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立川の喫茶店「珈琲はなや」が閉店 [喫茶店・レストラン・カフェ]

写真・はなや.JPG

以前、過去記事でも紹介しやしたが、東京郊外の繁華街・立川の駅近くに「珈琲はなや」という 昭和の香りに溢れる アレンジコーヒーの幾種類もある 小さな喫茶店がありやした。
それがなんと!二カ月ぶりに訪れたら なくなっているのでやす。
シャッターは閉まっていて内部は覗けやせんでやしたが、イマドキのカフェであるらしい外壁と店名へと変貌してやした。
二カ月前は、閉店の予感など感じさせることなく元気に営業していたので、突然のショックに あっしは店前で へなへなと膝から崩れ落ちてしまいやした。

こういうケースに、あっしは、数限りなく遭遇してやす。
立川の他の店でも 隣町の以前あっしが住んでいた国立でも それ以外の街でも、あっしは幾度 このへなへなを体験してきたでやしょう。
かつては、どこの街のあっちにもこっちにもうじゃうじゃと在った喫茶店が 次々と姿を消してゆくのでやす。

街とは移り変わるもの、物事には了りがあるもの-----それは百も承知でやす。
しかし、あっしは昔ながらの喫茶店でないと 心ほぐれる至福の時を過ごすことが出来ないのでやす。
----そのうち、あっしの心ほぐれる場所は、東京から一つもなくなってしまうかも知れやせん。
そうしたら、あっしの精神は、いったいどうやって生きながらえればよいのでやしょう・・・・・・・・・?

写真・珈琲はなや.JPG

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喫茶店アイスクリーム比較 [喫茶店・レストラン・カフェ]

基本的に甘い物はあまり得意なほうではないのですが、暑さに疲れた身体を癒すのに、量の多すぎないひんやりとしたアイスクリームは適当なので、ここのところ喫茶店に入るとしばしば頼んでます。
ということで、今回の記事は、私が最近食べた よく行く喫茶店のアイスクリームを羅列してみたいと思います。


①上野「王城」
ほどよく豪華で品のよいシャンデリアの下がる ゆったりとしたソファの居心地の良い店です。
オーソドックスな盛り付けですね。
器と皿の間に敷かれた紙ナプキンには 店名が大きく書かれています。
アイスクリーム・王城.JPG


②新宿「らんぶる」
アイアンの巨大なシャンデリアに 非日常を満喫できる名曲喫茶。
アイスクリームの器の古典とも言えるシルバーの足付きで登場。
添えられたクッキーにアイスを乗せていただきます。
アイスクリーム・らんぶる.JPG


③渋谷「シャルマン」
サイフォンコーヒーを出してくださる いかにも王道の喫茶店といった店。
焦げ茶色の木のトレーが、内装にとけこんでいます。
写真では解かり辛いですが、アプリコットソースと思われる山吹色の甘酸っぱいソースがかかっています。
アイスクリーム・シャルマン.JPG


④上野「ギャラン」
昭和歌謡の流れるギラギラとした照明の70年代的な店。
この盛り付けは珍しいですね。
チューリップを模しているのでしょうね。
アイスクリーム・ギャラン.JPG


⑤浅草「待合室」
競馬のある日は中継が放映される 浅草地元民に愛される店。
私は個人的には、この盛り付けは非常に好きです。
てっぺんに少量絞られた生クリームがデザイン的にバランスよいですね。
アイスクリーム・待合室.JPG


⑥神保町「神田伯剌西爾」
コーヒーのとびきり美味しい 和風のしつらえの店。
しつらえに合わせてうるしの半月盆に乗せられて運ばれてきます。
ラズベリーソースがかかっています。
アイスクリーム・神田伯剌西爾.JPG


⑦上野「丘」
1960年代前半に開店したという 時空のひずみに紛れ込んでしまったかと錯覚するような古めかしい店内。
缶みかんにたっぷりな生クリーム。
ちょっとパフェに近い感覚ですね。
アイスクリーム・丘.JPG


⑧三鷹「リスボン」
三鷹市民に愛され続けている 純然たる喫茶店といった雰囲気の店。
ティーカップを流用していますね。
ティーカップもこんな使われ方をされると 何故だか可愛らしく見えてきますね。
アイスクリーム・リスボン.JPG


