」
「セミは、たったの七日間しか生きられないからなあ」
「真っ暗な土の中では七年もの間、耐え忍ばなきゃならないのにね」
「ほんとうに可哀想な生き物だなあ」
「ほんとほんと、悲しくなっちゃうわ。 私達は七十年以上も生きてるっていうのにねぇ」
ナンマイダァ ナンマイダァ、、、
老人五人組は、あっしの上で しわくちゃの手を合わせやした。
あっしは、腹筋がのジジ、、、が、だんだんと消えゆかんとするのを覚えやした。
老人達の十本の手が、ぼんやりとしてきやした。
こうして、あっしがセミだった頃の生は了りやした。
ぼんぼち版・みにくいアヒルの子 [小説]
「こ・・・これがあっし?」
公園の池の水面に映っていたのは、それまでの はきだめのホコリ玉のような 汚らしくみすぼらしい鳥ではなく、雪のように白くツヤツヤとした羽毛に包まれた 細くたおやかな長い首の それはそれは美しい鳥でやした。
「こっ・・・こっ・・・これがあっし?」
あっしは目前の美鳥があっしだとは信じられなく、様々な物に己れの姿を映してみやした。
ソフトクリームの売店の窓に、水生生物館の外壁のガラスに、ホットドックのミニトラックのフロントガラスに・・・・
まぎれもなく そこにいるのは美しいあっしでやす。 どの角度から観ても どんな表情をしても、一分のスキもなく美しい。
あっしは夢ごこちで、スイスイと池中を泳ぎ トテトテと公園中を歩きまわりやした。
「あぁ!なんて美しい鳥なんだ! こんな美しい鳥 観たことない!!」
葦がソヨソヨと揺れながらつぶやきやした。
「美しい鳥さんよ! オイラの演奏を聴いておくれよ!!」
キリギリスが自慢の羽をこすり合わせやした。
「ご主人様、ちょっと待ってくだせぇ! あの美しい鳥どのをもぅ少し観ていとぅございます!!」
柴犬が、グイグイ引っ張られる首輪に逆らい、あっしの方に近づこうとしやした。
あっしは、「美しい」ということは なんて気持ちが良く爽快で幸福なのだろう!と、生まれて初めての感情でいっぱいになりやした。
「美しさバンザイ!!!」
白い羽をパタパタとやり 長い首を天に向け、魂の底から叫びやした。
美しい鳥となったあっしは、公園中のありとあらゆる生物から 羨望され称賛を浴びちやほやされやした。
美しいという理由で、とびきり美味しい食べ物を優先的にゆずり受け 眠り心地の良い場所を密かに教えてもらい たくさんの花をプレゼントされやした。
あっしは、甘露の日々に有頂天になりやした。
ある日-----
橋から投げられたビスケットを 一羽の鵜と並んでほおばっていた時のことでやす。
大きな真鯉がゴボリと顔を出すや、あっしの美しさを誉めちぎりやした。
そして、隣の鵜を見やり こう吐きやした。
「それに比べてこっちはねー」
わざとらしくプッ!と吹き出し、丸い口を腹中が覗けるほどに大きく開け ブホブホと笑いやした。
「コールタールみたいにどす黒くて おまけにクチバシが鉤みたいに曲ってらぁ!」
あっしは勝利感で鼻高々でやした。
----そうだよ、鳥っていうのは美しくてこそ価値があるんだよ!
ニヤリと笑って どす黒いコールタールを横目で見やした。
しかし・・・・・
同時にあっしは、半年前のある出来事を思い出さないわけにはいきやせんでやした。
あっしはボート乗り場の淵で、カワセミと日光浴をしてやした。
ヤモリが走り来るや、こう発して チケット売り場の裏にスルリと身を隠しやした。
「わぉ!なんて美しい青い羽なんだ!! それに比べてこっちは・・・・ププッ!まるで屋根裏のホコリ玉じゃないか!!」
あの時の屈辱は、あっしの心の奥深くにシミのようにこびりついてやす。
カワセミは、ちょっと軽薄なところのある どうも尊敬に値する性格の持ち主ではありやせんでやした。
あっしのほうが、よほど考え深く 日々学習を怠らないまっとうな鳥でやした。
それなのに、見た目だけで それがその鳥の本質であるかのように判断されたのでやす。
同じに、鵜は、あっしなんぞより遥かに 優しさに溢れる思いやりのあるいいヤツなのでやす。
それなのに・・・・・
あっしの内で二つの考えが対立しやした。
「鳥というものは、美しいことにこそ存在価値を認められるものなのだ。 そういった価値基準を持っている世の中は正しいのだ」という考えと、「美しさがいったい何だというのだ?! そのモノの本質とは何ら関係のない単なる器であり、それは馬鹿げた間違った見解じゃないか!」という考え。
あっしの内部は、両極に引き裂かれてゆきやした。
もしも羽毛をクチバシでボロボロにちぎり泥浴びをしたら、あっしの美しさは失われ またみにくい鳥に舞い戻りやす。
そうしたら問題は解決するのか??
----否、事はそんなに単純ではないのでやす。
何故なら、もはやあっしは、「美しさ」というものに 魔薬にからめ捕られるが如くに支配されてしまったからでやす。
「美しい」と賛美されること無しには、あっしはもう 生きてゆけなくなってしまったのでやす。
これまで みにくいみにくいと嘲笑され、辛い苦しいともがきながらも生きてこられたのは、美しくなってからの「甘露」を知らなかったからでやす。
漠然と「鳥と生まれたモノ全員が多かれ少なかれ受ける」と思い込んでいた蔑みの扱いも、全てはあっしがみにくかった故なのだ、美しい鳥はそんなところまでちやほやされるのだ、とハッキリと突きつけられたからでやす。
あっしは美しくなったことによって初めて、過去の自分がどれほどみにくかったかを 克明に思い知らされたのでやす。
再びみにくい鳥となるくらいなら 死んだほうがマシでやす!!!
けれど、「美しいこと」のみを肯定して生きるとしたら、あっしの過去は、あっしの必死に小さなクチバシをくいしばって生きてきた過去は、全否定されることとなりやす。 あれほど耐え忍んで頑張ってきた過去全てが。
この二律背反は、両方を身を以って体験した鳥にしか 決して解らないでやしょう。
一生を通じてみにくい鳥は、美しいモノだけが与えられる甘露を曖昧な観念としてしか想像できないがために 知らぬが仏で生き続け、生まれた時から美しい鳥は、美しいということが余りに身近なために 美しさに対する執着がないのでやす。
ここまで美しさに捉われてしまうのは、双方を細胞の一つ一つで解り知ったがためなのでやす。
----あっしの内部は、これが同一生物の精神の内なのか???というほどに分裂してゆきやした。
あっしはもぅメチャクチャでやした。
カエルの音楽会に出掛けては、わざとそっぽを向いて聴いてないポーズをとり カエルの心を踏みにじりやした。
カモの集会に割り込み、水をビシャビシャ跳ね飛ばしながらギャーギャー妨害しやした。
餌場に置かれた野菜を蹴散らし、穏やかに午食を楽しんでいる生物らを追っ払いやした。
カメラを構えていた人間達が、目を丸くして口々に言いやした。
「白鳥って、とびきり綺麗なのに なんであんなに凶暴なんだろーね!?」
公園の池の水面に映っていたのは、それまでの はきだめのホコリ玉のような 汚らしくみすぼらしい鳥ではなく、雪のように白くツヤツヤとした羽毛に包まれた 細くたおやかな長い首の それはそれは美しい鳥でやした。
「こっ・・・こっ・・・これがあっし?」
あっしは目前の美鳥があっしだとは信じられなく、様々な物に己れの姿を映してみやした。
ソフトクリームの売店の窓に、水生生物館の外壁のガラスに、ホットドックのミニトラックのフロントガラスに・・・・
まぎれもなく そこにいるのは美しいあっしでやす。 どの角度から観ても どんな表情をしても、一分のスキもなく美しい。
あっしは夢ごこちで、スイスイと池中を泳ぎ トテトテと公園中を歩きまわりやした。
「あぁ!なんて美しい鳥なんだ! こんな美しい鳥 観たことない!!」
葦がソヨソヨと揺れながらつぶやきやした。
「美しい鳥さんよ! オイラの演奏を聴いておくれよ!!」
キリギリスが自慢の羽をこすり合わせやした。
「ご主人様、ちょっと待ってくだせぇ! あの美しい鳥どのをもぅ少し観ていとぅございます!!」
柴犬が、グイグイ引っ張られる首輪に逆らい、あっしの方に近づこうとしやした。
あっしは、「美しい」ということは なんて気持ちが良く爽快で幸福なのだろう!と、生まれて初めての感情でいっぱいになりやした。
「美しさバンザイ!!!」
白い羽をパタパタとやり 長い首を天に向け、魂の底から叫びやした。
美しい鳥となったあっしは、公園中のありとあらゆる生物から 羨望され称賛を浴びちやほやされやした。
美しいという理由で、とびきり美味しい食べ物を優先的にゆずり受け 眠り心地の良い場所を密かに教えてもらい たくさんの花をプレゼントされやした。
あっしは、甘露の日々に有頂天になりやした。
ある日-----
橋から投げられたビスケットを 一羽の鵜と並んでほおばっていた時のことでやす。
大きな真鯉がゴボリと顔を出すや、あっしの美しさを誉めちぎりやした。
そして、隣の鵜を見やり こう吐きやした。
「それに比べてこっちはねー」
わざとらしくプッ!と吹き出し、丸い口を腹中が覗けるほどに大きく開け ブホブホと笑いやした。
「コールタールみたいにどす黒くて おまけにクチバシが鉤みたいに曲ってらぁ!」
あっしは勝利感で鼻高々でやした。
----そうだよ、鳥っていうのは美しくてこそ価値があるんだよ!
