近田春夫著「グループサウンズ」で、GSファンも目からウロコ! [感想文]

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私はGSが好きで、有名どころの代表曲の他には、特に嗜好に合う スパイダース ゴールデン・カップス タイガース オックスを、少々突っ込んで聴いています。
しかし残念な事に、私は世代的にGSリアルタイム世代ではなく、ネオGS世代なので、GSのコンサートには物理的に行けなかったために、ネオGSの王者・ファントムギフトのライブに甘んじていたので、いくら、前述したGSグループのライブ盤を聴いたところで、音源に収められていない曲は聴く術が無く、又、どのGSグループが先にデビューしたか、や、どの様な理由でGSがこの様な形態の音楽になったのか、など、点々でしか解らなかった事を、この本は、線でつなげてくれ、「何故?」も詳らかに解説してくれているので、目からウロコが何枚も落ち続けました。
さすが、天下の近田春夫さん!と唸った一冊です。

先ず、GSの萌芽。
定説では、ビートルズに憧れ 模倣した若者達が、プロダクションに見い出されてデビューした、とされていますね。
けれど私は、この定説には、大きく疑問を覚えていたのです。
まぁ、GSとひとくくりに言っても、方向性は様々でしたから。
ーーーもし、全てのGSグループをごったに一つの大鍋に入れてグツグツ煮て、そこから匂い立つものって、果たして そんなにビートルズビートルズしているだろうか?ーーーと。
その疑問を、近田さんは、ズバリと解明してくれます。
GSの種になったのは、ビートルズじゃなくてアストロノウツの「太陽の彼方に」だよーーーと。
もっと正確に言うと、アストロノウツの、水泡が次から次へと湧きあがるが如くの「♪ポンポヨポンポヨポンポヨポヨポヨ、、、」という音ではなく、それをカバーした寺内タケシとブルージーンズの、柔らかでかつ押しの強い「♪ジャージャジャジャージャジャジャージャジャジャジャジャジャ、、、」のギターサウンドだーーーと。
私は、「あぁ!そうだよ!これだよ! これがGSの種の音だよ!」と、膝を打ちました。

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次に、繁栄期。
GSというのは、他国にはない、独自のガラパゴス的進化をとげた 日本だけの音楽ジャンルです。
ネット時代になり、世界のあらゆる時代の音楽が自由に聴ける様になった現代では、他国に「GSマニア」が存在するほどです。
何故、種の種はアメリカにあり、多くのGSグループが、ブリティッシュロックをやりたかったにも関わらず、シングルカットされる楽曲は、ロックだか歌謡曲だか判らない、又、歌詞も、舞台はヨーロッパのお城で、メンバーは王子様さながらの衣裳とイメージだったのかというとーーー
メジャーデビューするには、GSのメンバー本人達に主導権は全く無く、それを握っていたのはプロダクションであり、各プロダクションの方針で、殆どのGSグループは、歌謡曲の作詞家・作曲家の先生が、楽曲を作っていたわけです。
当時の作詞家・作曲家の先生方というのは、モダンジャズが好きで、ロックはあまり知らずに、「ロックって、こんなものだろう?」という憶測で作り上げたから、あの様な、悪く言うとへんてこりんな、良く言うと独創的な楽曲になったそうです。
又、お城と王子様のイメージは、まだGSがグループサウンズと命名される以前のGSブーム初期に、ブルーコメッツが「ブルーシャトー」を大ヒットさせ、「ああいった歌詞なら当たるんだ!」といったところから来ており、歌詞に留まらず、衣裳が王子様になり、イメージも、「トイレにも行かない」風を作ったそうです。
この様なシングルカットに不満を抱いていたGSグループは少なくなかった様で、アルバムを聴くと、ストーンズやアニマルズ、そしてビートルズを、ガレージパンク的なノリで何曲も演っています。
カップスに至っては、ステージでは、シングルカットされた曲は、徹底して 一切演らなかったそうです。
シングルカット曲は、あくまで、メジャーでいるための、商業的手段と、割り切っていたんですね。

そして、衰退期。
GSブームというのは、爆発的な大ブームになったにも関わらず、ほんの五年間くらいで、終焉してしまいます。
何故ゆえ、これほど、ブームの終焉が早く来てしまったのか???
私は以前、ムッシュかまやつさんの自伝を読んだ時に、ムッシュは、「GSは金になる!と、ありとあらゆるプロダクションが、実力もないのに王子様の格好だけをさせて、それはもう沢山のGSグループをデビューさせ、結果、まるで戦国時代のようになってしまった。 これが、GSブームがあんなにも早く終わった理由だ」と述べていましたが、近田論によると、それだけではなかったとの事です。
オックスの失神騒動ーーー。
前身としてのグループ活動は以前からあったけれど、オックスは、GS大繁栄期にデビューします。
なので最初から、「お城」であり「王子様」を背負ってスタートします。
その中で、オックスが前身時代からパフォーマンスとして演っていた、ノリにノってくると、ステージを転げ回る、というのを、ストーンズのカバー「テルミー」で、ステージで披露し、失神パフォーマンスにつなげたところ、観客のファンの少女達も、集団トランス状態になり、失神する様になってしまった。
これをPTAが許さなかったから、という事です。
オックスのライブ盤に、演歌やわらべ唄が入っているのは、失神ファンを少しでも抑える目的だったそうです。
それでも失神少女達はいなくはならずに、PTAで、「失神少女達を出すオックスいかん→GSは悪だ!」という図式が成り立ってしまい、GSのコンサートに行かせない学校が増え、みるみると終焉に向かわざるを得なかった様です。

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GSブームが終わってから、代表的なGSの人気者ばかりがチョイスされたグループPYGが結成されますが、これも長くは続きませんでした。
この理由は、私にもすぐに解りました。
ジュリーとショーケン、それにスパイダースの面々を入れ込んだグループなど、ファンが認めるわけないではありませんか?!
ジュリーファンにとって、ショーケンは敵、ショーケンファンにとっても全く同じ。
本格的ロックファンを自認していたスパイダースファンにとって、元タイガースや元テンプダーズのメンバーなどは、単なるアイドルとして、鼻もひっかけないのですから。

日本で最初のロックブームであったロカビリーブームは、こうして、第二期日本ロックブーム・GSブームに引き継がれ、そして、はっぴいえんどに代表される第三期日本ロックブーム、つまり、ニューロックの時代へと、移行します。
勿論、それぞれのブームとブームの間にはキッチリと縦線が引けるわけではなく、前のフェイドアウトと次のフェイドインは重なっています。
GS後期にも、カップスやモップスは、すでにニューロックを演っていましたから。

ですから、この書籍、リアルGS世代のかたで、「どうしてこうなったのだろう?」と、謎を覚えていた向きにも、私の様な、後追いのGSファンが、GSを構造的に理解するにも、ニューロック以降のロックファンが、自分達が今、夢中になっている時代の前のロックシーンはどの様だったかを知る上でも、多大な知識を与えてくれる一冊です。
値段も大きさもお手頃でありながらも、得るものは非常に大きな一冊です。

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