⑨浅草「ハトヤ」
いかにも下町の古い喫茶店といった 庶民的で年期の入った店内と店員さん。
ミニチョコレートパフェと呼びたくなるようなデコレーションですね。
アイスクリーム・ハトヤ.JPG


⑩西荻窪「ビーイン」
マスターお一人で定休日なく勢よく切り盛りされている 70年代にワープしたような店。
生クリームとラズベリーソースがたっぷりと。
かなりのボリュウムです。
アイスクリーム・ビーイン.JPG


⑪三鷹「さいかん」
ここは喫茶店ではなく中華料理屋さんなんですが、馴染みにしている店で必ずこれを食べて〆るので、加えさせていただきました。
たらふく飲み食いした後にいただくのに丁度良い量。
銘柄は解かりませんが、とてもクオリティの高い濃厚な一品です。
アイスクリーム・さいかん.JPG


いかがでしたでしょうか?
みなさんは何番目のアイスクリームを「食べてみたい」と思われたでしょうか?

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阿佐ヶ谷 喫茶店「珈司」 [喫茶店・レストラン・カフェ]

阿佐ヶ谷駅に降り立つと、私が必ず立ち寄る店がある。
木枯し吹きすさぶこの季節にも、背中を丸めコートの襟を立て けやき並木の通りを その店を目指す。

その店の名は珈司。 古い小さな喫茶店である。

長年の雨風を受けてきたとひと目で判る幌に 控え目なOPENの黄色いプレート。
中は、微かに民芸調の匂いのする 焦げ茶色である。
ランプ型のペンダントライト 田舎の風景の油彩画 甘さのないレエスのカーテン。
音楽は流れていない。

珈司は、マスター一人で営られている。
今より少し若かった頃の唐十郎にどこか似ている 愛想のよい穏やかなマスターである。
メニューは飲み物だけである。
ブレンド250円。
この安さでありながら、しっかりと苦味の効いた 充実の旨さである。

カウンター席に入れかわり立ちかわり 近所のかたと思しき常連客が掛ける。
自身の身辺の話 世相の話 阿佐ヶ谷の街の話・・・・。
マスターはその度に、相槌を打ち 笑い 時に「それは違うよ」と辛辣な意見を放つ。

ブレンドの苦さを鼻腔に享しみ、レエスのカーテン越しに 葉の落ちきったけやき並木を眺める。
マスターと常連客達の会話をBGMとしながら。

裸の枝が木枯しに揺れる。
珈司は今日もあたたかい。
珈司.JPG

※3月4日のオフ会、下戸のかたも大歓迎でやす!

タグ:喫茶店 珈司
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 喫茶店のBGM  [喫茶店・レストラン・カフェ]

私は喫茶店マニアなので しょっちゅう喫茶店に行く。
二軒はしごする日も珍しくなく、よく利用する街には「なじみの喫茶店」が何軒かづつ在る。
私が「なじみ」にしたい、つまり 喫茶店に求める重要要素は以下である。
第一に、店員さんの接客態度が良いこと。
二番目に、内装(椅子・テーブル・調度品なども含む)が古めかしく焦茶色でまとまっていること。
そして三番目に拘るのは、BGMである。
----そう、BGM。 どんな音楽がかかっているか、私にとって かなり重要な要素なのである。

喫茶店.jpgというのは、私は好きな音楽と嫌いな音楽が非常にはっきりしていて、好きな音楽の中に身を置いていると至福に心がほぐれるが、嫌いなそれだと、拷問を与えられているが如くに精神的圧迫を覚え、すぐさまその場から逃げ出したくなってしまうのだ。
具体的に挙げると----
シカゴ以前のブルース オールディーズ オールドジャズなら至福、70年代以降に主流となった音楽はすべて拷問、クラシック音楽はやや苦痛、BGMとして最も多くの喫茶店で使われているモダンジャズは、至福とまではゆかないけれど苦痛でもない、といったところである。

