「十二人の怒れる男」観くらべ  [感想文]

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「十二人の怒れる男」----陪審室での評決に至る過程を通して、あたかも フラットな面がノミで彫りすすめられ十二のまったく違うレりーフがぐぐっと浮かび上がるが如くに 十二人の人物像に焦点があてられる、密室劇といえば先ず最初にタイトルの挙がる みなさん御存じの人間ドラマです。

私は中学時、舞台で演られているのを観、その後 何十年もの間、何の疑いもなく 「アメリカ現代演劇を代表する作品のひとつなのだろう」と思い込んでいました。 「ミラーか誰れかの作なのだろう」 と。
しかし、正しくは、元は戯曲ではなく 1954年に 主にテレビの仕事をしていたレジナルド・ローズによって 米国・テレビドラマ用に書き下ろされた脚本だったと知り、若干の驚きを否めませんでした。
この作品はそれくらい、大仰な装置を必要としない一場物の密室演劇として 違和感を感じさせぬ完成されたものだったからです。
どこの劇団だったかは失念してしまいましたが、演技に対しては、---まぁ、およそ35年も前なので、どの役者も 無駄に大げさに動きまわったり 喉に力を入れ過ぎる発声をしていたり と、いわゆる現在(いま)でいう「新劇調」で、「これこそが演劇だ!」と主張せむばかりの姿勢に 当時から甚だ疑問を抱いていた私は、本への感嘆とは裏腹に、心の上体を退かせ眉をひそめ口をゆがめない訳にはゆきませんでしたが。
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そして先日、今度はDVDで以って 三つの「十二人の怒れる男」の扉を押してみました。

先ず一つは、1957年・米・映画版「十二人の怒れる男」
1954年のテレビドラマが好評だったために ローズの脚本を使って映画化されたものなのだそうです。
54年テレビドラマのほうは、現時点では日本ではDVD化されていないので 観くらべられないのが何とも残念ですが----折り重なる台詞と間の緩急、机上の手・挙手の手を捉えるキャメラ、雨音の効果---殊に、最後の一人の男の「・・・無罪だ」の台詞の後で 感情を裏打ちする形で使われている個所などは、息を飲み強烈に吸引されました。

二つめは、1997年に やはり米国でリメイクされたテレビ映画「十二人の怒れる男--評決の行方」
基本的には、前述の映画と同じ---つまり、最初のテレビドラマと同一の脚本から起こされているのが判りますが、時代設定がこのテレビ映画が創られたリアルタイムなので、それに伴い 変えるに相応しい細部は変わっています。
又、今回は、十二人の中に黒人も何人か加わっており、この点も 米国の時代の変遷として見落とせない所です。
感嘆の溜息をつきつき何度もリプレイし観入ったのは、ジャックレモン演ずる唯一最初に異論を唱えた男が、足をひきずり室内を歩き時間を計るショットを その男目線で撮ることにより、男の内側からの感情と 他の男達にどんな感情をぶつけられているかを 観る者にリアルに迫り来させ 際立たせていたことです。
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そして三つめは、2007年・ロシアにより創られた「12」
こちらは、元の「十二人の---」が 真犯人追及ではなく評決という一つの石の投げ入れによる十二人十二様の波紋に力点が置かれているのに対して、死刑廃止となっている当国の現実やチェチェン問題を背景に、現代ロシアでこその解釈と脚色で以って展開させた これもまた達作です。
陪審室が事情で使用できないという設定で隣の学校の体育館が舞台となるのですが、観すすむ内、館内に置かれている大小様々な用具が 実に上手く小道具大道具として活かされ 「あぁ なるほど! 体育館とはよく発想したものだ!!」と 腹の底から唸らずにはおれませんでした。

密室劇のスタンダード演目として光衰えぬ「十二人の怒れる男」
これからも 様々な国に於いて様々な脚色・演出で 繰り返し上映・上演され続けてゆくことと思います。
またどこかで新たな「十二人---」に出逢ったら 是非、観くらべてみたいと考えています。

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コメント 36

cafelamama

この作品、僕も見比べたことがありますが、
もっともよかったのは、シドニー・ルメット版をアフレコした
テレビ放送用に作られた日本語版でした。
ヘンリー・フォンダの小山田宗徳氏はじめ、
声優の方々のアテぶりは、実に見事でした。
by cafelamama (2013-04-04 08:12) 

