魚の目を食べていたばあちゃん [福岡時代]

福岡県に住んでいた三才から九才までの間、私は、ばあちゃん(父の母)に溺愛されていた。
ばあちゃんは、自身も住む父の実家である久留米の家に私と同じくらいのいとこ二人がいるのに、それはもうしょっちゅう、私の家の在る春日市まで一時間以上も西鉄に乗ってやって来たり 久留米の家に泊めてくれたり 料理屋に連れて行ってくれたりした。

料理屋に行くと、ばあちゃんは、必ず 魚の煮付けを注文した。
そして 身を食べ了ると、これこそがとっておきの享しみ!とばかりに 魚の目を箸先でぐるりとえぐり取り、ゼラチン質になった白目ごと しゃぶりつくのだった。

私はその度に「ばあちゃん、美味しいのー?」と ばあちゃんの顔を見上げ、ばあちゃんは「旨か〜!」と言いながら、私の顔に自分の顔を寄せて ちゅっちゅっちゅっちゅっと、旨か〜!の表現を口でもやってくれた。

しゃぶり尽くすと、火を通されて真白くなった真円型の眼球を口から出して、皿の中にコロン!と転がすのだった。
私は、目玉ってまん丸いものなんだなあと その都度凝視し、あんなにドロリとした魚の目が美味しいなんて不思議なものだと、幼心に思っていた。

光陰矢の如しとはよく言ったもので、今や私は、あの頃のばあちゃんと幾つも変わらない年齢となった。
十二分に大人の酸いも甘いも解る歳となったことだし、そろそろ、魚の煮付けを食べる機会に恵まれたら、目をえぐり しゃぶってみようと考えている。

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