ニヤリと笑って どす黒いコールタールを横目で見やした。
しかし・・・・・
同時にあっしは、半年前のある出来事を思い出さないわけにはいきやせんでやした。
あっしはボート乗り場の淵で、カワセミと日光浴をしてやした。
ヤモリが走り来るや、こう発して チケット売り場の裏にスルリと身を隠しやした。
「わぉ!なんて美しい青い羽なんだ!! それに比べてこっちは・・・・ププッ!まるで屋根裏のホコリ玉じゃないか!!」
あの時の屈辱は、あっしの心の奥深くにシミのようにこびりついてやす。
カワセミは、ちょっと軽薄なところのある どうも尊敬に値する性格の持ち主ではありやせんでやした。
あっしのほうが、よほど考え深く 日々学習を怠らないまっとうな鳥でやした。
それなのに、見た目だけで それがその鳥の本質であるかのように判断されたのでやす。
同じに、鵜は、あっしなんぞより遥かに 優しさに溢れる思いやりのあるいいヤツなのでやす。
それなのに・・・・・
あっしの内で二つの考えが対立しやした。
「鳥というものは、美しいことにこそ存在価値を認められるものなのだ。 そういった価値基準を持っている世の中は正しいのだ」という考えと、「美しさがいったい何だというのだ?! そのモノの本質とは何ら関係のない単なる器であり、それは馬鹿げた間違った見解じゃないか!」という考え。
あっしの内部は、両極に引き裂かれてゆきやした。
もしも羽毛をクチバシでボロボロにちぎり泥浴びをしたら、あっしの美しさは失われ またみにくい鳥に舞い戻りやす。
そうしたら問題は解決するのか??
----否、事はそんなに単純ではないのでやす。
何故なら、もはやあっしは、「美しさ」というものに 魔薬にからめ捕られるが如くに支配されてしまったからでやす。
「美しい」と賛美されること無しには、あっしはもう 生きてゆけなくなってしまったのでやす。
これまで みにくいみにくいと嘲笑され、辛い苦しいともがきながらも生きてこられたのは、美しくなってからの「甘露」を知らなかったからでやす。
漠然と「鳥と生まれたモノ全員が多かれ少なかれ受ける」と思い込んでいた蔑みの扱いも、全てはあっしがみにくかった故なのだ、美しい鳥はそんなところまでちやほやされるのだ、とハッキリと突きつけられたからでやす。
あっしは美しくなったことによって初めて、過去の自分がどれほどみにくかったかを 克明に思い知らされたのでやす。
再びみにくい鳥となるくらいなら 死んだほうがマシでやす!!!
けれど、「美しいこと」のみを肯定して生きるとしたら、あっしの過去は、あっしの必死に小さなクチバシをくいしばって生きてきた過去は、全否定されることとなりやす。 あれほど耐え忍んで頑張ってきた過去全てが。
この二律背反は、両方を身を以って体験した鳥にしか 決して解らないでやしょう。
一生を通じてみにくい鳥は、美しいモノだけが与えられる甘露を曖昧な観念としてしか想像できないがために 知らぬが仏で生き続け、生まれた時から美しい鳥は、美しいということが余りに身近なために 美しさに対する執着がないのでやす。
ここまで美しさに捉われてしまうのは、双方を細胞の一つ一つで解り知ったがためなのでやす。
----あっしの内部は、これが同一生物の精神の内なのか???というほどに分裂してゆきやした。
あっしはもぅメチャクチャでやした。
カエルの音楽会に出掛けては、わざとそっぽを向いて聴いてないポーズをとり カエルの心を踏みにじりやした。
カモの集会に割り込み、水をビシャビシャ跳ね飛ばしながらギャーギャー妨害しやした。
餌場に置かれた野菜を蹴散らし、穏やかに午食を楽しんでいる生物らを追っ払いやした。
カメラを構えていた人間達が、目を丸くして口々に言いやした。
「白鳥って、とびきり綺麗なのに なんであんなに凶暴なんだろーね!?」
タグ:みにくいアヒルの子
ぼんぼち版・うさぎとかめ [小説]
へろり~へろへろりょぉ~ぉ~
小高い丘から草っ原に、今日も、いつも通りに 当たり前に、生温かぁい風が吹きおろしてやした。
こっくりこくりと居眠りをするうさぎを横目に、一匹のかめが、必死の形相で 追いつき追い越し、丘のてっぺんを目指しておりやした。
息は切れ切れに、四本の足の爪は割れ 血がにじんでやす。
丘のてっぺんにたどり着きやした。
と---、いつか目を覚ましたうさぎも、えへへと頭をかきかき ぺろりと舌を出しながら、いっそくとびに丘に登りつめ、ほぼ同時に ひょいと かめと並んで立ちやした。
が、そこには、遥かずぅっと以前から 着いていた者がありやす。
居眠りをしたうさぎとは別のうさぎでやす。
そのうさぎは、切れた息をととのえつつ 四本の足ににじむ血を舐め、ま白い耳の間には 一等を勝ち得た者にのみ与えられる白つめ草の王冠を乗せてやす。
そして、草っ原の彼方彼方のほうには----
ずんぐりと 黒い石のようなものがありやした。
別のかめでやした。
そのかめは 居眠りをしていたので、いつまでもいつまでも丘から遠ぉく離れた場所に ぽつねんとおりやした。
へろり~へろへろりょぉ~ぉ~
小高い丘から草っ原に、今日も、いつも通りに 当たり前に、生温かぁい風が吹きおろしてやした。
小高い丘から草っ原に、今日も、いつも通りに 当たり前に、生温かぁい風が吹きおろしてやした。
こっくりこくりと居眠りをするうさぎを横目に、一匹のかめが、必死の形相で 追いつき追い越し、丘のてっぺんを目指しておりやした。
息は切れ切れに、四本の足の爪は割れ 血がにじんでやす。
丘のてっぺんにたどり着きやした。
と---、いつか目を覚ましたうさぎも、えへへと頭をかきかき ぺろりと舌を出しながら、いっそくとびに丘に登りつめ、ほぼ同時に ひょいと かめと並んで立ちやした。
が、そこには、遥かずぅっと以前から 着いていた者がありやす。
居眠りをしたうさぎとは別のうさぎでやす。
そのうさぎは、切れた息をととのえつつ 四本の足ににじむ血を舐め、ま白い耳の間には 一等を勝ち得た者にのみ与えられる白つめ草の王冠を乗せてやす。
そして、草っ原の彼方彼方のほうには----
ずんぐりと 黒い石のようなものがありやした。
別のかめでやした。
そのかめは 居眠りをしていたので、いつまでもいつまでも丘から遠ぉく離れた場所に ぽつねんとおりやした。
へろり~へろへろりょぉ~ぉ~
小高い丘から草っ原に、今日も、いつも通りに 当たり前に、生温かぁい風が吹きおろしてやした。
タグ:うさぎとかめ
あっしが雫だったころ [小説]
あっしは、ただ ひたすらに 落下してやした。
この地球(ほし)の重力に逆らうことなく、------いえ、逆らおうにも、ここが地球である以上 逆らえるはずもなく------ただただ 落下してやした。
-------これは、あっしが前世で 雫だったころのお話でやす。
夜更けの都市に静かに降る 雨の雫の一粒だったころのお話でやす。
あっしは、いつ どんな形でもって 雫であることの生を了えるのだろう?
雫である生を こうして 一瞬一瞬ちぢめながら 自問してやした。
誰れも上ることのない 古い小さなビルの屋上の空調の機械の脇に 音もなく砕けるのか、客がつかまらずに彷徨するタクシーのフロントガラスに丸く落ちるや ついとワイパーに拭い去られてしまうのか、アスファルトの引き立ての白線を より白々と光らせ流れるのか・・・・
いずれにしろ、あっしも あっしの他の雫達も、いつかは この 周囲の世界を逆さに膨らまし映す身を 必ず了えるのでやす。
未来永劫 永遠不滅の雫など、ここが重力ある地球であるかぎり ありえないのでやすから。
------夜更けの都市上空に雫として生を受けたことは けっこう幸せだったんじゃないか?
あっしは、少しづつ 生の了りに近づきながら思いやした。
何故なら、眼下に惜しげもなく広がるまばゆい銀河をこの身に映せることは、雫として、理屈抜きに 享しく 心地よく ハッピーだったからでやす。
雫仲間には、「都市の銀河なんてものは 所詮は まがいものなんだよ」と、したり顔で眉をひそめる者もおりやした。
確かに それが本当かも知れやせん。
けど、あっしは、この銀河が何より好きでやした。
この銀河の輝きを満喫し、全身に映し出すことより気持ちのいいことなんて 雫として他にないんじゃないか とすら感じてやした。
あっしがここ以外の世界を知らなかったからかも知れやせん。
きっと そうだからでやしょう。
でも、あっしは、それでかまわないと思いやした。
まがいものの銀河しか知らずに まがいものの銀河を美しいと感じ まがいものの銀河を全身に映して了える一生も、あっし自身が満足なら それでいいじゃないでやすか。
あっしは、一瞬でも永く 都市銀河を映し享しみたいと願ってやす。
そして、紡錘型の身体が崩れる一刹那は、身いっぱいに銀河をキラキラと映し 綺麗なものの上に 酔いとろけ果てたいと祈ってやす。
まだ空高くいるうちに 運悪く ヘリコプターの羽に砕け散るのだけは辛すぎやす。
現に、あっしのすぐ下に、濁音に打ち砕かれ 地上にはまだまだなのに 雫であることを了えた 悲しい仲間の一群が見えやす。
地上まで辿り着けたとしても、最期にこの身に映るのが、玉子のカラや歯型にえぐれたハンバーガーの腐りながら詰まるゴミ袋だったり、安風俗店のピンクと黄色のひび割れた看板だったら、吐き気にもがき苦しみそうでやす。
都市銀河上空に生を受け、きらめきを映し享しめる----ということは、逆を返せば、そんなものの上に生を了える可能性も十二分にありうる ということでやす。
どこに落ちるか、あっし自身には選択権はありやせん。
小粋なカフェの窓に 銀色のエスプレッソマシーンを覗きながら ガラスに儚い草を一すじ描いて果てることができるか・・・と思いきや、無情な風に 道の向かい側の浮浪者の集め積んだ古週刊誌の山に飛ばされ どろりと滲んでしまうかも知れず、あるいは また・・・・
あっしは、ぐんぐん落下しながら 自問しやした。
あっしは、いつ どんな形で 雫としての生を了えるのだろう?
自問したところで、落下の距離が長くなるわけでも 綺麗なものの上に落下できるわけでもないのに、それでも 自問せずにはおれやせんでやした。
あっしは、いつ どんな・・・・
この地球(ほし)の重力に逆らうことなく、------いえ、逆らおうにも、ここが地球である以上 逆らえるはずもなく------ただただ 落下してやした。
-------これは、あっしが前世で 雫だったころのお話でやす。
夜更けの都市に静かに降る 雨の雫の一粒だったころのお話でやす。
あっしは、いつ どんな形でもって 雫であることの生を了えるのだろう?