ぼんぼちぼちぼち

cafelamama さん

シドニー・ルメット版、DVDであっしが観たほうは、別の声優陣だったので
そちらとも聴き比べしてみたかったでやす。
あっしは恥ずかしながら外国語がまるで解らないので吹き替え設定で、
吹き替え設定にしながらも字幕も出せる時はそれも出して観るのでやすが
言わずもがな声優陣の力も大きいでやすよね。
作品自体がいいのに声優の力量が今一つだと、聴いていて非常にストレス溜まりやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-04 10:54) 

はにほ

この作品は前から話には聞くのですが、恥ずかしながらまだ見たことがありません。
ぼんぼちぼちぼちさんの今回の記事を拝見し、先ほどあまぞんでDVD発注しました。
先日、BSで十二人の優しい日本人を見て いたく感激したもので、大元を見てみたいものだと思っておりました。
ちょうどよいきっかけです。
ありがとうございます。
by はにほ (2013-04-04 12:15) 

ナツパパ

昔々、わたしも映画見ました。
緊張感溢れる良い映画でした。
この作品と、ニュルンベルク裁判、
中学生の時見て、衝撃を受けたなあ。
by ナツパパ (2013-04-04 14:06) 

さきしなのてるりん

裁判員裁判を題材にした同じような映画が日本でも作られてませんでしたか??記憶違いかな。
by さきしなのてるりん (2013-04-04 19:21) 

beny

 12人の怒れる男は、ヘンリーフォンダのしか知りませんでした。
by beny (2013-04-04 19:26) 

ケロヨン

父が大好きだった映画のひとつで、子供の頃
無理やり見せられた記憶があります。
色々見せられた中では、この映画は今でも
心に残るいい映画だったな~と記憶してます。
リメイクも見てみたいですね。
by ケロヨン (2013-04-04 22:35) 

mwainfo

まさに名作、ラストシーンのセリフがいいです。
by mwainfo (2013-04-05 11:18) 

風太郎

「12人の優しい日本人」日本に陪審裁判制度があったらという映画は、中原俊監督、三谷幸喜脚本の映画も風刺がきいていて、そして笑える映画でした。
by 風太郎 (2013-04-05 11:27) 

ぼんぼちぼちぼち

はにほ さん

おぉ!そうでやしたか!
ここに紹介した三作品、どれも 何度も何度も繰り返し反芻するに値する作品だと思いやす。
・・・かく言うあっしは、レンタルで観たので、それぞれ二十回くらいづつしか観てないのでやすがf(◎o◎)
あっしも、機会があったら購入しようかな・・・と考えてやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-05 12:24) 

ぼんぼちぼちぼち

ナツパパさん

あぁ、ニュルンベルク裁判、あっしはまだ観てないので 近いうちに観ようと思いやす。
教科書で知るのとは 自分の中に入り込む衝撃度が全然違いやすもんね。
こういった材の映画は、学校の団体観賞日などでも取り上げてほしいでやすよね(◎o◎:
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-05 12:42) 

ぼんぼちぼちぼち

さきしなのてるりんさん

その作品、たぶん、 コメント欄にて風太郎さんが仰ってる「12人の優しい日本人」だと思いやす。
あっしはそちらは未だ観てないので、機会があったら観てみよう と思ってやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-05 15:53) 

ぼんぼちぼちぼち

beny さん

上のコメント欄にてcafelamama さんも挙げておられる 最初にリメイクされた作品でやすね(◎o◎)b
他のリメイク二作品も、それぞれに甲乙つけがたい秀作だと思いやした。
1997年版では、ヘンリーフォンダが演っていた役は ジャックレモンでやした。
ちなみに 声は、愛川欣也さんではありやせんでやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-05 16:17) 

ぼんぼちぼちぼち

ケロヨン さん

ケロヨンさんも、上のbeny さん同様、ヘンリーフォンダが最初に異論を唱える男を演じた作品を観られたのでやすね。
他の二作品も 機会があったら是非、観てみられてくださいでやす。
大きく書きかえられたロシア版も、現代ロシアであることの意義を強く感じる達作だと思いやした(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-05 16:29) 

ぼんぼちぼちぼち

mwainfo さん

そうでやすね~
「・・・・・・・・・・・無罪だ」
観客として聴き甲斐のある、役者さんとしては言い甲斐のあるに違いない キメの台詞でやすね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-05 17:01) 

