いきさつ・第八章 [作文]

何処で待機していたのか カイザー髭の口の閉じるか閉じぬ内に、黒子が二人 あっしの足元に音も無く走り寄0802.jpgり しゃがみやした。
まぶしいアスファルトの上に、黒子は黒子である事が 非常に強い存在感を打ち出しておりやした。
向かって右の黒子は 靴みがきに使う時の台を、左側のは あっしのもう片っぽのゴムぞうりを、何か大事な物をささげ持つ様に持ち 片ひざを立てて静止しておりやした。
そして、そのポーズとは裏腹に、互いに 「三角だ!」 「四角だ!」 と、小声で主張し 睨み合っておりやした。0805.jpg

あっしは、「ははぁ、この奇妙な山高帽の白い顔と黒子は、昨夜の割烹と同じ経営下でショーを演る店の従業員で、あっしの忘れ物を届けに来てくれたんでやすな」 と、憶測しやした。
いえ、それ以外 あっしには思いつく理由が無かったので、無理にでもそう己れを納得させ、あっしの今おかれている状況のつじつまを合わせたかった、と言ったほうが正しかったかも知れやせん。
ただ 「三角」と「四角」の意味だけは、かいもく謎でやしたが。

「さあ、どうぞ!」
白い顔に促されるままに、左 そして右とぞうりを履き、いつものあっしが完成しやした。0804.jpg

「おめでとうございます!!」
白い顔が拍手をしやした。
同時に、目の前のその山高帽も見えぬ程の紙吹雪が あっしを包みやした。
いつの間にか黒子二人は、やや離れた所から 長い棒の先に付けたカゴを 「三角だ!」「四角だ!」と、矢張り睨み合いながら揺すっていやす。
「三角」「四角」というのは、どうやら 「三角形の雪のほうが美しく舞う」 「いや、四角形だ」 といった 黒子業界の論法の違いだった様でやす。
いえいえ、あっしに降りかかる雪は、三角も四角も どちらもとても美しく舞っておりやしたよ。

殿様の様にぞうりを履かせてもらった事と、紅白のトリを務めるサブちゃんさながらに紙吹雪に包まれた事に あっしは、単純に緊張がほぐれ、そして 気分が高揚してきやした。0801.jpg
と、唐突に 白い顔は真顔になり
「アナタのやりたい事は何ですか?」
と、あっしの顔を覗き込むのでやす。
あっしは、昨夜の己れの内を読まれた様な気持ちに やや気圧され、しかし同時に その気持ちにくすぐったさを感じつつ、そして 又一方では、こんな妙な奴に理解出来るのか という挑戦的感情を持って、ついぞ誰にも打ち明けた事の無い -------無論、蟹田氏にも------ 本心を答えやした。
「吐露でやす。内なるものの吐露でやす!」

「成程、それは良いですね」
白い顔は トロ を音ですぐ理解出来たと見え、その上 自身に共感するものがあったのか、大きくうなづきやした。
「--------- しかし、キミがそれを知ったところで・・・・・・」
黒子が既に用意していたのか、次の瞬間 白い顔は ノート型パソコンらしき物を左手に抱え、右手でその一部を クルクルと撫で回していやした。

「それを知ったところでどうなるんでやす? それは、パソコンでやしょう」
「ですから、これで 内なるものの吐露をなさるんですよ」
あっしは、馬鹿にしてやがる と思いやした。
こんな機械でもって、あっしの心の奥底の、淀みや 揺らぎや 苔を 伝えられる筈無いでやす、と。
もしかしたら 白い顔は、吐露の意味を間違って解釈しているのではないかしらん、と。
「だいたい、それには マウス という物が生えてないじゃあないでやすか。 パソコンにマウスが生えてる事位、あっしだって知っていやすよ」
こう突っ込んでやりやした。0802.jpg
「マウスのほうが宜しければお付けします」

すると、これも黒子が構えていたのか、即座にノート型パソコンにマウスが生やされ、山高帽の白い顔は、左手にパソコンを抱きかかえたまま 右足を九十度に上げ 右腿の上でマウスをクルクルと回しやした。
まるで、ジャグラーの様でやす!