雫である生を こうして 一瞬一瞬ちぢめながら 自問してやした。
誰れも上ることのない 古い小さなビルの屋上の空調の機械の脇に 音もなく砕けるのか、客がつかまらずに彷徨するタクシーのフロントガラスに丸く落ちるや ついとワイパーに拭い去られてしまうのか、アスファルトの引き立ての白線を より白々と光らせ流れるのか・・・・
いずれにしろ、あっしも あっしの他の雫達も、いつかは この 周囲の世界を逆さに膨らまし映す身を 必ず了えるのでやす。
未来永劫 永遠不滅の雫など、ここが重力ある地球であるかぎり ありえないのでやすから。
------夜更けの都市上空に雫として生を受けたことは けっこう幸せだったんじゃないか?
あっしは、少しづつ 生の了りに近づきながら思いやした。
何故なら、眼下に惜しげもなく広がるまばゆい銀河をこの身に映せることは、雫として、理屈抜きに 享しく 心地よく ハッピーだったからでやす。
雫仲間には、「都市の銀河なんてものは 所詮は まがいものなんだよ」と、したり顔で眉をひそめる者もおりやした。
確かに それが本当かも知れやせん。
けど、あっしは、この銀河が何より好きでやした。
この銀河の輝きを満喫し、全身に映し出すことより気持ちのいいことなんて 雫として他にないんじゃないか とすら感じてやした。
あっしがここ以外の世界を知らなかったからかも知れやせん。
きっと そうだからでやしょう。
でも、あっしは、それでかまわないと思いやした。
まがいものの銀河しか知らずに まがいものの銀河を美しいと感じ まがいものの銀河を全身に映して了える一生も、あっし自身が満足なら それでいいじゃないでやすか。
あっしは、一瞬でも永く 都市銀河を映し享しみたいと願ってやす。
そして、紡錘型の身体が崩れる一刹那は、身いっぱいに銀河をキラキラと映し 綺麗なものの上に 酔いとろけ果てたいと祈ってやす。
まだ空高くいるうちに 運悪く ヘリコプターの羽に砕け散るのだけは辛すぎやす。
現に、あっしのすぐ下に、濁音に打ち砕かれ 地上にはまだまだなのに 雫であることを了えた 悲しい仲間の一群が見えやす。
地上まで辿り着けたとしても、最期にこの身に映るのが、玉子のカラや歯型にえぐれたハンバーガーの腐りながら詰まるゴミ袋だったり、安風俗店のピンクと黄色のひび割れた看板だったら、吐き気にもがき苦しみそうでやす。
都市銀河上空に生を受け、きらめきを映し享しめる----ということは、逆を返せば、そんなものの上に生を了える可能性も十二分にありうる ということでやす。
どこに落ちるか、あっし自身には選択権はありやせん。
小粋なカフェの窓に 銀色のエスプレッソマシーンを覗きながら ガラスに儚い草を一すじ描いて果てることができるか・・・と思いきや、無情な風に 道の向かい側の浮浪者の集め積んだ古週刊誌の山に飛ばされ どろりと滲んでしまうかも知れず、あるいは また・・・・
あっしは、ぐんぐん落下しながら 自問しやした。
あっしは、いつ どんな形で 雫としての生を了えるのだろう?
自問したところで、落下の距離が長くなるわけでも 綺麗なものの上に落下できるわけでもないのに、それでも 自問せずにはおれやせんでやした。
あっしは、いつ どんな・・・・
あっしが隕石だったころ [小説]
大気圏をくぐり抜ける一刹那 意識を失ったあっしは、再び 内なるまなこをカッ!と見開き、目前のちっぽけな青き星に ぐんぐん突進してゆきやした。
--------これは、あっしが前世で 隕石だったころのお話でやす。
ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!
あっしは 星深くにめり込み、星の地殻は津波のようにめくれ、地殻津波は 今しがたあっしが通過した大気圏を突き破り、再度 地上に あまたの岩石の矢と降りささりやす。
星は、あっしの落下エネルギーのもたらした灼熱の大気におおわれ、豊かな星中の水分は沸騰し みる間に一滴残らず干上がり、そして 星全体は メラメラと炎に包まれ ありとあらゆる生命体は焼け溶け、星そのものが マグマさながらに真っ赤にドロドロと渦巻きやす。
その後。
星は冷え、雨が降り続き------
青き星の歴史は もっかいゼロから始められるのでやす。
星々またたく宇宙空間を、隕石以前のあっしは こう 我が内側にシュミレーションしながら飛んでおりやした。
遥か先にポツンと見える 笑ってしまうくらいちっぽけな青い星に向かって。
これから必然的に起こる ちっぽけ星の災難を ちぃとだけ憂いてさし上げながら。
しかし、ここで遭ったが百光年目、あっしに選ばれたからには もう覚悟を決めるしかありやせん。
あっしは、そんじょそこいらにゴマンと降るチリのような隕石とは わけが違うのでやすから。
あっしこそが、隕石というものの破壊力の何たるかを知らしめることのできる 類い稀なる 宇宙より選ばれし存在なのでやす。
あっしは、己れの飛ぶ意志のみならず、何か大きな見えざる力によっても かの星に引き寄せられてゆくのを、黒に近い灰色でちょっとゴツゴツしたこの身すべてに感じていやした。
あっしがあの星の歴史を塗り替えるのは、運命・・・否、宇宙より与えられた 使命なのでやす!
あっしが あの星の歴史を変えねばならないのでやす!!
星の新たな歴史を 創世させねばならないのでやす!!!
そうこう思ううちにも、ちっぽけ青星は ぐんぐん近づいてきやした。
想定してたほどちっぽけじゃなさそうで ぶつかり甲斐があるな! と ふふんと笑いやした。
なかなか手ごたえがありそうで楽しめるな! と うなづきやした。
ちっぽけでも・・・・ない かな・・・・と 我が内の首を ちと傾がせやした。
けど、この あっしにかかったら・・・・
大気圏突入ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
意識を取り戻したあっしは、きょろきょろと辺りを見まわしやした。
あっしの周囲には、あっしと同じように 黒に近い灰色でちょっとゴツゴツした しかも大きさまであっしと同じくらいのが びっしり 諦めたような面持ちで どんよりと うち沈んでいやす。
-----------・・・・・・・・・・・・・・あれ?
視線を ぐっと上方に向けると------
何か 赤くてとんがった三角が いくつもそびえ立ち、黒と黄のしましまの横に長いものが あっしらを囲んでやす。
------------・・・・・・・は?
「砂利 敷き終わっだなーーーー、んなら いーーーぐでーーーーー」
-----------・・・えっっっっ?!
真っ黒なドロリとしたものが、熱とへんな匂いを発しながら、あっしらの上に ドローーーと かぶさりやした。
ド・ド・ド・ド・ド・ドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・
何か面状のもので押さえ叩かれ、あっしは 元からここにいたあっしそっくりな奴らと一緒くたに、完全に 真っ黒なドロリに覆いつくされやした。
---------・・・・・・な、な、なーーーーんだ、あっしのシュミレーションしてたより 想定外に 遥かに 大爆笑しちまうほどちっぽけな星だったんでやすなぁ。 こんなんじゃ、あっしのエネルギーをちぃとでも使うの 勿体無いでやすよ、馬鹿馬鹿しい・・・は・は・は・は・は・はははははははははは・・・・・
「よっしゃーーー、冷えるまんで メシ 行ーーぐかーーー」
「俺、マーボラーメン食いてぇ」
「自分、カツカレーがいいっす」
「んなら 昨日と同じ おかめ食堂だなやぁ」
----------ははははははははははは・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・
プァップァー
チリンチリン
ブッブッブーーー
--------これは、あっしが前世で 隕石だったころのお話でやす。
ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!
あっしは 星深くにめり込み、星の地殻は津波のようにめくれ、地殻津波は 今しがたあっしが通過した大気圏を突き破り、再度 地上に あまたの岩石の矢と降りささりやす。
星は、あっしの落下エネルギーのもたらした灼熱の大気におおわれ、豊かな星中の水分は沸騰し みる間に一滴残らず干上がり、そして 星全体は メラメラと炎に包まれ ありとあらゆる生命体は焼け溶け、星そのものが マグマさながらに真っ赤にドロドロと渦巻きやす。
その後。
星は冷え、雨が降り続き------
青き星の歴史は もっかいゼロから始められるのでやす。
星々またたく宇宙空間を、隕石以前のあっしは こう 我が内側にシュミレーションしながら飛んでおりやした。
遥か先にポツンと見える 笑ってしまうくらいちっぽけな青い星に向かって。
これから必然的に起こる ちっぽけ星の災難を ちぃとだけ憂いてさし上げながら。
しかし、ここで遭ったが百光年目、あっしに選ばれたからには もう覚悟を決めるしかありやせん。
あっしは、そんじょそこいらにゴマンと降るチリのような隕石とは わけが違うのでやすから。
あっしこそが、隕石というものの破壊力の何たるかを知らしめることのできる 類い稀なる 宇宙より選ばれし存在なのでやす。
あっしは、己れの飛ぶ意志のみならず、何か大きな見えざる力によっても かの星に引き寄せられてゆくのを、黒に近い灰色でちょっとゴツゴツしたこの身すべてに感じていやした。
あっしがあの星の歴史を塗り替えるのは、運命・・・否、宇宙より与えられた 使命なのでやす!
あっしが あの星の歴史を変えねばならないのでやす!!
星の新たな歴史を 創世させねばならないのでやす!!!
そうこう思ううちにも、ちっぽけ青星は ぐんぐん近づいてきやした。
想定してたほどちっぽけじゃなさそうで ぶつかり甲斐があるな! と ふふんと笑いやした。
なかなか手ごたえがありそうで楽しめるな! と うなづきやした。
ちっぽけでも・・・・ない かな・・・・と 我が内の首を ちと傾がせやした。
けど、この あっしにかかったら・・・・
大気圏突入ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
意識を取り戻したあっしは、きょろきょろと辺りを見まわしやした。
あっしの周囲には、あっしと同じように 黒に近い灰色でちょっとゴツゴツした しかも大きさまであっしと同じくらいのが びっしり 諦めたような面持ちで どんよりと うち沈んでいやす。
-----------・・・・・・・・・・・・・・あれ?