喫茶店2.JPGたまに看板にJAZZと掲げていながらクラシックを流したり いつもはオールディーズなのに唐突に80年代ロックをかける店があり、落胆してしまうことがある。
そんな時、他にお客さんがいなければ いつもの音楽に戻していただくのだが、店員さんの対応から「うちの店のBGMはこれなんです!」と信念を持って経営している店は意外と少ないと判る。
それだけ 喫茶店で音楽に拘る客が少ないということなのだろう。
「この音楽がかかるからこの店に来るのは止めよう」という客は、あまりいないのかも知れない。
店の売上を左右する重要な要素でなければ、店主のその日の気分で替えたりする可能性も大きくなるわけである。

私がなじみにしている十数店の喫茶店の中、前述の三要素全てをみぢんの不満も感じさせずに満たしている店が 一店だけ在る。
三鷹の「リスボン」である。
BGMは、オールディーズである。
明るくてきぱきと愛想の良い初老のマスターは心底オールディーズがお好きなようで、仕事をしながらしばしば合わせて口ずさんでおられる。
ここならいつ来ても間違いなくオールディーズに酔いしれることができる。
スピーカーの真下の席が空いていると、迷わずそこを陣取る。


タグ:喫茶店
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 元特殊喫茶の純喫茶  [喫茶店・レストラン・カフェ]

あれは東京に越してきて間もなくだったから、私が小学三年 1970年代頭くらいだった。
普段はあまり行かない有楽町だか新橋の駅近くだったと思う。
私を連れた父は、喫茶店を探していた。
「あ! キッサテンあったよ!」
ドアに「喫茶」の文字を見つけた私は、父の手を引いた。
が、いつもゴキゲンでカッカと笑顔を絶やさない父は、珍しく負の表情を見せ声を落した。
「そこは入らんでいいっ」
その表情と声のトーンは、「子供は覗いちゃいかん世界だ」と 私の心に目隠しをした。
遠ざかる喫茶店のドアを、心の目隠しの隙間からそうっとふり返る。
「喫茶」と白く書かれたドアは、濃い紫色のガラス。
ガラス越しには、ロングドレスに厚化粧の----その頃よく歌番組で観ていたちあきなおみのような女の人が、片掌をドアにくっつけて ぼうっと表に視線を投げていた。
----私の特殊喫茶の思い出である。

特殊喫茶2.jpg

勿論 特殊喫茶という言葉やその背景を知ったのは大人になってからであるが、喫茶店マニアとしてあちこちの喫茶店を巡っていると、「あぁ、ここはおそらく元は特殊喫茶だったな」という純喫茶に遭遇することがある。
ドアはガラスで、前述のような紫 あるいは爽やかさのみぢんもないどんよりとしたオレンジ色。
天井や壁には、ドアと同イメージの ムンとむせかえるような隠微なシャンデリア。
店奥には、やはり隠微さゆらめくカウンタースペース。
椅子やテーブルは、内装とはズレのある無難なものが入れられている場合が多い。
そんな店に入ると、ウェイトレスさんがスッと置いていってくれた瓶ビールを手酌しながら、私の脳内スクリーンには 特殊喫茶華やかかりし頃が立ち現れる。
----紫煙たちこめる比重の重たい空気、テーブルの上のフィズ ビール ピーナッツ、ネクタイをだらしなく緩めた上機嫌な男達、男達にべったりと添い 酌をするちあきなおみのようなホステス達・・・・。
特殊喫茶3.jpg

しかし、脳内スクリーンをより鮮明にしようと 店のかたに「ここは昔は特殊喫茶でしたよね?」とは 口が裂けても聞けない。
何故なら、それはまさに、今現在は堅い役のみをこなすベテランの女優さんに、初対面で開口一番に「貴女はピンク映画出身ですよね?」と発するも同然だからである。
無論、特殊喫茶もピンク映画も 法の上にのっとって営られていたのだから れっきとした商売である事には変わりはないのだが、世間的には これらの仕事については、陽の当たる場所で声高にしないのが常識とされている。
聞かれる側も、「はい、特殊やってましたよー、ホステスさん○人いましたよー」と あっけらかんと答えてくれる店主も中にはいるだろうが、多くは「いいえっ! ウチは最初っから純喫茶でしたよっ!」と 怒ったような面持ちで否定するのではなかろうか。