「先日、デスクトップを購入したので これはもう必要ないのです。 一応、情報は全て消去したつもりなのですが、私は用心深いので オークション等で売って もしもハッカー並みに知識のある人間の手に渡ってしまったら、と思うと不安で仕方が無いのです」
カイザー髭の下から吐かれる言葉は 何が何だかサッパリ解からず、あっしの頭の中は ジャグリングの様にグルグル混乱しやした。
「ですから、私自身の判断する極めて正直なかたへと。 先程は試すような真似をしてしまって 大変失礼しましたが、アナタこそが それに相応しいかただと・・・・・」
あっしにゴムぞうりを選ばせたものは、別にあっしの正直さでは無く 単に あっしにとっての価値基準だったのでやすが。

とにかく、この白い顔は 自身のいらなくなった物を 自身の判断する安心安全な者に譲りたい、という事だけは理解出来やした。
「でやすが、そのパソコンで 吐露 が、本当に可能なのでやしょうか? あっしが表現したいのは・・・・・・」

「勿論! 否、むしろ最適といっていいでしょう」
白い顔は、ジャグラーの姿勢を続けやした。
------------ たとい物理的に可能だったとしても、平衡感覚の鈍いあっしに あんなジャグラーみたいな姿勢が 長時間続けられるものかどうか 自信がありやせんでした。
「ほら!!!」
紙吹雪のいっそうの舞いと共に パソコンの画面が、ぐうっと こちらを向きやした。
「わぁっっっっっ!!!!!」
余りのまぶしさに あっしは、子供向けの芝居の様に 両手の甲で己れの顔をおおいやした。
ゆっくりと手を下ろすと、そこには --------------
       
                     
0805.jpg


             ---------------次回に続くでやす--------------
 

 
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コメント 10

kurakichi

あっしのやり残したものが 吐露 
そしてパソコンがその探していた方法論たりうるのだろうか?
路上演劇風の展開 次回やいかに
by kurakichi (2009-10-28 06:23) 

kiyoakit

ノートパソコンのデータが完全には吐けていないのかも。
by kiyoakit (2009-10-28 06:54) 

ぼんぼちぼちぼち

kurakichiさん

まさに、あの時は 突如 路上演劇に巻き込まれたようで 心が混乱しやした。
しかし、紙吹雪を浴びることがあれ程、快感であることも 初めて知りやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-28 11:24) 

空飛ぶ食欲魔人

こんにちわ!
いつも楽しくよまさせていただいております・・・次回作は二日後ですね?
by 空飛ぶ食欲魔人 (2009-10-28 11:26) 

ぼんぼちぼちぼち

kiyoakitさん

今、振り返ると 山高帽の白い顔は、それを危惧してたんでやすなぁ・・・
しかし、あの時のあっしには 何のことやら皆目理解できやせんでやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-28 11:32) 

ぼんぼちぼちぼち

空飛ぶ食欲魔人さん

はい! 次回は二日後、「いきさつ・最終章」でやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-28 11:35) 

yakko

こんばんは。
お越しいただきniceをアリガトウございます。(^。^)
by yakko (2009-10-29 21:50) 

ぼんぼちぼちぼち

yakkoさん

こちらこそ ありがとうございやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-29 22:14) 

sig

三角四角は紙ふぶき。なるほど。
むか~し、芝居の真似事をやっているとき、三角はくるくる回り、四角はひらひら落ちるから、両方を適度に混ぜて振るったような記憶を思い出しました。なつかしいなー。w
by sig (2009-11-02 00:25) 

ぼんぼちぼちぼち

sigさん

芝居 演っていらしたんでやすねー!
成程、混ぜるのはいいでやすね。
いつかまた 新宿の何処かで、あの二人の黒子に出くわしたら
教えてあげようと思いやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-02 09:53) 

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