視線を ぐっと上方に向けると------
何か 赤くてとんがった三角が いくつもそびえ立ち、黒と黄のしましまの横に長いものが あっしらを囲んでやす。
------------・・・・・・・は?
「砂利 敷き終わっだなーーーー、んなら いーーーぐでーーーーー」
-----------・・・えっっっっ?!
真っ黒なドロリとしたものが、熱とへんな匂いを発しながら、あっしらの上に ドローーーと かぶさりやした。
ド・ド・ド・ド・ド・ドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・
何か面状のもので押さえ叩かれ、あっしは 元からここにいたあっしそっくりな奴らと一緒くたに、完全に 真っ黒なドロリに覆いつくされやした。
---------・・・・・・な、な、なーーーーんだ、あっしのシュミレーションしてたより 想定外に 遥かに 大爆笑しちまうほどちっぽけな星だったんでやすなぁ。 こんなんじゃ、あっしのエネルギーをちぃとでも使うの 勿体無いでやすよ、馬鹿馬鹿しい・・・は・は・は・は・は・はははははははははは・・・・・
「よっしゃーーー、冷えるまんで メシ 行ーーぐかーーー」
「俺、マーボラーメン食いてぇ」
「自分、カツカレーがいいっす」
「んなら 昨日と同じ おかめ食堂だなやぁ」
----------ははははははははははは・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・
プァップァー
チリンチリン
ブッブッブーーー
あっしがモンシロチョウだったころ [小説]
長々と白く 30と書かれているアスファルトの上 1.5メートルの高さを、あっしは ハタハタと横断しておりやした。
羽化したあっしは、あっしの生まれ育った区民第二農園から 隣の区民第一農園を、ただひたすらに 一心に 目指し翔んでおりやした。
------そう、これは、前世で あっしがモンシロチョウだったころのお話でやす。
あっしは 青虫の一齢幼虫だったころ----モンシロチョウの青虫というのは、四回ほどの脱皮を繰り返して成長し、一齢幼虫から五齢幼虫までと呼称も変わるのでやす-----あっしは、他の青虫達と同じ ごく普通の ありふれた青虫の一匹だと思っておりやした。
先っちょのチリチリと波打つ黄色味の強い若草色の葉っぱの苦さを 何の疑問も抱かずに 毎日シャクシャクと味わっておりやした。
そこが、あっしが 卵として産みつけられていた葉っぱだったからでやす。
そして、あっしは、これが「キャベツ」なのだと 何の疑いもなく信じておりやした。
何故なら モンシロチョウが生まれ育つ葉っぱは キャベツというものであり、又、あっしは、あっしが生まれた葉っぱ以外のことは何も知らなかったので、比較のしようもなかったのでやす。
しかし、あっしが生まれ 寝起きし 生命の糧としていたのは、「レタス」なのでやした。
二齢幼虫になり、同じ株内の別の葉へと渡り歩いたり 「し」の字のように伸び上がってみたりして あっしの世界が少し広がった時、周囲のさまざまな他の生物達により、それは まぎれもない事実であると知らされやした。
まだ一齢幼虫だった時にも それを教える二、三の者はおりやした。
しかし その頃は、そいつらのほうが間違った認識をしているのだ と 気にも留めやせんでやした。
が、多くの情報があっしの前に提示され、それら幾多の点と点を線でつなぎ合わせると、あっしが生まれ 日々シャクシャクと食んでいるのが キャベツではなくレタスであり、レタスの上に生まれ落ち レタスを生命の糧とするモンシロチョウの青虫など どこの畑にもいないくらい類い稀な存在であるのは ゆるぎない事実なのでやした。
あっしは ぼんやりと、レタスを短い両手に挟み抱えたまま、キャベツというものを一度味わってみたい と 漠然と 抽象的に夢想しやした。 素朴で ほんのり甘い と伝え聞くその味を。
日暮れて、若草色のすじに添って身を横たえ目を閉じると、あっしの身体中をキャベツの幻想がグルグルと渦巻き、その回転数は、日を追う毎に確実に加速してゆきやした。
素朴というのは一体何なのか、ほんのり甘いというのはどういう味なのか、キャベツに育ったモンシロチョウとあっしとは 何か違ったチョウになるのか、レタスに生まれたあっしは 果たして幸福なのか-------?
いつしか、あっしの中に、一齢幼虫のころには覚えなかった「欠落感」の如きものが 小さな虫食い穴のように ポツンと空いているのを自覚しやした。
それは、キャベツに執着し始めた為に あっしの過剰な神経が空けてしまった自分の意識が原因のことなのか、本来食べるべきキャベツを食べていないことから生ずる栄養面での欠乏症状なのか、あるいは又、他に要因があるのか、あっし自身にも解りやせんでやした。
あっしは、今より歩幅も大きくなる三齢幼虫になったら 実際に キャベツというものの所まで行ってみよう と考えやした。 行って、素朴でほんのり甘いそれを パリパリと味わってみよう------と。
あっしは、新たな歩幅を形成する為の深い眠りにつきやした。
あっしは、区民第一農園ほぼ中央・二列の 青白い丸い連なりを見つめておりやした。
「し」の字に伸び上がって 三齢幼虫の青虫の目で、茫然と 見つめておりやした。
あっしの居る第二農園内には、キャべツは一株も無く、この付近には、白く30と書かれたアスファルト道路を挟んだ第一農園にあるだけだと知ったのでやす。
青虫にとって、車や自転車や人間の始終ゆき交うアスファルト道路を横断するなど、人間が小舟で太平洋を横断するも同然でやす。
生きて渡りきれる確率が限りなく0に等しいのは 火を見るより明らかでやす。
あっしの内の欠落感の虫食い穴は、ジワジワと より大きく広がってゆきやした。
辿り着くことの出来ないという思いは、すなわち、他のモンシロチョウとは違うのだ という負の感情を決定的なものにし、しかし、その負の感情は 何とかして解決せねば、虫食い穴は埋めてしまわなければ、自分の精神は 明日の方角を向くことは出来ないのでやした。
------そうだ! 成虫になったら、モンシロチョウになったら、キャベツまで翔んでゆこう!!
パリパリと齧ることは出来ないけれど、素朴でほんのりと甘い葉の汁を せめて存分に吸って味わおう!!! それがある!!! それしかない!!!
四齢幼虫、五齢幼虫と、毎日、あっしは脇目もふらずに 腹がはち切れるほどレタスを食みやした。
他のモンシロチョウの青虫が当たり前に食んでいるキャベツの素朴な甘さを思う度に ただただ苦く感じられるレタスを 挟み齧り続けやした。
成虫になって、キャベツの葉の汁を存分に味わう為に。
栄養不足で第一農園にたどり着けぬことのないように。
あっしの欠落感の虫食い穴は、あっしがレタスに空けた穴に匹敵して まます世界地図のように拡大してゆきやした。
こんなに大きなモンシロチョウの青虫はそういないと周りが驚くほどコロコロに育ったころ------
あっしは、レタスの列の脇ににやや斜めに立つ ひんやりとしたコンクリートの電柱の根元にピトリとくっつき、ひっそりと 蛹になりやした。
いよいよ、青白く連なるキャベツの列に、あっしは ハタハタと近づきやした。
キャベツの玉からは、あっしが蛹の間に、どれも まっすぐに天に向かって花芽が伸び、黄色い四枚の花弁を またたく星のように 数え切れぬほどつけてやした。
周囲には、おそらく このキャベツの列で育ったであろうモンシロチョウ達が、ヒラヒラと浮かれ踊っておりやした。
あっしは花には目もくれず、青白い葉っぱの一枚に向かいやした。
それから、スルスルとストローの口を伸ばし、葉に刺そうとしやした。
刺さりやせん。
何度やっても刺さりやせん。
なるべく柔らかそうな日陰の葉っぱに場所を変え やってみやした。
やっぱり刺さりやせん。
何度も何度もやってみやした。
しだいに、強く 叩きつけるように刺そうとしてみやした。
しかし、どうやったって、あっしのストローは ヘニャリと たよりなく折れるばかりでやした。
いつの間にか、踊りに興じていたモンシロチョウ達が、あっけにとられた風に、花や茎や葉の上に羽をたたみ、まん丸いチョウの目をよりまん丸にして あっしを遠まきに 見つめてやした。
あっしは 構わず叩きつけやした。
他のモンシロチョウ達にどう思われたって構わない と思いやした。
キャベツに生まれてキャベツに育ったモンシロチョウなんかに あっしの欠落感など解る訳はないのでやす。
確かに、あっしは、外見は キャベツのモンシロチョウと何ら変わるところのない いっぱしのモンシロチョウでやす。
しかし、あっしの内側は キャベツの葉の味を経験しないことには 青虫からモンシロチョウへと成長できないのでやす。 あっしは、いつまでたっても青虫のまんまなのでやす。
あっしは、あっしの全てがモンシロチョウにならなければ、モンシロチョウとしての一歩を踏み出すことはできないのでやす。
周りのモンシロチョウ達の誰からともなく 嘲笑がおこり、一羽、また一羽と、再びヒラヒラと舞い始めやした。
そして、花の蜜を酔いしれたように吸ったり、さっそく雌チョウを追いかけたり、雄チョウをじらすようにわざとゆっくりにユラユラと逃げたりしてやした。
あっしは ますます叩きつけやした。
全身の力で叩きつけやした。
命の全てを叩きつけやした。
いつしか、あっしのストローは、もはやストローの形状ではなく 竹箒のようにボロボロになってやした。
陽が傾き、辺りが薄紅色に染まる頃-----
あっしは 力尽きて ポトリと灰色に乾燥した土の上に落ちやした。
頭上のモンシロチョウ達は次々とペアになり、春のダンスは ますます 優雅に愉しげに 盛り上がっていってやした。
羽化したあっしは、あっしの生まれ育った区民第二農園から 隣の区民第一農園を、ただひたすらに 一心に 目指し翔んでおりやした。
------そう、これは、前世で あっしがモンシロチョウだったころのお話でやす。
あっしは 青虫の一齢幼虫だったころ----モンシロチョウの青虫というのは、四回ほどの脱皮を繰り返して成長し、一齢幼虫から五齢幼虫までと呼称も変わるのでやす-----あっしは、他の青虫達と同じ ごく普通の ありふれた青虫の一匹だと思っておりやした。
先っちょのチリチリと波打つ黄色味の強い若草色の葉っぱの苦さを 何の疑問も抱かずに 毎日シャクシャクと味わっておりやした。
そこが、あっしが 卵として産みつけられていた葉っぱだったからでやす。
そして、あっしは、これが「キャベツ」なのだと 何の疑いもなく信じておりやした。
何故なら モンシロチョウが生まれ育つ葉っぱは キャベツというものであり、又、あっしは、あっしが生まれた葉っぱ以外のことは何も知らなかったので、比較のしようもなかったのでやす。
しかし、あっしが生まれ 寝起きし 生命の糧としていたのは、「レタス」なのでやした。
二齢幼虫になり、同じ株内の別の葉へと渡り歩いたり 「し」の字のように伸び上がってみたりして あっしの世界が少し広がった時、周囲のさまざまな他の生物達により、それは まぎれもない事実であると知らされやした。
まだ一齢幼虫だった時にも それを教える二、三の者はおりやした。
しかし その頃は、そいつらのほうが間違った認識をしているのだ と 気にも留めやせんでやした。
が、多くの情報があっしの前に提示され、それら幾多の点と点を線でつなぎ合わせると、あっしが生まれ 日々シャクシャクと食んでいるのが キャベツではなくレタスであり、レタスの上に生まれ落ち レタスを生命の糧とするモンシロチョウの青虫など どこの畑にもいないくらい類い稀な存在であるのは ゆるぎない事実なのでやした。
あっしは ぼんやりと、レタスを短い両手に挟み抱えたまま、キャベツというものを一度味わってみたい と 漠然と 抽象的に夢想しやした。 素朴で ほんのり甘い と伝え聞くその味を。
日暮れて、若草色のすじに添って身を横たえ目を閉じると、あっしの身体中をキャベツの幻想がグルグルと渦巻き、その回転数は、日を追う毎に確実に加速してゆきやした。
素朴というのは一体何なのか、ほんのり甘いというのはどういう味なのか、キャベツに育ったモンシロチョウとあっしとは 何か違ったチョウになるのか、レタスに生まれたあっしは 果たして幸福なのか-------?