だから私は、元特殊喫茶だと思われる純喫茶に入った時、脳内スクリーンは我が内だけにとどめている。
同行した友人に耳うちして「えーっ! ここって特殊喫茶だったかも知れないのー?!」と 店ぢゅうに響き渡るすっとんきょうな声をあげられても困るからである。
「なんか毒々しいシャンデリアだよねー」と あっけらかんとコーヒーをすする友人をよそに、私は一人 目を閉じる。
----安物の香水の匂いが近づく。
私のビアタンに注ぎ足す真っ赤な爪の指。
ちあきなおみが、ウフフと しなを作っていた。

特殊喫茶1.jpg



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 喫茶店・絶滅危惧メニュー---フィズ---  [喫茶店・レストラン・カフェ]

かつては純喫茶に当たり前にあったが 今はめったにお目にかかれなくなってしまったメニューというのがある。
そして、それらがそうなってしまった裏には 必ず理由がある。

スパゲティミートソースは、ナポリタンに人気を奪われた。
サンデーやアラモードは、パフェに吸収合併される形となった。
胡瓜スライスを斜めに構えた真っ赤なウィンナーのホットドックは、ウィンナーのありがたみがなくなったために 見向きもされなくなった。
そんな中、最も絶滅危惧度の高いメニューといえば これであろう。
---フィズ類。
フィズはどんなスピリッツ リキュールでも作れるロングカクテルだが、純喫茶にあるフィズといえば、ジンベースのジンフィズを代表として カカオリキュールのカカオフィズ パルフェタムールのバイオレットフィズと相場が決まっていた。
純喫茶3.jpg

ここで、「あれ?純喫茶って お酒を出さない喫茶店のことじゃないの?」と 首をひねっている方がおられるかも知れないので、純喫茶の定義について簡単に説明したい。
純喫茶というのは、大正から昭和50年辺りまでの間、酒を介して女性の色気を売る特殊喫茶に対して 純粋に飲食をさせる事だけを目的とした喫茶店として 区別のために用いられていた言葉なのである。
だから、純喫茶にアルコールドリンクスがあるのは、何の矛盾もないのである。
---私の母などは独身の頃 純喫茶に勤めていたらしいが、よく、「みんなキッサテンのウェイトレス キッサテンのウェイトレスって馬鹿にしやがるけど、アタシがいたのはれっきとしたジュンキッサだったんだっ! あんな(特殊喫茶の)商売女とは違うんだっ!」と、純喫茶のジュンをことさら強調して歯がみしていたものだ。

そして、時代がくだるにつれ純喫茶の意味が横ずれを起こし、看板に「純」と冠していなくとも、つまり、冠する必要のない時代に出店した店であっても、その時代・雰囲気を彷彿とさせる喫茶店を 多くの人が「純喫茶」と呼ぶようになったのである。
だから、昭和70年くらいに出現した レトロな焦茶色の内装の 沢山の種類のストレートコーヒーやアレンジコーヒーを出し フードメニューはトーストとサンドイッチのみ アルコールは一切なし という店は、本来的には明らかに純喫茶ではないのである。

純喫茶2.jpg
さて、フィズ類。
いったい何故 純喫茶・絶滅危惧メニュー・ナンバー1ともいえる存在になり下がってしまったのか。
先ず、とにもかくにも流行遅れになってしまった事が最大の理由であろう。
ビールやウィスキーが変わらぬ人気であるのに対して、フィズ類は、純喫茶黄金時代に偶然ぴったりシンクロした 流行カクテルだったのである。
流行りがすたれて注文する客が激減した。
加えて、フィズを作るには、シェイカーを振れる技術が必要とされるという事もあったに違いない。
フィズのレシピは、スピリッツ又はリキュールに、砂糖 レモンジュースを加えてシェィクし 氷を入れてスライスレモンを飾ったタンブラーに注ぎ クラブソーダで満たしたものである。
シェイクをしないとフィズとは呼べないのである。
ごく稀にしか出ないメニューだけのために従業員にシェイクの技術を教育するのは割が合わない と考えるのは当然であろう。
純喫茶4.jpg

