映画「心中天網島」  [感想文]

心中天網島.jpg

篠田正浩監督が、近松門左衛門原作の同名の人形浄瑠璃を 役者を使った劇映画に起こした 1969年の作品である。

先ず映画は、人形浄瑠璃の楽屋風景に 篠田監督が脚本家と打ち合わせをする声をかぶせたドキュメンタリーで始まる。
---と、タイトルが現れ、役者が登場し 物語が滑り出す。
遊女とそう景気が良いとは言えない紙屋の主人が、連れ合い・親兄弟を巻き込んでの 激しい感情の行き来を経た末に、二人 死に向かう、という王道の心中物なのであるが、これが実に計算高く 的を射た創りと成っているのである。

画は、観る者を威圧するようなハイコントラストの白黒である。
室内や街なかは、浮世絵や書が大きく描かれた 抽象的な装置である。
そして、中でも、この作品を決定的に成功に導いているのは、画中に黒子を配している事に他ならない。
数多の黒子が、時にたたずみ 時に手招きし 時に介錯し、地獄からの使徒の如く 暗黒の結末を暗示しているのである。
これを若し通常の時代劇の手法で撮っていたら、生身の人間が演じている事が強く前面に押し出され、人形浄瑠璃としてこそ成立していた行きつ戻りつする激しい感情との間に ちぐはぐさが生じたであろう。
よくぞ黒子をもちいる事を発案したと 感服するばかりである。

私は、篠田正浩氏は 奇をてらわない商業映画だけを撮っていた監督だと思い込んでいたので、これ程 前衛的・実験的な作品を遺していたという事に 嬉しく驚かずにはおれなかった。
むろんATGとの仕事だからできたのは言わずもがなだが。

「心中天網島」
実験映画好きにも商業映画好きにも是非とも観ていただきたい 実験時代劇の最高傑作である。

心中天網島.jpg

タグ:心中天網島
nice!(335)  コメント(20)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 335

コメント 20

青山実花

これは面白かったですね。
私も大好きです。

近松門左衛門原作の映画って、
ほぼ外れなし!と言っていいくらい、
傑作揃いですよね。
もっと沢山映画化されればいいのに・・・と思いつつ、
あまりに現代風にアレンジされてしまったら、
興醒めしちゃうかな^^;
by 青山実花 (2015-10-07 07:11) 

majyo

心中天網島は舞台で2回観ていますが
原作が良いので素晴らしいです
近松作品はどれも好きです
by majyo (2015-10-07 07:24) 

ぼんぼちぼちぼち

青山実花さん

近松の作品、他にはどんなものが映画化されているのか 教えていただけると嬉しいでやす。
あっしは時代物、古典芸能には疎いのでf(◎o◎)
確かに、今回の作品からも察するに、あまり現代風にアレンジされてしまうと違和感が生じてしまいそうでやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-07 20:14) 

ぼんぼちぼちぼち

majyo さん

二回、舞台を観られたのでやすね!
あっしも人形浄瑠璃、一度は生で観たいと思いつつ まだ未体験でやす。
この作品は、心中物の大傑作と言われてやすね(◎o◎)b

by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-07 20:18) 

れもん

この映画見てみたいです。
先日映画館で歌舞伎の高野聖(坂東玉三郎他)をみてきましたが、その時も黒子、馬も歌舞伎舞台にでる馬でおもしろかったです。
by れもん (2015-10-07 20:53) 

ぼんぼちぼちぼち

れもんさん

この作品、全編ゆーちゅーぶで観ることができるので 是非観てみられてくだされ!
歌舞伎舞台の馬って独特の趣があってユーモラスでいいでやすよね。
思わず、「後ろ足曲るの逆~!」とかってつっこんじゃいやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-07 22:08) 

sig

こんばんは。この作品は私も好きですね。岩下志麻さんがいいからかも。笑 黒子が黄泉の国からの使徒とはよく考えられたものですよね。
by sig (2015-10-08 23:34) 

