映画やドラマの中の画家はやっているけれど現実の画家はやらない事 [映画・演劇雑記]

20230819_114737.jpg

長くこのブログを読んでくださっている方はもうすでにご存知の様に、私・ぼんぼち、18歳~27歳まで、画家をやって母親を養っていました。
という事で、今日は、映画やドラマの画家役はしばしばやっているけれど、現実のプロの画家は絶対にやらない事を、挙げたいと思います。

・絵筆を縦に持ち、モチーフに向かって「う〜む」と、しかつめらしい顔をする。
これ、画学生の一年生ですらやりません。
ある程度画業を積んだ者が見ると、まるでコントです。
私は、そういうポーズと表情を役者さんにやらせる監督と もしもお話し出来るチャンスがあったとしたら、「あれは、一体全体、役者さんに何をやらせているつもりなのですか?」と問いたい、謎のポーズと表情です。

・プロの画家なのにデッサンをやっている。
劇中で、プロの画家が、木炭デッサンや鉛筆デッサンを描いている、もしくは、描きあげたデッサンが画室にある、という設定を見ますが、プロの画家は、すでに十二分にデッサン力がついているので、もう一切、デッサンはやりません。
デッサンをやるのは、プロを目指している最中の画学生、もしくは、美術学校を卒業してもまだデッサン力がついていない 出足の遅い志望者かアマチュアだけです。
プロの画家の画室には、デッサンなどという過去に学びきった遺物は、捨てているか、画室の奥深くに放り込んであります。

・専門用語や画材の使い方がめちゃくちゃ。
台詞で「デッサン」「スケッチ」「クロッキー」「エスキース」「タブロー」などの専門用語が間違って使われていたり、画用紙に木炭で描いていたり、鉛筆デッサンを指でこすったり、油絵の具を指で画面に乗せたりと、画学生でも、言わないやらないめちゃくちゃが、しばしば見られます。

・個展の時に、画商がその場にいない。
プロの画家の個展会場で、その場に画商がいなくて、画家と客が話しをしている、という場面をよく見ます。
これも、絶対にありえません。
プロの画家には必ず画商がつき、画家の傍らにピッタリと画商が寄り添っているのが現実です。
何故なら、画商が最も恐れているのは、とっぱらいをされる事なので、画家と客が名刺交換をしたりなどして、とっぱらいに至らない様、客の名刺は全て画商が受け取り、直接の仲にならない様に、常に目を光らせています。
とっぱらいをされると、画家と客が大得をして、画商一人が大損をしてしまう結果となってしまいますから。

・画家が、ギャラリーの搬出入などを、一人でやっている。
これをやるのは、趣味で描いている日曜画家、つまりアマチュアだけです。
プロの画家の個展の場合は、搬出入は業者に任せ、搬入日は、画商は画家の自宅に車で迎えに来て、一緒にギャラリー入りし、届いている作品を「この作品はここがいいですね」と二人で話し合って、展示作品の場所を決めて、業者に指示します。
搬出は簡単なもので、業者がサーッと全ての作品を画商の自宅に送り届け、後日、画商がそれぞれの作品を買った客に配りまわります。

20230819_114809.jpg
どうでしたか?
みなさんがこれまでに、映画やドラマで観てこられた画家像と、大きく違ったのではないでしょうか?
何故、映画やドラマの中で、こんなトンチンカンな間違いばかりが行われているかというと、脚本家と監督が、きちんと画家に取材をしていないからに相違ありません。
漠然とイメージだけでとか、「以前、○○さんが書いた脚本ではこうだったから、なんとなく真似しておこう」とか「☓☓監督と同じ様に作っとけば、たぶん正解だ」とか、そんなあいまいさで作っているからに相違ありません。

これが、突拍子もない非リアリズムの方向性の作品ならいいんですよ、コントめいたポーズも逆に活きてくる。
けれど、プロの画家の現実をリアルを描くなら、プロの画家にしっかり取材すべきです。
勿論、取材期間は、「はじめまして」から20~30分で、自身の職業のホンネを話してくれる人間などいませんからーーー手品師がタネ明かしをするのと同じですからねーーー少なくとも一年は、密着取材をして、何度も食事や呑みを共にすれば、得られます。

職業によっては、みっちり密着取材をしてから作る映画やドラマも多いのに、何故、画家となると、こうもイメージばかりでトンチンカンな事が連綿と続いているのか、元画家として、首を傾げるばかりです。
20230819_114737.jpg

nice!(239)  コメント(46) 
共通テーマ:映画