幼少の頃 メニューによく見たフィズの文字、そして それを美味そうに傾ける大人達の姿・・・。
私も酒が飲める年齢になったらフィズが飲みたいと思い続けていた。
しかし、なってみたら フィズのある喫茶店は 川で砂金を発見するほどに少なくなってしまっていた。
勿論、ショットバーやカクテルラウンジへ行けば、現代(いま)でも フィズなど朝飯前といった面持ちで シャカシャカとやっていただける。
実際、そういう場で 幾杯もタンブラーを空にした。
けれど、違うのだ。
私が幼少の頃 眺めていた純喫茶のフィズは、何かもっと こう安っぽい雰囲気に溢れていたのだ。
それが何であるか、最近 気がついた。
----缶詰の枝付きさくらんぼである。
あれが、タンブラーに赤々と浮かんでいたのである。
フィズの正式なレシピには、さくらんぼを入れるとは ない。
だから、バーテンダーさんがカウンターに滑らせる正規のフィズに飾られているのは、スライスレモンだけである。
言わずもがな、「さくらんぼを飾って」と所望すれば、「はい!」と 快い笑顔で添えていただけるのは必至である。
けれど、そこに入るのは、西洋人美少女のようなお洒落なマラスキーノチェリーなのである。
 
純喫茶黄金時代、そこではアイスコーヒーとアイスティー以外の全てのアイスドリンクスに 枝付きさくらんぼが浮かんでいた。
それが贅沢・サービスの時代だったのだ。
純喫茶のフィズは、そんな時代を象徴する 沈む寸前の夕陽のごときメニューである。

純喫茶.jpg

タグ:純喫茶
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国立にあったレストラン喫茶・バーゼルのパルミットのサラダ  [喫茶店・レストラン・カフェ]

パルミット.jpg

今はもうなくなってしまったが、東京郊外の国立の街で 私が常連といえるほどに頻繁に訪れていたレストラン喫茶の一つに、バーゼルという店があった。
真白いペンキを角を立てるようにペタペタと塗りたくった内装がまばゆかった。
メニューは、カレー ハンバーグ グラタン スパゲティ クリームソーダ パフェ 等々と、いわゆる通常のレストラン喫茶のそれと何ら変わりがなかったが、唯一つ、コンビネーションサラダだけは違っていた。

木をくりぬいたボウルに レタスがしかれ、くし形のトマトとななめ切りのキュウリ。
そこに、直径2センチ長さ10センチほどの象牙色の筒状のものが3本ばかり、ドンドンドーンと鎮座していたのだ。
口に入れると、それはクコクコと心地良い歯ごたえとともに崩れ、ホワイトアスパラガスと筍の中間のような淡い味わいが広がった。

見た目も味も、ホワイトアスパラにも筍にも似てはいるものの明らかに別物であることは確かで、何度頬張ってみても いったい何物だか皆目正体不明だったので、ある時、ウェイトレスさんに尋ねると、「これはパルミットといってヤシの新芽なんですよ」と教えてくださった。
ヤシというのは中身のジュースのみならず 芽も食することができるのだな!洋食でヤシなんて面白いな! と小さく驚かずにはおれなかった。

足繁く通っていた頃も惜しまれつつ閉店してからも、私はそれはもう 他のありとあらゆるレストラン・喫茶店でもサラダをいただいてきたが、このパルミットに対面したのは ここバーゼルだけである。
だから 必然的に私の頭蓋には、2センチ×10センチの象牙色とクコクコの歯ごたえとアスパラと筍の中間の味わいが 深く刻み込まれることとなった。

先日----
偶然にも、国立の街の他のレストランでシェフをやっておられた というかたとお話する機会があり、国立懐かし話に花が咲いた。
そして、バーゼルのパルミットのサラダの印象を語ると、こう穏やかな笑顔で返してくださった。
「バーゼルのシェフはフレンチ出身だからですよ。 フランス料理では よくパルミットを使うんです。 舶来の食材を扱うスーパーでは水煮にしたものを 缶詰や瓶詰めで売ってますよ。 それをそのまま乗せれば パルミットのサラダの出来上がりですよ」

後日、カルディに行くと----
----あった。
久しぶりに、クコクコの歯ごたえをたよりに ペタペタの真白くまばゆい内装を 眼前に鮮やかによみがえらせてみたくなった。

パルミット.jpg

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 1440回の喫茶店  [喫茶店・レストラン・カフェ]