ぼんぼちぼちぼち

sig さん

岩下志麻さんもよかったでやすよね。
あぁ、やっぱり現代劇出身の役者さんだなぁ という演技でやしたね。
この作品に於いては、そこがちょっと鼻につかなくもなかったでやすが。
二役演られていることで、不思議な虚構性も出てやしたね。
まぁこれは、ギャラを抑えられるという現実的な問題もあったと思いやす。
他の役者さんでは、脇役の小松方正さん最高でやしたね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-09 10:29) 

kiki

大昔にTVで観たことがあるような気がします。
年齢を重ねた今、改めて観ると、感想もちがってくるでしょう。
by kiki (2015-10-09 20:44) 

johncomeback

篠田正浩監督夫人の岩下志麻さんの大ファンです。
by johncomeback (2015-10-09 20:56) 

iris

こんばんは。
最近レンタル場慣れしていたのですが、 
映画「心中天網島」ちょっと興味が沸いてきました。
久ぶりに秋の夜長に見てみようかな・・・・
by iris (2015-10-10 00:09) 

lequiche

全体の美術がすごくアヴァンギャルドなのを覚えています。
atgのラインナップによると、
心中天網島は薔薇の葬列の2つ前、
つまり同じ年の公開ということです。
当時のatgのパンフを、私は後で手に入れましたが、
内容がすごく充実していて (文章が多くて) 面白いです。
というか、映画に対する姿勢がすごく真面目ですね。
by lequiche (2015-10-10 05:27) 

ぼんぼちぼちぼち

kiki さん

そうだと思いやす。
心中物は特に、観る年齢によって受ける感慨も大きくちがってくるように思いやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-10 20:01) 

ぼんぼちぼちぼち

johncomeback さん

そうでやしたか!
この作品では二役で出演しておられるので 一粒で二度美味しい的に愉しめやすね。
この頃はまだ貫録が出る前のお若い時代でやすね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-10 20:07) 

ぼんぼちぼちぼち

iris さん

さほど長尺ではないし、ゆーちゅーぶでも二回に分けて全編観ることができるので是非(◎o◎)b
解り易い抽象演出傑作映画でやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-10 20:12) 

ぼんぼちぼちぼち

lequicheさん

美術は確か粟津潔だったかと思いやす。アバンギャルドでやしたよね~
そうでやしたか。薔薇の葬列の二つ前でやしたか。
薔薇の葬列も大傑作でやしたね。ATGはほんとに面白いものを作ってやしたね。
そのパンフ、あっしも矢口書店に行って探してみようかな。
ATGの思い入れや製作順序をじっくり確認してみたいでやす(◎o◎)b


by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-10 20:22) 

ちゅんちゅんちゅん

こんばんは!
こちらで紹介された作品は
大手のレンタルやさんには置いてないのです・・・
地元の品揃えの問題でしょうか(ナミダ)
原作は大好きな作品なので
映像でも観てみたいのですが・・・
by ちゅんちゅんちゅん (2015-10-11 21:15) 

ぼんぼちぼちぼち

ちゅんちゅんちゅんさん

大丈夫でやす!この作品は、ゆーちゅーぶで全編観ることができやす。
是非 ご覧になってくださいねでやすo(◎o◎)o
原作(人形浄瑠璃)のほうも 話の前半はゆーちゅーぶにあったので
あっしはそちらも先日観てみやした。
映画、かなり原作に忠実に創ってあるなぁと 興味深く思いやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-12 10:39) 

伊閣蝶

篠田正浩監督「心中天網島」をお取り上げ頂いたので、嬉しくなってコメントさせていただきます。
この映画は私も大好きで、この映画をテーマに記事を書いたこともあります。
http://okkoclassical.blog.so-net.ne.jp/2010-09-09
白黒スタンダードの画面の筋肉質で引き締まった表現は、極めて完成度が高く、映画の要素である、シナリオ・撮影・美術・音楽などがこれほどまでに高水準で統御されている映画はなかなか見当たりません。
特に、シナリオを、篠田監督のほか詩人の富岡多恵子さんと作曲家の武満徹さん(この映画の音楽も担当)のお三方をもって書き上げたことに深い感動を覚えます。
この作品に限らず、文楽の舞台では近松ものを近松門左衛門の原作通り演ずることがほとんどなくなっているようで、この映画は、その物語としての「完全版」という意味でも記念すべき作品ではないでしょうか。
by 伊閣蝶 (2015-10-24 14:20) 

ぼんぼちぼちぼち

伊閣蝶さん

そう、脚本が、篠田監督だけでなくこのお二人が加わられたからこそ
この水準の作品になり得たのでやすよね。
武満徹氏は、安部公房×勅使河原宏の「砂の女」「他人の顔」「おとし穴」あたりでの仕事も印象深いでやす。
あっしはつい、音楽よりも美術に気をとられてそっち中心に鑑賞してしまうので
もう一度、今度は音楽を主に観てみようと思いやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-25 21:19) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0