ぼんぼち好きな小説十選 [文学雑記]

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○「早く昔になればいい」   久世光彦
 
 世間的にはテレビプロデューサーの仕事がよく知られていた久世氏ですが、優れた小説も幾多遺しています。
 思春期に出逢った美しい狂女しーちゃんとの甘く切ない記憶を再構築した 色彩美溢れる達作。


○「家畜人ヤプー」   沼正三

 SFの世界を舞台に究極のSMが怒涛の如く展開される大長編。
 一見、奇をてらっただけの変態小説のように思われますが、核にあるものは奥深く、哲学以外の何ものでもありません。


○「片腕」   川端康成

 ある夜、女が片腕を貸してくれ、主人公が片腕となまめかしい一夜を共にする 抽象小説。
 肩や指の細かな描写は、流石川端氏。
 私は川端作品では、この作品が最も高評されるべきだと思っています。


○「眠れる美女」   川端康成

 薬で眠らされている生娘と添い寝をさせてくれる秘密の館へ通う老人の内に、若かった頃の女との対話が去来します。
 実は三島由紀夫氏が川端の名で書いたのではないかとの噂のある 晩年に発表された異色作。
 私も他の川端作品と読み比べ、三島説を信じている一人です。


○「痴人の愛」   谷崎潤一郎

 これぞ谷崎氏の真骨頂と言える 谷崎氏のマゾヒストぶりがこれでもかと押し出された長編作品。
 肉体美溢れる淫らなナオミとのSM関係が、どぎつく下品な色彩とともに迫りきます。


○「人間そっくり」   安部公房

 私は安部作品では、ダントツ一番に、この作品を評価します。
 ある日、ラジオドラマ作家のもとに「自分は火星人だ」と名乗る 一見何の変哲もない男がやって来て、「火星人でないと思うのなら その証明をしてみろ」と、数学の証明問題さながらに理詰めで迫り、ラジオドラマ作家は証明しきれずに精神に異常をきたすというシノプシス。
 理論的な安部氏らしく、登場人物二人の理論争が、ぐるぐるねっとりと見事に描かれています。


○「変身」   カフカ

 お馴染みカフカの代表作。
 ある朝、突然 甲虫に姿が変わってしまった真面目な男が、家族からうとまれ孤独に死んでゆくまでを描いた 世界的名作。
 一見 荒唐無稽の作品のように思われますが、姿が変わり果て家族を養えなくなった者誰もが遭遇する可能性のある リアリズムなテーマです。


○「エロ事師たち」   野坂昭如

 野坂氏の代表作の一つ。
 エロに関する裏稼業なら何でも引き受ける男の生き様が、野坂氏特有のおかしさと哀しさ溢れる文体で以って 次から次へと綴られています。
一気呵成に読み了える事必至の、猥褻であり芸術でもある大傑作。


○「赤目四十八瀧心中未遂」   車谷長吉

 朝鮮人美女アヤちゃんの魅力にとりつかれ、追い詰められたアヤちゃんとの心中を夢想するも果たさずに了る車谷氏の私小説。
 四十八瀧に向かう電車の中での「私の心の内の描写」は圧巻です。
 車谷氏はこの作品で直木賞を受賞し、氏の代表作となりました。
 私もこの作品が、氏の中で最も優れていると思います。


○「蝿」   横光利一

 この作品と出逢った時の衝撃は忘れられません。 小説をここまでシナリオめいて書くことが許されるのか!と。
 様々な事情を抱えた客を乗せた馬車が、まんじゅうで腹いっぱいになった馭者の居眠りによって 谷底へ転落し、馬にとまっていた一匹の蝿だけが助かる というシノプシス。
 まんじゅうは女性器(性欲)の暗喩であると 解釈しています。

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