我が家は、私が物心ついた頃から外食中心の家庭で、毎日のように レストランや喫茶店に立ち寄っていた。
外で飲み食いすることは幸福なことなのだ、と私は刷り込まれて育ったように思う。

中学に入った時----
母親の方針で、私は家庭教師の来る日以外は 学校帰りに夕食を済ませてから帰宅することとなった。
家庭教師が来るのは週二回で、そういう日は早く帰って肉を焼くなど簡単なものを作り食べ、待機した。
日曜日は、原宿に古着を物色しに出掛けていたので、やはり外で食べていた。
冬・春・夏の休み期間も、部活だ原宿だと毎日のように出ており、家で食べるのは、同様に 家庭教師の来る週に二度だけだった。

喫茶店.jpgレストランでしっかりと腹を満たしてから くつろぎに移動する日と、喫茶店自体で食事を摂る日とあったが、いずれにせよ 外で食べる日は、必ず一度は喫茶店の扉を押すのだった。
つまり、単純計算して、中学高校の6年間で私が喫茶店に入った回数は、1440回ということになる。

1440回中----、もちろん複数回入った店も少なくないが、あの頃は、喫茶店と名がつけば とにかくどんな店でも覗いてみずにはおれなかった。
純喫茶 名曲喫茶 民芸喫茶にマンモス喫茶。 デパートの地下のコーヒー豆売り場の片隅に設けられたカウンターだけの喫茶スペース。 巨大パフェ巨大あんみつを売りにする大衆的喫茶に店内に石灯籠が置かれ鯉の泳ぐ高級喫茶。 ジャズ喫茶にロック喫茶。 甘い香り立ちこめるケーキ屋併設の喫茶ルームに 場末の映画館併設のアングラティックな喫茶店。 奥様が道楽で営っているらしきバラのカップの並ぶ喫茶店に 夜はスナックとなるどぎつい照明とソファの喫茶店 等々々・・・・・

喫茶店2.jpg当時の私にはどの店もそれぞれに興味深く、心は遊園地の乗り物を次々と堪能する幼児さながらにときめいた。
が、今現在 最も郷愁を覚えるのは、「ヒッピーあがりのマスターの経営する喫茶店」である。
理由は二つある。
一つは、資本主義社会の荒波にまっ先に淘汰されてしまったのであろう、私の知るかぎり とうに一軒も遺っていなく、もはや頭蓋の中でしか再訪できない、という理由。
もう一つは、ニキビ面の若ぞうを侮蔑の感情を露わにして邪険に接してくる店が多かった中、対等のまともな人間として対峙してくれた、という理由である。

もしも時空を行き来できたら、も一度、薄暗い店内で 決して愛想をふりまかない朴訥な温かな笑顔を仰ぎながら 本場インド仕込みのチャイをすすってみたい。 


タグ:喫茶店
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「山田孝之の東京都北区赤羽」にも登場したナイトレストラン・マカロニへゆく [喫茶店・レストラン・カフェ]

仲良くさせていただいている 純喫茶ブログの人気ブロガー・エムケイさんから 以下の内容の連絡を受ける。
「赤羽に在る ナイトレストランと冠した店---この『ナイトレストラン』とは何ぞやと 以前から非常に気になっているので、ぼんぼちさんさえ良ければ 同行して解明に協力してほしい。 なお、この店は、『山田孝之の東京都北区赤羽』というテレビ番組で放映される予定で、ご同行願えるとしたら放映直後となり、もしかしたら混むことになるかも知れないが」。
私は二つ返事でokした。
何故なら----
先ず、赤羽という街の古めかしさや庶民性には惹かれるものが大きく、時々 散策に出向いており、また近々再訪したいと考えていたところであり、
次に、「ナイトレストラン」とは一体どういう形態の店なのか---単に夜だけ営っているレストランではなさそうだぞ!といった好奇心もあり、
そして何より、私は山田孝之さんの熱烈なファンなので、テレビを持たなくとも 番組の情報は、山田さんのプロダクションのサイトを通じて知っていて、その観点からも気になっていた、からである。