ぼんぼちぼちぼち

風太郎さん

あっしは そちらのほうは未だ観てないので
近いうちに観ようと思ってやす。
公開当時、かなり話題になったことを記憶してやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-05 17:06) 

pandan

いつも訪問ありがとうございます。
by pandan (2013-04-06 04:56) 

只野親父

ご訪問&NICEありがとうございます。

by 只野親父 (2013-04-06 14:55) 

rantan-nya

わたしもフォンダのをテレビの洋画劇場かしら?で見ました・・
といっても、内容に記憶が無いよう~
題だけが印象に残っていて、覚えてました^^;
まだ陪審員制度のことも分からなかった気が・・ 今は日本も裁判員制度も出来たし
改めて見ると違って見えるかもしれませんね
by rantan-nya (2013-04-06 15:32) 

はる

「12人の優しい日本人」というパロディでした。パロディきっかけで私もこの映画を観ました。
by はる (2013-04-06 19:25) 

Onias・P

恥ずかしながら、一度も見たことがありませんでした。。。
一作目の頃は、私はまだ生まれておらず(w)
1997年の頃は、子供が3才&0才で育児に忙殺され、自分の時間が持てなかった頃・・・。
子育てに一息ついた今、じっくり堪能できる作品をご教示いただきました!



by Onias・P (2013-04-06 19:53) 

ぼんぼちぼちぼち

pandan さん
只野親父さん

こちらこそ ありがとでやす(◎o◎)/
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-06 21:09) 

ぼんぼちぼちぼち

rantan-nya さん

ヘンリーフォンダのを観られたかた多いのでやすね。
この記事を公開するまで、多くのかたには どのくらいどのリメイク版が知られているのか見当つかなかったので
みなさんのコメント読ませていただいて とても参考になってやす。

そう、あっしも中学時 舞台で観たときは、陪審員制度について
「へー アメリカにはそーいう制度があるのかー」って、すごく遠い世界のことに感じてやした(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-06 21:19) 

ぼんぼちぼちぼち

はるさん

「12人の優しい日本人」をきっかけに「--怒れる男」を知られたかたも多いようでやすね。
「--優しい日本人」、日本人ならではの右へならえ主義がシニカルに描かれた面白い作品だと聞いてやす。
近いうちに観てみやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-06 21:28) 

ぼんぼちぼちぼち

Onias・Pさん

そうでやしたか。
忙しいと、映画鑑賞どころではなくなってしまいやすもんね。
あっしも どれもリアルタイムでは観ていなく
こうしてDVD化されていることに大きく感謝してやすo(◎o◎)o
一息つかれた今、是非(◎o◎)/
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-06 21:37) 

tree2

「いわゆる新劇調」って、鼻につきますね。
by tree2 (2013-04-06 23:54) 

ぼんぼちぼちぼち

tree2 さん

でやしょ~
でも、35年くらい前は、まだ演劇=新劇調 それがいいと思えなければ演劇の何たるかを解ったことにはならない って思想が演劇人・演劇好きの多数派だったんでやすよ。
なので、演劇に興味ある=新劇調が好き って思われるのが非常に不愉快でやしたね。 そればっかが演劇じゃないのに って。
まぁ ようやっと、あのおかしなメソッドは過去形になってくれやしたが。
タモリさんが「新劇のマネ」って芸で カルカチュアされてるの 的を射てて面白かったでやすね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-07 11:25) 

ハンタ

1957年版を見たことがあります。
元はドラマだったんですね。初めて知りました。
ロシア版も興味がありましたが、上映時間が長かったので観ないでしまいました。(たしか3時間近く?)
ぼんぼちぼちぼちさんの体育館というキーワードがすごく気になるので、いつか見たいと思います!
by ハンタ (2013-04-07 15:07) 

ぼんぼちぼちぼち

ハンタさん

やはり1957年版を観られたかた多いのでやすね。
ロシア版は、そう、ちょっと長いでやすね。
でも 観始めると、ぐいぐい引き込まれてあっという間にエンドロールを迎える って感じでやした。
機会があったら観てみてくださいでやす(◎o◎)/
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-07 18:43) 

moto_mach

まだ一度も見てないです
BSでやってくれないだろうか
是非見たいです
by moto_mach (2013-04-08 10:35) 

ぼんぼちぼちぼち

moto_mach さん

あぁもBSでやってくれるといいでやすよね。
こういう方向性の作品はやりそうな気がしやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-08 11:17) 

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