いつしか、あっしの中に、一齢幼虫のころには覚えなかった「欠落感」の如きものが 小さな虫食い穴のように ポツンと空いているのを自覚しやした。
それは、キャベツに執着し始めた為に あっしの過剰な神経が空けてしまった自分の意識が原因のことなのか、本来食べるべきキャベツを食べていないことから生ずる栄養面での欠乏症状なのか、あるいは又、他に要因があるのか、あっし自身にも解りやせんでやした。
あっしは、今より歩幅も大きくなる三齢幼虫になったら 実際に キャベツというものの所まで行ってみよう と考えやした。 行って、素朴でほんのり甘いそれを パリパリと味わってみよう------と。
あっしは、新たな歩幅を形成する為の深い眠りにつきやした。
あっしは、区民第一農園ほぼ中央・二列の 青白い丸い連なりを見つめておりやした。
「し」の字に伸び上がって 三齢幼虫の青虫の目で、茫然と 見つめておりやした。
あっしの居る第二農園内には、キャべツは一株も無く、この付近には、白く30と書かれたアスファルト道路を挟んだ第一農園にあるだけだと知ったのでやす。
青虫にとって、車や自転車や人間の始終ゆき交うアスファルト道路を横断するなど、人間が小舟で太平洋を横断するも同然でやす。
生きて渡りきれる確率が限りなく0に等しいのは 火を見るより明らかでやす。
あっしの内の欠落感の虫食い穴は、ジワジワと より大きく広がってゆきやした。
辿り着くことの出来ないという思いは、すなわち、他のモンシロチョウとは違うのだ という負の感情を決定的なものにし、しかし、その負の感情は 何とかして解決せねば、虫食い穴は埋めてしまわなければ、自分の精神は 明日の方角を向くことは出来ないのでやした。
------そうだ! 成虫になったら、モンシロチョウになったら、キャベツまで翔んでゆこう!!
パリパリと齧ることは出来ないけれど、素朴でほんのりと甘い葉の汁を せめて存分に吸って味わおう!!! それがある!!! それしかない!!!
四齢幼虫、五齢幼虫と、毎日、あっしは脇目もふらずに 腹がはち切れるほどレタスを食みやした。
他のモンシロチョウの青虫が当たり前に食んでいるキャベツの素朴な甘さを思う度に ただただ苦く感じられるレタスを 挟み齧り続けやした。
成虫になって、キャベツの葉の汁を存分に味わう為に。
栄養不足で第一農園にたどり着けぬことのないように。
あっしの欠落感の虫食い穴は、あっしがレタスに空けた穴に匹敵して まます世界地図のように拡大してゆきやした。
こんなに大きなモンシロチョウの青虫はそういないと周りが驚くほどコロコロに育ったころ------
あっしは、レタスの列の脇ににやや斜めに立つ ひんやりとしたコンクリートの電柱の根元にピトリとくっつき、ひっそりと 蛹になりやした。
いよいよ、青白く連なるキャベツの列に、あっしは ハタハタと近づきやした。
キャベツの玉からは、あっしが蛹の間に、どれも まっすぐに天に向かって花芽が伸び、黄色い四枚の花弁を またたく星のように 数え切れぬほどつけてやした。
周囲には、おそらく このキャベツの列で育ったであろうモンシロチョウ達が、ヒラヒラと浮かれ踊っておりやした。
あっしは花には目もくれず、青白い葉っぱの一枚に向かいやした。
それから、スルスルとストローの口を伸ばし、葉に刺そうとしやした。
刺さりやせん。
何度やっても刺さりやせん。
なるべく柔らかそうな日陰の葉っぱに場所を変え やってみやした。
やっぱり刺さりやせん。
何度も何度もやってみやした。
しだいに、強く 叩きつけるように刺そうとしてみやした。
しかし、どうやったって、あっしのストローは ヘニャリと たよりなく折れるばかりでやした。
いつの間にか、踊りに興じていたモンシロチョウ達が、あっけにとられた風に、花や茎や葉の上に羽をたたみ、まん丸いチョウの目をよりまん丸にして あっしを遠まきに 見つめてやした。
あっしは 構わず叩きつけやした。
他のモンシロチョウ達にどう思われたって構わない と思いやした。
キャベツに生まれてキャベツに育ったモンシロチョウなんかに あっしの欠落感など解る訳はないのでやす。
確かに、あっしは、外見は キャベツのモンシロチョウと何ら変わるところのない いっぱしのモンシロチョウでやす。
しかし、あっしの内側は キャベツの葉の味を経験しないことには 青虫からモンシロチョウへと成長できないのでやす。 あっしは、いつまでたっても青虫のまんまなのでやす。
あっしは、あっしの全てがモンシロチョウにならなければ、モンシロチョウとしての一歩を踏み出すことはできないのでやす。
周りのモンシロチョウ達の誰からともなく 嘲笑がおこり、一羽、また一羽と、再びヒラヒラと舞い始めやした。
そして、花の蜜を酔いしれたように吸ったり、さっそく雌チョウを追いかけたり、雄チョウをじらすようにわざとゆっくりにユラユラと逃げたりしてやした。
あっしは ますます叩きつけやした。
全身の力で叩きつけやした。
命の全てを叩きつけやした。
いつしか、あっしのストローは、もはやストローの形状ではなく 竹箒のようにボロボロになってやした。
陽が傾き、辺りが薄紅色に染まる頃-----
あっしは 力尽きて ポトリと灰色に乾燥した土の上に落ちやした。
頭上のモンシロチョウ達は次々とペアになり、春のダンスは ますます 優雅に愉しげに 盛り上がっていってやした。
タグ:モンシロチョウ
あっしがドロップだったころ [小説]
ばあさんの念仏が、どろどろどろどろと あっしの居る缶の中にも響いておりやした。
------これは、あっしが前世で ドロップだったころのお話でやす。
赤いイチゴと緑のメロンと薄紫のスモモと黄のレモンと白のハッカと一緒に 小さな四角い缶に雑居していた オレンヂ色のオレンヂ味のドロップの一つぶだったころのお話でやす。
「・・・・・オッデンヂッ オッデンヂッ」
坊やの声が近づいて、あっしの居る缶がコトリと揺らぎやした。
「オッデンヂッ オッデンヂッ」
カタカタと缶が振られ、パカッとフタが開けられやした。
レモンがころがり出てゆきやした。
「オッデンヂッ オッデンヂッ」
レモンは缶に戻され、再び あっしらはカタカタと振られやした。
今度はハッカがコロリと出やした。
「オッデンヂッ オッデンヂッ」
ハッカも戻され、やはりまた おみくじのようにカタカタされ、メロンが出ても イチゴが出ても スモモが出ても も一度ハッカが出ても、やはり 小さな指に入れ戻されてしまいやした。
こんなことは 大人が見ていたら許されないのでやしょうが、ばあさんの声は とぎれることなく ますますどろんどろんと 部屋中に響きわたっていたので、背ごしの坊やの行いになど まるきし気づきもしなかったのでやしょう。
「オッデンヂッ オッデンヂッ」
十ぺん以上繰り返された後、あっしがポロリと小さな掌の上にころがり落ちやした。
「オデンヂ-------!!」
坊やは あっしを口の中にポン!と放りこみ、縁側から庭へ駆けてゆきやした。
「クシャン!」
ほこりか 何かの花粉か はたまた夕の風にあたったためか、突然、坊やはくしゃみをしやした。
と、拍子に あっしは 坊やの口からポロリと飛び出し、鳳仙花の根元近くの土の上に投げ出されやした。
坊やは しばらく茫然とあっしを見おろしてやしたが、ふいにあっしを拾いあげると 庭の隅の水道のところに走りやした。
「オーデンヂィーー オーデンヂィーー」
あっしは 水道水をジャージャー浴びて、少ぅし小さくなりやした。
そしてまた、坊やの口の中におさまりやした。
「オッデンヂッ オッデンヂッ」
坊やは、少しづつ溶け出す とろりと甘くきゅっとすっぱいあっしを 溶けた分づつ飲み込むことはせず、ほっぺたの内側に貯めていってやした。
口中いっぱいに貯まりに貯まった すべてが液体になったあっしを 一気にゴクン!と飲み込むこを とっておきの享しみとして がまんしていたのでやしょう。
あっしのすべてがオレンヂ色のオレンヂ味の液体になろうというとき------
坊やのほっぺたよりも上あごのほうが ぐぅぅぅっと低く傾ぎやした。
おそらく、坊やは しゃがみこんで 股ぐらを覗きこむような姿勢になったのでやしょう。
と、思う間もなく-------
液体のあっしは、坊やの鼻の穴から つつーーーーーーーっと 一滴残らず垂れ流れ、蟻の巣の上に オレンヂ色の楕円の溜まりとなりやした。
そして、蟻達に、小さなオレンヂ色の水滴に分解され、土中に運ばれてゆきやした。
「あぁっっっ・・・オデンヂ・・・オデンヂ・・・・」
