DVD「勇者ヨシヒコと魔王の城」  [感想文]

余りにも大きな感動に突き動かされると、熱にうかされた内なる温度をほどよく冷却し 冷静に言葉にまとめるのに 一寸時間がかかるものです。
私は今春、まさに それに匹敵する作品を鑑賞しました。
「勇者ヨシヒコと魔王の城」
2011年に 深夜の連続テレビドラマ(全十二話)として放映されていた、勇者であることのアイコニックさの突端を抽出したような青年ヨシヒコが ふとしたきっかけで同行することとなった三人と 疫病を蔓延させ悪の支配下におかむともくろむ魔王を倒しにゆく というロードムービー型コメディをDVD化したものです。
監督・脚本は 「大洗にも星はふるなり」の 福田雄一氏。

一体 私は、この作品のどこに、冷却期間をおかねばならぬほどの感動を覚えたのか------。
それは-----、不条理演劇的コントさながらの脚本に 主演の山田孝之氏をはじめとする高い技術をそなえた役者さん達が 真正面から対峙され、だからこそ、そうでなければ絶対に成立しない面白さが大きく立ち上がっているところです。
加えて、山田氏の 作品に注がれている並々ならぬエネルギーにも、こちらまで精神力がふくらみ溢れるような 力の伝播を強く感じました。

ヨシヒコ2.jpg

殊に、如実にそれらを認識した場面を具体的に挙げると-----
瞬間 脱力し、すっと別人格になり変わるところ(剣に魂を移し 奥底の人格が出現する という設定) や、自身の意志とは裏腹に身体が動いてしまう という演技(ヨシヒコが アキーモから去ろうとするが、座布団に戻ってしまうショット) や、日頃 使い慣れている物を 初めて目にし 初めて扱い 初めての感情が芽生える と演る芝居(リモコンを手に エアコンに涼む件り) や、無対象(透明の案内人の頬を叩く) に対してです。
基礎レッスンがそのままタブローになったような ごまかしの一切きかない 役者さんの力量が剥き出しになる 最高の「見どころ」です。

又、台詞の内容を解するだけでは勿体無さ過ぎる 「聴きどころ」も、そこここにちりばめられています。
同一の時空には先ず同居しないような言葉が ひとまとまりのダイヤローグに入っていたり(「ヒップホップの時間」と「賢者の鎧」)、その言葉をそのように発することなど普通ならあり得ないという台詞(深刻に「巨乳が舞いこんだ・・・」の長台詞や 「ブスだって人間・・・」と 切々と仲間に説く件り)等々。
私達には、無意識のうちに 言葉の持つイメージの刷り込みがあります。
例えば、「こんにちは」とか「ありがとう」とかは、日頃から様々な感情で発しているので イメージの幅も広く持っています。
しかし、狭いイメージの語である「巨乳」や「ブス」を 真顔で重々しく となると、これは 漠然と想像するより 遥かに難解です。
だからこそ、全身全霊で重厚に語り切っておられる芝居に 不条理的な面白さが呼吸(いき)づく訳です。
ヨシヒコ3.jpg

台詞の中には 古語も多く登場します。
これは逆に、現代の私達にとっては、ほぼ外国語と言えるほどに馴染みのない 刷り込みのないに等しい言語です。
刷り込みのない言葉に「血を通わせる」ということは、これも又、役者さんがたは なんなく発しておられるように聴こえますが、実際やってみると そうそう簡単ではないと解ります。

それらの 一筋縄ではゆかない台詞の数々が、極めて演劇的な「間」により 効果的に立ち、私達を魅了します。
「間」に どれほど心が砕かれ 細かな演出がつけられているかが 全編を通して明確に感じられます。

他にも、決して書き落とせない 強烈な感動要因があります。
山田氏の「表情の深さ」です。
中でも、盾を金持ちのラドマンの前で持ち出そうとしても持ち出せなかった時の 思いつめたまなざし や、オイッスの村でイガリヤから靴を受け取り 「(笑わせられなかった者を牢屋にぶちこむのは) やめとくよ」 と言わせた時の 笑み には、つくづく改めて、山田氏が 名優中の名優であることを 深く頷かずにはおれなく、繰り返し観入っては、その度に 感嘆のため息を長く吐いてしまいます。