一月十七日。
連日より一段と寒さを感じる。 時折北風。
赤羽駅付近の商店街をやみくもにうろついたり 純喫茶で与太話をしたりしてから、いざ、マカロニへ。
エムケイさんが地図を出して探してくれるが、住宅街の中にぽつねんと在るらしく、なかなか見当たらない。
何度か帽子が飛ばされそうになる。
和菓子屋で尋ね、ようやっとそれらしき灯りを発見。 駆け寄る。

まばゆい灯下に数多の文字。 ナイトレストラン とんかつ 割烹 洋食 オリジナル健康薬酒・・・・
番組のポスターも貼ってある。
混沌である。
何でもありの大衆料理屋といったところか??
ガラガラと引き戸を開けると・・・・・
赤羽1.jpg
「いらっしゃあ~~~い!!」
アメリカの国旗をプリントしたエプロンを着けた しゃきっと背筋の伸びたハツラツとした年配男性。 満面の笑み。 番組サイトにマスターとして載っていた顔だ。
雑然とした店内。 テーブル三卓。 あちらにもこちらにもモニター画面。 びっしりと貼られた手書きのメニュー。 並ぶ酒瓶。 ここにも番組のポスター。 そして、天井からはミラーボール・・・・
----そうか! ナイトレストランとはスナックだったのか!!
九割かた、私の内での謎が解けた。

私の顔を覗きこむやマスター、
「こちら外人さぁ~ん? ハーフ?」
「いえ、日本人です」
「あら、外人さんかと思った~!」
私の肩をぐいぐいと揉んだ。
常連さんであるに違いない物静かな年配男性の先客が、エムケイさんと私に一尾づつ鯛焼きをくださる。
ポスター横に山田さんのサインを見つけ、指さしたりしていると、マスター、
「ついこの間、『山田孝之の東京都北区赤羽』っていうテレビ番組にウチが出てね~」
早々に 録画したものを再生してくださる。
撮影時の話を聞いたり 鯛焼きをほおばったり 茄子のバター焼きやフライドポテトを注文したりしながら、わいわいと観る。
実と虚の狭間を狙った構成の番組なのかな?と思う。
「山田孝之さんの大ファンなんですよー」
と言うとマスター、
「そ~なの~」
また肩を揉む。

「カラオケ、歌わな~~い?」
やっぱりきたな。 まぎれもなくスナックだ。
私が憂歌団の「シカゴバウンド」を歌はむとすると、「こっちこっち~」、肩を抱えられてうながされた先は、入り口脇の一段高くなった いわば極小ステージ。
・・・・・と、歌詞の画面を見てびっくり!
マイク片手の己れの顔が映し出されているではないか!!
「なんか恥ずかしいですねー」と独白したり 舌をペロリと出したりしながら歌い了え、後でまたびっくり!
なんと、リアルタイムで顔が映し出されていたのみならず、それが録画されていたのだ。
----よく、何かの事件に関わってしまった人のカラオケを歌う映像というのがニュースで流れたりするが、私がもし何らかの事件に巻き込まれたら、これが流されるのだろうか?
いや、何処の誰れとも判らないから それは無いか・・・・・
などと一人考える。
赤羽2.jpg

皆がひとしきり歌うと、マスターは、他のテレビ番組に出演した時の映像や お若かった頃や有名人と一緒に写ったアルバムを 思ひ出話とともに披露してくださった。
する内、「北区赤羽」を観たので来たという家族連れや 撮影時に山田さんが借りて住んだという建物の隣に住んでいるという女性もやって来て、店内はいっぱいになった。
女性は、「山田くんはいいねー。 これからも ずーーっと赤羽に住んでくれるといいのにー」と、目を細めていた。
そして、どれほど山田さんのファンであるかを熱弁する私に、こっそり貴重なものをくださった。
恐縮。 感謝。

私が、番組の録画をもう一度観たいと申し出ると、マスターは、ビデオを貸してくださると仰ったが、遠くから来ていて そうそう近いうちには返しに来られないので と、丁重にお断りする。
「どこから来たの?」
「杉並区、西荻窪です」
「そ~お! それは遠いね~」
また肩をぐいぐい。
揉まれつつ、番組はDVDになったら全回じっくり堪能しようと思う。

マスター、店外まで見送ってくださる。
気温は夕より下がっている筈なのに さして寒さを感じずに、二人して声高に先のひとときを反芻しながら 赤羽駅までゆらゆらと歩く。