家の中からは、ばあさんの念仏が どろどろどろどろと続いておりやした。
------これは、あっしが前世で ドロップだったころのお話でやす。
赤いイチゴと緑のメロンと薄紫のスモモと黄のレモンと白のハッカと一緒に 小さな四角い缶に雑居していた オレンヂ色のオレンヂ味のドロップの一つぶだったころのお話でやす。
「・・・・・オッデンヂッ オッデンヂッ」
坊やの声が近づいて、あっしの居る缶がコトリと揺らぎやした。
「オッデンヂッ オッデンヂッ」
カタカタと缶が振られ、パカッとフタが開けられやした。
レモンがころがり出てゆきやした。
「オッデンヂッ オッデンヂッ」
レモンは缶に戻され、再び あっしらはカタカタと振られやした。
今度はハッカがコロリと出やした。
「オッデンヂッ オッデンヂッ」
ハッカも戻され、やはりまた おみくじのようにカタカタされ、メロンが出ても イチゴが出ても スモモが出ても も一度ハッカが出ても、やはり 小さな指に入れ戻されてしまいやした。
こんなことは 大人が見ていたら許されないのでやしょうが、ばあさんの声は とぎれることなく ますますどろんどろんと 部屋中に響きわたっていたので、背ごしの坊やの行いになど まるきし気づきもしなかったのでやしょう。
「オッデンヂッ オッデンヂッ」
十ぺん以上繰り返された後、あっしがポロリと小さな掌の上にころがり落ちやした。
「オデンヂ-------!!」
坊やは あっしを口の中にポン!と放りこみ、縁側から庭へ駆けてゆきやした。
「クシャン!」
ほこりか 何かの花粉か はたまた夕の風にあたったためか、突然、坊やはくしゃみをしやした。
と、拍子に あっしは 坊やの口からポロリと飛び出し、鳳仙花の根元近くの土の上に投げ出されやした。
坊やは しばらく茫然とあっしを見おろしてやしたが、ふいにあっしを拾いあげると 庭の隅の水道のところに走りやした。
「オーデンヂィーー オーデンヂィーー」
あっしは 水道水をジャージャー浴びて、少ぅし小さくなりやした。
そしてまた、坊やの口の中におさまりやした。
「オッデンヂッ オッデンヂッ」
坊やは、少しづつ溶け出す とろりと甘くきゅっとすっぱいあっしを 溶けた分づつ飲み込むことはせず、ほっぺたの内側に貯めていってやした。
口中いっぱいに貯まりに貯まった すべてが液体になったあっしを 一気にゴクン!と飲み込むこを とっておきの享しみとして がまんしていたのでやしょう。
あっしのすべてがオレンヂ色のオレンヂ味の液体になろうというとき------
坊やのほっぺたよりも上あごのほうが ぐぅぅぅっと低く傾ぎやした。
おそらく、坊やは しゃがみこんで 股ぐらを覗きこむような姿勢になったのでやしょう。
と、思う間もなく-------
液体のあっしは、坊やの鼻の穴から つつーーーーーーーっと 一滴残らず垂れ流れ、蟻の巣の上に オレンヂ色の楕円の溜まりとなりやした。
そして、蟻達に、小さなオレンヂ色の水滴に分解され、土中に運ばれてゆきやした。
「あぁっっっ・・・オデンヂ・・・オデンヂ・・・・」
家の中からは、ばあさんの念仏が どろどろどろどろと続いておりやした。
タグ:ドロップ
あっしが育毛剤だったころ [小説]
「こないに増えても困るわ~!」
これは、あっしが前世で 育毛剤だったころのお話でやす。
どれほど絶望的に淋しーーくなった髪の毛も うっとうしいくらいのフッサフサによみがえらせ、使った人間に必ず「こないに増えても困るわ~!」と 言わせることのみを目指して製造された 育毛剤の一ビンだったころのお話でやす。
ドラッグストアの棚にて ジッと待機すること二週間------
あっしは、一人のおっさんに買われてゆきやした。
前頭部・頭頂部・後頭部のほとんどが素肌と化し、右耳の上にささやかに紐のれん状に残るものを もう反対側のささやかな耳上まで パラリと並べてなでつけた、あっしが思い描いていたイメージと一分一厘たがわぬおっさんでやす。
「わいかて、幸せになる権利あるやろ。 わいかて、ねぇちゃんに『まだ帰らんといて・・・』泣かれたいんや」
あっしは、よっしゃ!と 心の中に 両の手で拳をこさえやした。
あっしには自信がありやした。
あっしは 従来の「地肌に働きかける方法」ではなく、最先端のバイオテクノロジーによって、一本を二本、二本を四本、四本を八本、八本を十六本・・・・と 髪毛そのものを増やしてゆくという画期的な能力を培われた 我が製薬会社の誇りとするイチオシ商品だったからでやす。
そして あっしは、あっしを生み・育ててくれた製薬会社を心より愛し、この 母なる・・・否、神ともいえる祖製薬会社----主任さん、工場長さん、研究所長さん、そして社長さん----に忠誠を尽くすことを命のかぎりとする 誠実・実直・真面目分子でやした。
あっしが購入された日の夜------
おっさんは、あっしを風呂場の蛇口の脇に置き、ゴーーーーーーーーリゴリゴリゴリゴリバシャバシャバシャバシャバシャヂャッヂャッヂャッヂャヂャーーーーーーーーーッ!!!と、タイルの壁や そこに吸盤で貼り付けられた鏡や 湯舟のヘリや 湯の中に 白いあぶくをビシャビシャ跳ね飛ばしながら全身を洗い、ザッバーーーーーーーーーーーッッッ!!!と 湯を身体にたたきかけやした。
次に、今度は それまでとはまるで別人のように、掌にそーーーーーーっとシャンプーをたらし、頭の素肌と わずかに残っている頭髪を トーフに触れるように撫でまわしやした。
そして、首を右に傾がせ、美女がシャンプーのCМでやるように 紐のれんの部分を そーーーーっとそーーーーっと 両掌ではさみながらずらし、毛先の一本まで到達すると、シャワーの弱で サーーーーーーと 清めるように流しやした。
お清めが終わると、あっしに向き、両手を合わせ ポンポンとかしわ手を打ち、あっしを手に取り 裏側の「ご使用方法」を読み始めやした。
「・・・まず たっぷりとぬり、それから 一・・・一・・・んー? 何やろ? 老眼鏡取りに出るの しんどいわー、・・・・・たぶん、一分 やろな。 ・・・・んーー、きっと 一分や。 一分に違いない。 一分やない筈がない。 ん! 一分や! 当然一分に決まっとる!! 一分や一分や!!!」
あっしは、「どうしよう!」と 一瞬 呼吸が止まりそうになりやした。
一分で洗い流されたら、あっしはおっさんに「こないに増えても困るわ~!」と言わせられやせん。
書かれているのは、「一分」ではなく「一晩」なのでやす。
いくら最先端のバイオテクノロジー技術を以ってしても、一分で 一本を二本、二本を四本、四本を八本、八本を十六本・・・と 増やせるわけはないのでやす。
塗ってから そのまま四、五時間放置しておくと、夜明け前の若干気温が下がったところで 毛髪細胞が分裂を開始し、日の出の気温の上昇とともに ボワッ ボワッ ボワボワッと増える というしくみなのでやす。
おっさんは、あっしのうろたえなどよそに、ベッタベッタと 頭髪の一本一本にくまなく塗り、眉毛のあたりまであっしをだらだらとしたたらせながら、湯舟に浸かりやした。
「いーーーーーーーーーーーち、にーーーーーーーーーーぃ、さぁーーーーーーーーーん、しーーーーーーーーぃ・・・・」
あっしは、「やっぱり一晩かも知れん」と気づいてはくれまいだろうか?!、と ジッと祈るような気持ちでまなこをつむりやした。
「こないに増えても困るわ~!」 この言葉を言わせずして あっしは命を終えるなど まかり間違っても出来ないのでやす。
それでは、あっしが生まれてきた意義が 何一つとしてなくなってしまうのでやす。
育毛剤として これ以上の恥は他にありやせん。
・・・・・・サッザッザッザッ・・・
あっしの脳裏に、工場の生産ラインにいたころのことが 走馬灯のように流れやした。
------やや厚めのガラス製の容器の装備を与えられ、ちょっと恥ずかしいようなくすぐったいような気持ちで行進した あの時------
------フタは正しく閉まっているかどうか等 厳しく細かな品質検査に合格し、「こないに増えても困るわ~!」と書かれた真っ赤でピカピカなシールを左肩にペタリと貼られに 誇らしく 順順に 直立で一歩前へ進み出でた あの時------
-------直立姿勢のまま寝かされ 出荷の大箱の海へヒューヒューと投下された 闘志の塊へと いよいよ意志をかたくした あの時------
・・・ヒュー ヒュー ヒュー・・・・・・
「・・・・ごじゅーーろく、ごじゅーなな、ごじゅうはち、ごじゅきゅろくじゅっ!、よっしゃ!!!」
ザッバーーーーーーーーーーッッッ!!!