私は、十二話の話を それぞれ十回ほど観、当記事を書くにあたって 冷却期間をおこうと何日か空けていますが、書き終わるや、再び 感動の海に船出するつもりです。
きっと、何百回も何千回も 漕ぎ出でると思います。
熱にうかされるほどに大きな感動を与えてくれる表現は又、鑑賞者を そうせざるを得ない行動にも突き動かすものです。
ヨシヒコ.jpg

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コメント 24

thisisajin

メレブ役のムロツヨシ好きです♪
by thisisajin (2012-05-21 12:38) 

qooo

う〜ん、見ていなかったです〜。
DVD借りてみたくなりました〜。気になる内容ですね〜。
by qooo (2012-05-21 15:22) 

k_iga

私も観てました。山田孝之は良い役者ですね。

by k_iga (2012-05-21 20:52) 

ぼんぼちぼちぼち

thisisajinさん

ムロツヨシさん、お名前だけは随分前から知っていたんでやすが
お姿と演技は「大洗にも星はふるなり」で初めて認識し
別の役も観てみたいなぁと思っていやした(◎o◎)b
いかにも小劇場の役者さんだなぁ と うなづける芝居でやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2012-05-21 23:21) 

ぼんぼちぼちぼち

qooo さん

この作品、めちゃくちゃ面白いでやすっっっo(◎o◎)o
役者さんの演技を堪能しよう という人も、ただ漠然と観てみよう というかたも
引き込まれ、笑い、感動すること 必至でやすっっっ!
「大洗にも星はふるなり」と同じ作・演出家なので かなり期待していたんでやすが
正直、ここまで面白いとは思わなかったでやす!!
by ぼんぼちぼちぼち (2012-05-21 23:38) 

ぼんぼちぼちぼち

k_igaさん

あっしは山田孝之さんの熱烈な演技のファンなので
それでこの作品も観た訳でやすが
今までよりも より一層 熱い熱いファンになってしまいやしたo(◎o◎)o
あれだけ深く細かな感情表現の出来る役者さんは 稀だと思いやす。

また、今回は、身体能力を発揮されるところもそこここにあり
「あっしが是非とも観てみたかった山田さん」を堪能できて
演技のフルコースをごちそうになったような とても贅沢な気分に浸れやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2012-05-21 23:57) 

藤並 海

僕も見ました!
レンタルで借りて
見直したぐらいお気に入り作品です(^^
by 藤並 海 (2012-05-22 00:48) 

よいこ

私はたまたま見て、徹底的に くだらないところが楽しめる娯楽ものとして異色な感じが好きでした。
楽に見て、へらへら笑っていましたが、こんな風に読み解いてみるとまた違う面白さがあったんですね
by よいこ (2012-05-22 15:47) 

ぼんぼちぼちぼち

藤並 海さん

そう、この作品は、何度も何度も繰り返し愉しみたいでやすよねo(◎o◎)o
あっしも最初、第一巻の三話はレンタルで観やした。
で、そこまで観た時点で「これは是非とも買って ずーーーーーっと反芻し続けたいっっ!」って 迷わず思いやした。

by ぼんぼちぼちぼち (2012-05-22 22:53) 

ぼんぼちぼちぼち

よいこさん

あっしは、音楽は ただただ漠然と 主観的感覚で聴いてしまい
映画・ドラマ・舞台は 理論を動員して観てしまうとこがありやすf(◎o◎)

このホン、あらゆるところが 役者さんの演技をみせるための仕掛けであるのが解りやす。
透明の案内人が 何故 透明である必然があるかというと、無対象の演技をみせるためであり
リコピンとポリフェノールを注入する魔法が 何故、リコピンとポリフェノールかというと、身体中の血液がサラサラになった身体表現をみせるためでやすね。
そして、我々観客は、演技云々を理論的観点からみようが 漠然とみようが
笑い、愉しめ、感動できやすね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-05-22 23:45) 

とーちゃんとママ

BSジャパンで再放送をやっているのを見て笑ってました.