いくら私が熱烈な山田孝之さんのファンだからといって、自らの意志で一人でマカロニを訪れようとは つゆ考えなかった。
誘ってくれたエムケイさんに感謝。
のみならず、マカロニのマスターら、この日 関わり合ったすべての人達に 感謝。

赤羽3.jpg


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 喫茶店で自分は常連だと実感するとき  [喫茶店・レストラン・カフェ]

みなさんは、喫茶店に通っていて「あぁ!自分は店主から常連だと認められたのだな」と実感するのは どんなときでしょうか?
会計時に「『いつも』ありがとうございます」と会釈される。
「いつもの」で 注文が通じる。
店主から 温泉まんじゅうやCDなど、物をもらう。 等々々・・・・
私は、「自分一人を店に残して 店主がしばし店から消える」だと認識しております。
----勿論 店主一人で営っている小さな店に限ってあり得ることですが。

喫茶店3.jpg自慢ですが 私はこれまでの人生で、三店の喫茶店店主から、この 常連のお墨付きをちょうだいしました。
たいていは、「・・・あの・・・まだ帰ったりしないですよね」と声をかけられ、「ちょっと両替えに・・・」とか 「そこのスーパーまで・・・・レモンきらしちゃって」 といった理由で、「すみません、10分くらいで戻るんで・・・」と、きんちゃく袋などを片手に あたふたと出てゆかれます。

その間、やけに大きく感じられるモダンジャズを聴くともなしに聴きながら、手の甲を両腿の下に敷き、アイスコーヒーをちゅーーーとやったりして ぽつねんと過ごします。
心は嬉しさに羽ばたきます!
何故なら、悪さをしようとしたら何だってできる中----益子焼のティースプーンを一本 鞄に忍ばせてしまわおうが、砂糖壺に思い切り塩を振り入れようが、売上金の入った古い木の薬箱を小脇に抱え 鼠小僧の如く走り去ろうが----店主からしたら、どこからやって来てどこに帰るとも 何を生業としているとも皆目分らぬ、どこの馬の骨ともつかない者に 愛する自店の店番をゆだねてくださったのですから。

喫茶店1.jpg同時に ちょっとだけドキドキもします。
いえ、決して それらの悪さを実践してみようなどと思考するのではありません。
ぽつねんとコーヒーをちゅーーーとやっている間、他に客が来たらどういう行動に出るのが相応しいのか 逡巡するのです。
店主から「あなたは立派な常連さんです」と行動で以って認定された私は、どういう態度で客を迎え入れるのが 店主の期待を裏切らない名誉お留守番係となり得るのか----

やってきた客が自分より常連の場合は 何の問題もありません。
店内を軽くぐるりと見やるや、「あ、マスター、両替えかなんか?」と チラとこちらに視線を送り、慣れた様子で棚から新聞をタン!と取り、足を組みながら灰皿を引き寄せます。
私は、「・・・あ、・・・はい」と小さく頷き、ちゅーーーと続ければ済むわけです。

これが、私より常連度の低い客か一見の客だったとき----
私には二つの選択肢が与えられます。
一つは----
「あ・・・あの・・・・マスターは、ちょっと出られてて 10分くらいで戻られるみたいです」 背筋を伸ばし 両手を膝にそろえ、目をぱちくりさせつつ遠慮がちに発し、私もほっておかれてとまどってますーーーと言はむばかりに 「外の人」であることをアピールする態度。
もう一つは----
冷やタンとメニューを手に、「いらっしゃいませ! マスターは10分ほどで戻りますので、申し訳ありませんが少々お待ちください」と深々と会釈をし、自分の席に戻り、頬杖をつき、再び一曲目からリピートされるモダンジャズにふんふんとリズムをきざむ「半内の人」の態度。

幸いと言うべきかあいにくと言うべきか、三店の店で店主のいない間に他に客が来た経験はなく、三店とも「あーー、ごめんごめん、何もなかったよね」と やけに長く感じられた10分に終止符が打たれました。

----そろそろ四店目の常連認定状が差し出されそうな今日この頃・・・・
冷やタンとメニューを収めてあるレンガ造りのカウンターを 無意識に確認している自分がいます・・・・。
喫茶店2.jpg

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