あっしは、絶望に ぎゅゅーーーーーっとまなこをつむりやした。
キュキュッと硬いものを軽く拭く音がしやした。
「・・・・・・・・・・・・なんや、ちぃぃぃとも増えてへんやないか・・・」
ピチョーーーーーーン
天井から 湯舟に水滴の落ちる音が響きやした。
と、シャワーに あっしはおっさんの頭部から引き離されてしまい、
「こないなもん! こないなもん!けったくそ悪い!!」
ビンの中のあっしも 激しく上下に振られ、ドボドボと 排水溝であるらしい冷たい場所に吸い込まれてゆきやした。
あっしは、恥と屈辱と悲しみに より一層まなこをぎゅーーーーーーっとつむりやした。
己れの存在を消しつぶすように ぎゅーーーーーーーーーっとつむりやした。
------主任さん、工場長さん、研究所長さん、そして社長さん!
あっしは、まことに恥ずかしながら 排水溝で 命を終えようとしておりやす。
「何故」とか「いいえ」とか「けれど」とか「どうして」とか「この場合に限っては」とか そんな思考になり得る素因は全て 「こないに増えても困るわ~!」へ突進するそれへ改良された それ以外に生きる道などあり得ないあっしが、そう言わせることなく 命を終えようとしておりやす。
許されるべきではないと 重々承知の上で申しやす。
あっしの恥をお許しください!!
------排水溝の中、あっしの身体のあちこちが 何かにまとわりつきやした。
ぼんやりと まなこを開けると・・・・そこには・・・
おっさんの頭にあったよりも遥かに多くの髪の毛が、ひっかかり からまり もつれ合っていたのでやす!!!
あくる朝------
排水溝の中の毛髪は、あっしの育毛剤生命をかけた働きにより、一本を二本、二本を四本、四本を八本、八本を十六本・・・と増やされに増やされ、一滴の水も通らないくらいのきっちきちで、口の部分からは、ちょうどアフロヘアのカツラを置いたように こんもり黒々とした塊が溢れ出してやした。
あっしは、まばたきもせず おっさんが起きてくるのを待ちかまえてやした。
大きなあくびとともに、風呂場の扉が ガラッと開きやした。
「・・・・・・・・こっ こっ こないに増えても 困るわ・・・・」
あっしは 嬉し涙にむせびつつ バンザイをしやした。
主任さん、工場長さん、研究所長さん、そして 社長さん!
あっしは、果たして ついぞ言わせることが出来やした!!
あっしの功(いさおし)をお誉めください!!!
あっしは、あっしというものが なーーーんにもない真っっっ白なところに 背中から墜落してゆくのを感じやした。
こうして、あっしが育毛剤だったころの生は終わりやした。
これは、あっしが前世で 育毛剤だったころのお話でやす。
どれほど絶望的に淋しーーくなった髪の毛も うっとうしいくらいのフッサフサによみがえらせ、使った人間に必ず「こないに増えても困るわ~!」と 言わせることのみを目指して製造された 育毛剤の一ビンだったころのお話でやす。
ドラッグストアの棚にて ジッと待機すること二週間------
あっしは、一人のおっさんに買われてゆきやした。
前頭部・頭頂部・後頭部のほとんどが素肌と化し、右耳の上にささやかに紐のれん状に残るものを もう反対側のささやかな耳上まで パラリと並べてなでつけた、あっしが思い描いていたイメージと一分一厘たがわぬおっさんでやす。
「わいかて、幸せになる権利あるやろ。 わいかて、ねぇちゃんに『まだ帰らんといて・・・』泣かれたいんや」
あっしは、よっしゃ!と 心の中に 両の手で拳をこさえやした。
あっしには自信がありやした。
あっしは 従来の「地肌に働きかける方法」ではなく、最先端のバイオテクノロジーによって、一本を二本、二本を四本、四本を八本、八本を十六本・・・・と 髪毛そのものを増やしてゆくという画期的な能力を培われた 我が製薬会社の誇りとするイチオシ商品だったからでやす。
そして あっしは、あっしを生み・育ててくれた製薬会社を心より愛し、この 母なる・・・否、神ともいえる祖製薬会社----主任さん、工場長さん、研究所長さん、そして社長さん----に忠誠を尽くすことを命のかぎりとする 誠実・実直・真面目分子でやした。
あっしが購入された日の夜------
おっさんは、あっしを風呂場の蛇口の脇に置き、ゴーーーーーーーーリゴリゴリゴリゴリバシャバシャバシャバシャバシャヂャッヂャッヂャッヂャヂャーーーーーーーーーッ!!!と、タイルの壁や そこに吸盤で貼り付けられた鏡や 湯舟のヘリや 湯の中に 白いあぶくをビシャビシャ跳ね飛ばしながら全身を洗い、ザッバーーーーーーーーーーーッッッ!!!と 湯を身体にたたきかけやした。
次に、今度は それまでとはまるで別人のように、掌にそーーーーーーっとシャンプーをたらし、頭の素肌と わずかに残っている頭髪を トーフに触れるように撫でまわしやした。
そして、首を右に傾がせ、美女がシャンプーのCМでやるように 紐のれんの部分を そーーーーっとそーーーーっと 両掌ではさみながらずらし、毛先の一本まで到達すると、シャワーの弱で サーーーーーーと 清めるように流しやした。
お清めが終わると、あっしに向き、両手を合わせ ポンポンとかしわ手を打ち、あっしを手に取り 裏側の「ご使用方法」を読み始めやした。
「・・・まず たっぷりとぬり、それから 一・・・一・・・んー? 何やろ? 老眼鏡取りに出るの しんどいわー、・・・・・たぶん、一分 やろな。 ・・・・んーー、きっと 一分や。 一分に違いない。 一分やない筈がない。 ん! 一分や! 当然一分に決まっとる!! 一分や一分や!!!」
あっしは、「どうしよう!」と 一瞬 呼吸が止まりそうになりやした。
一分で洗い流されたら、あっしはおっさんに「こないに増えても困るわ~!」と言わせられやせん。
書かれているのは、「一分」ではなく「一晩」なのでやす。
いくら最先端のバイオテクノロジー技術を以ってしても、一分で 一本を二本、二本を四本、四本を八本、八本を十六本・・・と 増やせるわけはないのでやす。
塗ってから そのまま四、五時間放置しておくと、夜明け前の若干気温が下がったところで 毛髪細胞が分裂を開始し、日の出の気温の上昇とともに ボワッ ボワッ ボワボワッと増える というしくみなのでやす。
おっさんは、あっしのうろたえなどよそに、ベッタベッタと 頭髪の一本一本にくまなく塗り、眉毛のあたりまであっしをだらだらとしたたらせながら、湯舟に浸かりやした。
「いーーーーーーーーーーーち、にーーーーーーーーーーぃ、さぁーーーーーーーーーん、しーーーーーーーーぃ・・・・」
あっしは、「やっぱり一晩かも知れん」と気づいてはくれまいだろうか?!、と ジッと祈るような気持ちでまなこをつむりやした。
「こないに増えても困るわ~!」 この言葉を言わせずして あっしは命を終えるなど まかり間違っても出来ないのでやす。
それでは、あっしが生まれてきた意義が 何一つとしてなくなってしまうのでやす。
育毛剤として これ以上の恥は他にありやせん。
・・・・・・サッザッザッザッ・・・
あっしの脳裏に、工場の生産ラインにいたころのことが 走馬灯のように流れやした。
------やや厚めのガラス製の容器の装備を与えられ、ちょっと恥ずかしいようなくすぐったいような気持ちで行進した あの時------
------フタは正しく閉まっているかどうか等 厳しく細かな品質検査に合格し、「こないに増えても困るわ~!」と書かれた真っ赤でピカピカなシールを左肩にペタリと貼られに 誇らしく 順順に 直立で一歩前へ進み出でた あの時------
-------直立姿勢のまま寝かされ 出荷の大箱の海へヒューヒューと投下された 闘志の塊へと いよいよ意志をかたくした あの時------
・・・ヒュー ヒュー ヒュー・・・・・・
「・・・・ごじゅーーろく、ごじゅーなな、ごじゅうはち、ごじゅきゅろくじゅっ!、よっしゃ!!!」
ザッバーーーーーーーーーーッッッ!!!
あっしは、絶望に ぎゅゅーーーーーっとまなこをつむりやした。
キュキュッと硬いものを軽く拭く音がしやした。
「・・・・・・・・・・・・なんや、ちぃぃぃとも増えてへんやないか・・・」
ピチョーーーーーーン
天井から 湯舟に水滴の落ちる音が響きやした。
と、シャワーに あっしはおっさんの頭部から引き離されてしまい、
「こないなもん! こないなもん!けったくそ悪い!!」
ビンの中のあっしも 激しく上下に振られ、ドボドボと 排水溝であるらしい冷たい場所に吸い込まれてゆきやした。
あっしは、恥と屈辱と悲しみに より一層まなこをぎゅーーーーーーっとつむりやした。
己れの存在を消しつぶすように ぎゅーーーーーーーーーっとつむりやした。
------主任さん、工場長さん、研究所長さん、そして社長さん!
あっしは、まことに恥ずかしながら 排水溝で 命を終えようとしておりやす。
「何故」とか「いいえ」とか「けれど」とか「どうして」とか「この場合に限っては」とか そんな思考になり得る素因は全て 「こないに増えても困るわ~!」へ突進するそれへ改良された それ以外に生きる道などあり得ないあっしが、そう言わせることなく 命を終えようとしておりやす。
許されるべきではないと 重々承知の上で申しやす。
あっしの恥をお許しください!!
------排水溝の中、あっしの身体のあちこちが 何かにまとわりつきやした。
ぼんやりと まなこを開けると・・・・そこには・・・
おっさんの頭にあったよりも遥かに多くの髪の毛が、ひっかかり からまり もつれ合っていたのでやす!!!
あくる朝------
排水溝の中の毛髪は、あっしの育毛剤生命をかけた働きにより、一本を二本、二本を四本、四本を八本、八本を十六本・・・と増やされに増やされ、一滴の水も通らないくらいのきっちきちで、口の部分からは、ちょうどアフロヘアのカツラを置いたように こんもり黒々とした塊が溢れ出してやした。
あっしは、まばたきもせず おっさんが起きてくるのを待ちかまえてやした。
大きなあくびとともに、風呂場の扉が ガラッと開きやした。
「・・・・・・・・こっ こっ こないに増えても 困るわ・・・・」
あっしは 嬉し涙にむせびつつ バンザイをしやした。
主任さん、工場長さん、研究所長さん、そして 社長さん!
あっしは、果たして ついぞ言わせることが出来やした!!