お遊戯会の小道具のような手作り感いっぱいのモンスターとか
お金をかけて作っているドラマを小馬鹿にしたようなところが
好きでした.

by とーちゃんとママ (2012-05-23 23:05) 

nisisyou36

私も大好きですよ。自分のブログでも取り上げましたし。
私の場合は、DVDを購入しようと試みましたが、我が家の
財務大臣に即 仕分けされてしまいました。
by nisisyou36 (2012-05-24 21:23) 

ぼんぼちぼちぼち

とーちゃんとママさん

そう、一見して美術を生業とするプロの仕事ではないモンスターやかぶりものが、予算がないと謳われて放映されている 虚構性の高い演劇的なドラマに 見事に生かされてやしたね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-05-24 22:55) 

ぼんぼちぼちぼち

nisisyou36さん

秀作でやすよね。
DVDには、役者さんはいい演技をされているけれど尺の関係ではじかれてしまったという部分や メイキングも入ってやす(◎o◎)b

by ぼんぼちぼちぼち (2012-05-24 23:14) 

もみじ

私も好きです。録画して見ていました。第2章が10月から始まるので楽しみです( ^∀^)/
by もみじ (2012-05-26 14:25) 

ぼんぼちぼちぼち

もみじさん

第2章 愉しみでやすねo(◎o◎)o
パート2とつけずに ものものしく「章」ってとこが さっそく笑いをさそいやすね。
今度は、魔王が倒されて100年後の話だそうでやすね。

あっしんちには相変わらずテレビがないので 
また みなさんより随分遅れやすが
必ず観たいと思いやすっっっo(◎o◎)o
by ぼんぼちぼちぼち (2012-05-26 21:05) 

inacyan

\(^o^)/ついに観てしまいましたね(笑)
by inacyan (2012-05-27 13:46) 

ぼんぼちぼちぼち

inacyanさん

へい、遅ればせながら ついに観やした(◎o◎)
かなり期待して観始めやしたが、ここまでガッチリ創られているとは予想してやせんでやした。
名演技をみるのは ほんとうに気持ちのいいものでやす。
これから幾度となく、好きな音楽を反芻するように 鑑賞しては酔いたいと思いやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-05-27 21:07) 

tatchan

私も見ました。
山田君の演技は確かに魂が入っていましたね。
彼が出ていなければ全編見なかったかもと思います。
秋の続編楽しみです♪
入魂の感想ありがとうございました!
by tatchan (2012-05-28 20:40) 

ぼんぼちぼちぼち

tatchanさん

山田さんの演技には、技術的な高さのみならず 注がれているエネルギーにも どーーーーーんと感動し、あっしなりにではありやすが、入魂の感想文を綴らずにはおれない衝動に突き動かされやしたo(◎o◎)o

因みに、画像は何にしよーと考えたとき
たんすの中に、何年か前に 仲屋むげん堂で買ったインド木綿の服があり
それが山田さんが着ておられた衣裳に 色も質感も近かったので 撮りやした。
あ、でもアイテムは マント&ターバンではありやせん・笑
そして、ラストの剣は、これもたまたま自室にあった 長さ15センチほどのペーパーナイフでやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-05-29 10:05) 

nora

新感線ファン古田新太さんファンなのでみました( ̄∀ ̄)
山田孝之もかっこよかったので好きになりましたヨ
by nora (2012-06-11 21:39) 

ぼんぼちぼちぼち

noraさん

古田新太さん、二度出て来られやしたね、両シーンとも 面白かったでやすねo(◎o◎)o

あっしは新感線は観たことないのでやすが、古田さんが出演されてる舞台は 一度観たことありやす。
まだ中島らもさんがお元気だったころ、リリパットアーミーで。

他にも、シティボーイズのきたろうさんや斉木しげるさんなど 舞台で活躍されてる役者さんが沢山ゲスト出演されてやしたね(◎o◎)b

山田さん、衣裳がとても似合っておられて凛々しかったでやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2012-06-13 09:49) 

ja1nuh

こんにちは 山田さん、好きな俳優の一人ですね。 独特の存在感がありますね。 原作と映画はよくやりますが脚本は読んだことがないです。 こういう楽しみ方もあるのですね。「勇者ヨシヒコと魔王の城」今度DVD探してみてみます。
by ja1nuh (2013-03-24 16:15) 

ぼんぼちぼちぼち

ja1nuh さん

山田さんの演技にはつくづく観惚れやすね。
あっしは、自分の嗜好にピタリの役者さんってなかなかおられないものだなぁと 中学生の頃から思い続けていて
山田さんを観たとき、「あっ!この役者さんの演技こそが あっしが渇望していた演技だ!」と 息をのみやした。
なので、あっしは、山田さんが生まれる前から役者・山田孝之さんの出現を待っていた・・・と言えるかもでやす(◎o◎)b

「魔王の城」 是非ともDVD観てみられてくださいでやす。
第二章となる「悪霊の鍵」も 先日DVDが発売になったので
こちらも楽しみでやすo(◎o◎)o
by ぼんぼちぼちぼち (2013-03-24 17:32) 

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