あっしの功(いさおし)をお誉めください!!!
あっしは、あっしというものが なーーーんにもない真っっっ白なところに 背中から墜落してゆくのを感じやした。
こうして、あっしが育毛剤だったころの生は終わりやした。
タグ:育毛剤
あっしが羽毛だったころ [小説]
これは、あっしが前世で 羽毛だったころのお話でやす。
どこにでもあるような街の、どこにでもあるような駅に住む、どこにでもいる鳩の 胸の羽毛のひとひらだったころのお話でやす。
あっしは、ふわふわしてて ちっぽけで、そして、なんとなく 白に近い灰色をしておりやした。
ある夏の日、いつもの駅屋根の上での毛づくろいの拍子に、あっしは 鳩の身体を離れ、ふわ と舞いやした。
何か 黒いものの上に、あっしの一部がぺたりと張り付きやした。
べったりてかてかと ひとすじの乱れも許さじと後ろに撫でつけられた 中年男の頭髪のてっぺんでやした。
中年男は、あっしが張り付いたことなど つゆ気づかず、眉間にしわを寄せ、口をへの字に結び、この暑いのにダブルの背広の しかもボタンをきっちり留めて、腹を突き出して歩いてゆきやした。
あっしは、一部がぺたりと固定されているものの、おおかたの部分は、ひらひらひらひらと 男の歩調に合いながら揺れやした。
「今月の決算報告!!」
あるビルの一室に入るや、中年男が、やや怒鳴るように 室じゅうに声を響かせやした。
ロの字に長テーブルが合わせられた室内は、まるでアルミニウムのように キーーーンと無機質な緊張感が張りつめきり、濃紺や黒のスーツの若い男女が、各々 ノート型パソコンを前に 背筋をまっすぐに 顔をこわばらせてやした。
空調の風が、中年男の頭のてっぺんのあっしを ひらひらひらひらと揺らしやした。
と・・・・
「くくっ・・・」 「くすっ」 「ふふふふ・・・・」
誰れからともなく 唇の内側にかすかなかすかな笑いが起こり、若い男女は、キーボードをチョコチョコッと打って目配せし合ったり、下を向いて肩を小さくふるわせたりしやした。
アルミニウムのような空気は、少ぅしだけ ほんの少ぅしだけ 柔らかなものに変わりやした。
中年男は「何がおかしいんだ?!」といった様子で ギョロリと一同を見渡しやしたが、すぐに席につき ハンカチで汗をひとぬぐいし、よりいっそう眉間にしわを寄せ パソコンを出しやした。
ふわふわしててちっぽけで なんとなく白に近い灰色のあっしは、ひらひらひらひらと揺れつづけやした。
あっしは、「羽毛に生まれてきて良かったなぁ」と 少ぅしだけ ほんのりと思いやした。
どこにでもあるような街の、どこにでもあるような駅に住む、どこにでもいる鳩の 胸の羽毛のひとひらだったころのお話でやす。
あっしは、ふわふわしてて ちっぽけで、そして、なんとなく 白に近い灰色をしておりやした。
ある夏の日、いつもの駅屋根の上での毛づくろいの拍子に、あっしは 鳩の身体を離れ、ふわ と舞いやした。
何か 黒いものの上に、あっしの一部がぺたりと張り付きやした。
べったりてかてかと ひとすじの乱れも許さじと後ろに撫でつけられた 中年男の頭髪のてっぺんでやした。
中年男は、あっしが張り付いたことなど つゆ気づかず、眉間にしわを寄せ、口をへの字に結び、この暑いのにダブルの背広の しかもボタンをきっちり留めて、腹を突き出して歩いてゆきやした。
あっしは、一部がぺたりと固定されているものの、おおかたの部分は、ひらひらひらひらと 男の歩調に合いながら揺れやした。
「今月の決算報告!!」
あるビルの一室に入るや、中年男が、やや怒鳴るように 室じゅうに声を響かせやした。
ロの字に長テーブルが合わせられた室内は、まるでアルミニウムのように キーーーンと無機質な緊張感が張りつめきり、濃紺や黒のスーツの若い男女が、各々 ノート型パソコンを前に 背筋をまっすぐに 顔をこわばらせてやした。
空調の風が、中年男の頭のてっぺんのあっしを ひらひらひらひらと揺らしやした。
と・・・・
「くくっ・・・」 「くすっ」 「ふふふふ・・・・」
誰れからともなく 唇の内側にかすかなかすかな笑いが起こり、若い男女は、キーボードをチョコチョコッと打って目配せし合ったり、下を向いて肩を小さくふるわせたりしやした。
アルミニウムのような空気は、少ぅしだけ ほんの少ぅしだけ 柔らかなものに変わりやした。
中年男は「何がおかしいんだ?!」といった様子で ギョロリと一同を見渡しやしたが、すぐに席につき ハンカチで汗をひとぬぐいし、よりいっそう眉間にしわを寄せ パソコンを出しやした。
ふわふわしててちっぽけで なんとなく白に近い灰色のあっしは、ひらひらひらひらと揺れつづけやした。
あっしは、「羽毛に生まれてきて良かったなぁ」と 少ぅしだけ ほんのりと思いやした。
タグ:羽
あっしがケヤキの木だったころ [小説]
サワサワサワ・・・
キラキラキラ・・・
チュンチュンチュンチュン・・・
これは、あっしが前世で ケヤキの木だったころのお話でやす。
こんもりと広がる野っ原のまん中に立つ ケヤキの巨木だったころのお話でやす。
あっしは、くる日もくる日も 野っ原の小動物------小鳥やウサギやリスやモグラやトカゲ達と 穏やかに暮らしておりやした。
動物達は みなそれぞれに あっしを慕ってくれ、あっしもまた いっしんに生きる小さな生命達を 愛おしく思ってやした。
あっしの若葉が、色濃く張りを持ちはじめた ある日-------。
「ケヤキさんケヤキさん」
あっしの背後の根っこに近いあたりで 声がしやした。
小さな小さな鈴の鳴るような、あっしの枝枝の間を毎日飛び走り戯れてくれている リスの声でやした。
「落っこっちまったんだよ、枝をつかみそこねてさ。 ひょうしに右足を折っちまったみたいで動けないんだよ。 ケヤキさんの背中側のウロの中だよ。・・・・・・ケヤキさんに助けを求めてもいいかい?」
それは大変でやす!
あっしは みぢんも迷わず答えやした。
「勿論でやす!」
「ほんとうかい? 信じて待っててもいいのかい?!」
「勿論でやすとも!! 動くとよけいに痛いでやすから そのまま待っていてくださいでやす。 今すぐ枝先ですくいやすよ」
言葉も終えぬうちに、あっしは ぐぅぅぅぅぅっっっと枝をねじりやした。
真後ろまでねじりやした。
そして、ずぅぅぅぅっっっと枝先を下げやした。
息もつかずに下げやした。
もうちょっとで あっしのかかとあたりのウロに届きやす!
--------コロン・・・
あっしの枝先の先っちょが、何か とても軽いものにあたりやした。
・・・・?
覗きこんでみやした。
-------二つの丸い穴の開いた 小さな小さな 雫型の白いものでやした。
積み重なったあっしの茶色い葉っぱを フゥ!と吹きとばすと--------
ウロの中には、右足の反対側に折れ曲がった 飛び走る格好そのままの リスの真っ白な骨があるばかりでやした。
あっしが枝を伸べ下ろすまでの 十三と半 季節がめぐった ほんの ほんのわずかな間に・・・・・・・・・・・・・・?!
ひゅゅゅゅゅゅゅぅぅぅぅぅぅぅぅ----------------------------------
あっしの枝枝の間を かわいた北風が吹き抜け、あっしの身体じゅうの葉っぱを ザザ--------------------ッと奪い去ってゆきやした。
キラキラキラ・・・
チュンチュンチュンチュン・・・
これは、あっしが前世で ケヤキの木だったころのお話でやす。
こんもりと広がる野っ原のまん中に立つ ケヤキの巨木だったころのお話でやす。
あっしは、くる日もくる日も 野っ原の小動物------小鳥やウサギやリスやモグラやトカゲ達と 穏やかに暮らしておりやした。
動物達は みなそれぞれに あっしを慕ってくれ、あっしもまた いっしんに生きる小さな生命達を 愛おしく思ってやした。
あっしの若葉が、色濃く張りを持ちはじめた ある日-------。
「ケヤキさんケヤキさん」
あっしの背後の根っこに近いあたりで 声がしやした。
小さな小さな鈴の鳴るような、あっしの枝枝の間を毎日飛び走り戯れてくれている リスの声でやした。
「落っこっちまったんだよ、枝をつかみそこねてさ。 ひょうしに右足を折っちまったみたいで動けないんだよ。 ケヤキさんの背中側のウロの中だよ。・・・・・・ケヤキさんに助けを求めてもいいかい?」
それは大変でやす!
あっしは みぢんも迷わず答えやした。
「勿論でやす!」
「ほんとうかい? 信じて待っててもいいのかい?!」
「勿論でやすとも!! 動くとよけいに痛いでやすから そのまま待っていてくださいでやす。 今すぐ枝先ですくいやすよ」
言葉も終えぬうちに、あっしは ぐぅぅぅぅぅっっっと枝をねじりやした。
真後ろまでねじりやした。
そして、ずぅぅぅぅっっっと枝先を下げやした。
息もつかずに下げやした。
もうちょっとで あっしのかかとあたりのウロに届きやす!
--------コロン・・・
あっしの枝先の先っちょが、何か とても軽いものにあたりやした。
・・・・?
覗きこんでみやした。
-------二つの丸い穴の開いた 小さな小さな 雫型の白いものでやした。
積み重なったあっしの茶色い葉っぱを フゥ!と吹きとばすと--------
ウロの中には、右足の反対側に折れ曲がった 飛び走る格好そのままの リスの真っ白な骨があるばかりでやした。
あっしが枝を伸べ下ろすまでの 十三と半 季節がめぐった ほんの ほんのわずかな間に・・・・・・・・・・・・・・?!
ひゅゅゅゅゅゅゅぅぅぅぅぅぅぅぅ----------------------------------
あっしの枝枝の間を かわいた北風が吹き抜け、あっしの身体じゅうの葉っぱを ザザ--------------------ッと奪い去ってゆきやした。
タグ:欅