いきさつ・第一章 [作文]
平成二十一年、九月十八日 金曜日。
新宿東口裏通りにも、しっとりと どこか懐かしさを覚える初秋の暮れかたの匂いは、隙なく流れ込んで来ていやした。
あっしは、共に 現代の裏街道 「アナログ人生」を歩み続ける 唯一の呑み仲間である蟹田氏と、「どん底」という店で、一寸した勝負に興じておりやした。
いえ、勝負といっても、「有刺鉄線を強く握れるか」 とか、「アルミホイールを思い切り噛めるか」 といった類の、酔っ払いのよくやる他愛ない武勇伝の掛け合いをしていたに過ぎやせん。
「金閣寺へは何度行った事があるか勝負」では、蟹田氏は一度 あっしは二度で あっしの楽勝でやした。
と、蟹田氏は
「己れの中での最も古い記憶は幾つや？」
と、既に茹であがった様な真っ赤な顔をややこちらに向け、黒い目をテラと光らせやした。
あっしは、余裕の内に
「三つでやす。東京から福岡に引っ越した日、今日から住むという家の玄関に向かって 父に抱かれて庭を進んだのを憶えておりやすよ」
と、即答しやした。
あっしは、この勝負だけは 未だ誰にも負けた事が無かったものでやすから、「連勝でやす」と、心の中の両の拳に軽く力がこもりやした。
すると、蟹田氏は、「ふふん」と ごつい顎をしゃくり
「わいは、もっと幼い頃の記憶があるで。 これも、わいの勝ちや」
と、ますます テラテラと、その小さな目を光らせるのでやす。
あっしも
「なら、幾つの時で、どの様な状況でか、具体的に聞かせてもらおうじゃないでやすか！」
と、大人気無い感情に つい強い言葉が出てしまいやした。
すると、早くも気圧されたのか
「・・・・・なんや、コワい服 脱いだったの憶えとる。・・・・・・あれは、確か・・・・・・0歳や！産まれてすぐや！！」
蟹田氏は、やたら 瓶ビールを注ぎ足しては飲み 注ぎ足しては飲みし、口の周りを泡で真っ白にしやした。
あっしは、蟹田氏の平たい横顔を、椅子の背もたれに体重をかけ、ぼんやり眺めやした。
記憶とは、捏造されるものでやす。 言葉とは、創作されるものでやす。 歴史とは、書き換えられるものでやす。
しかし、それが 捏造や 創作や 書き換えだと明確に証明出来る術は、大抵の場合 何所にも無いのでやす。
一瞬でも 子供じみた感情に陥ってしまった己れの阿呆さを恥じつつも、蟹田氏だけには負けたくないあっしは、いつもの如く 視覚に於ける数学的勝負の手段を提案しやした。
----------- ジャンケンでやす。
蟹田氏は、いつもの如く 前のめりに乗ってきやした。
「今日は・・・・・」
と、あっしは、昼間 ドンキ・ホーテ歌舞伎町店で五本指ソックス五足組みを求めた折り、衝動買いした 「お得用・柿ピー 小袋三パックサービス」 の、小袋の一つを、己れの冷や酒の前に ペシッ！と放りやした。
「蟹田さんも、何か食べ物をお願いしやす」
「・・・・・しゃーない。これしか無いがな」
氏は、独白めいた調子で ボロボロに破けたボストンバックから、てっぺんをきちんと結わえたレジ袋を取り出し 解きやした。
ファミリーマートの じか巻きおにぎり、しかも イクラでやす！
今日の夜食用にと 大切に取ってあったのでやしょう。
あっしは、心の中の拳に、再び しかも先ほど以上に力がこもりやした。
あっしは、さっきから小腹が空いているものの お茶漬けや 焼きおにぎりを頼むほどの現金は、既に持ち合わせていなかったのでやす。
又、クレジットカード、銀行のカードの類も持たない、いえ 持てる程の身分でも無いのでやす。
蟹田氏は、興奮のためか景気付けのためか よりいっそうビールを意味無くあおり、口の周り中を泡だらけにしながら 大仰に 骨太で毛むくじゃらの腕を振りやした。
「ジャ--------イ ケ----------ン・・・・・・」
------------次回に続くでやす-------------
新宿東口裏通りにも、しっとりと どこか懐かしさを覚える初秋の暮れかたの匂いは、隙なく流れ込んで来ていやした。
あっしは、共に 現代の裏街道 「アナログ人生」を歩み続ける 唯一の呑み仲間である蟹田氏と、「どん底」という店で、一寸した勝負に興じておりやした。
いえ、勝負といっても、「有刺鉄線を強く握れるか」 とか、「アルミホイールを思い切り噛めるか」 といった類の、酔っ払いのよくやる他愛ない武勇伝の掛け合いをしていたに過ぎやせん。
「金閣寺へは何度行った事があるか勝負」では、蟹田氏は一度 あっしは二度で あっしの楽勝でやした。
と、蟹田氏は
「己れの中での最も古い記憶は幾つや？」
と、既に茹であがった様な真っ赤な顔をややこちらに向け、黒い目をテラと光らせやした。
あっしは、余裕の内に
「三つでやす。東京から福岡に引っ越した日、今日から住むという家の玄関に向かって 父に抱かれて庭を進んだのを憶えておりやすよ」
と、即答しやした。
あっしは、この勝負だけは 未だ誰にも負けた事が無かったものでやすから、「連勝でやす」と、心の中の両の拳に軽く力がこもりやした。
すると、蟹田氏は、「ふふん」と ごつい顎をしゃくり
「わいは、もっと幼い頃の記憶があるで。 これも、わいの勝ちや」
と、ますます テラテラと、その小さな目を光らせるのでやす。
あっしも
「なら、幾つの時で、どの様な状況でか、具体的に聞かせてもらおうじゃないでやすか！」
と、大人気無い感情に つい強い言葉が出てしまいやした。
すると、早くも気圧されたのか
「・・・・・なんや、コワい服 脱いだったの憶えとる。・・・・・・あれは、確か・・・・・・0歳や！産まれてすぐや！！」
蟹田氏は、やたら 瓶ビールを注ぎ足しては飲み 注ぎ足しては飲みし、口の周りを泡で真っ白にしやした。
あっしは、蟹田氏の平たい横顔を、椅子の背もたれに体重をかけ、ぼんやり眺めやした。
記憶とは、捏造されるものでやす。 言葉とは、創作されるものでやす。 歴史とは、書き換えられるものでやす。
しかし、それが 捏造や 創作や 書き換えだと明確に証明出来る術は、大抵の場合 何所にも無いのでやす。
一瞬でも 子供じみた感情に陥ってしまった己れの阿呆さを恥じつつも、蟹田氏だけには負けたくないあっしは、いつもの如く 視覚に於ける数学的勝負の手段を提案しやした。
----------- ジャンケンでやす。
蟹田氏は、いつもの如く 前のめりに乗ってきやした。
「今日は・・・・・」
と、あっしは、昼間 ドンキ・ホーテ歌舞伎町店で五本指ソックス五足組みを求めた折り、衝動買いした 「お得用・柿ピー 小袋三パックサービス」 の、小袋の一つを、己れの冷や酒の前に ペシッ！と放りやした。
「蟹田さんも、何か食べ物をお願いしやす」
「・・・・・しゃーない。これしか無いがな」
氏は、独白めいた調子で ボロボロに破けたボストンバックから、てっぺんをきちんと結わえたレジ袋を取り出し 解きやした。
ファミリーマートの じか巻きおにぎり、しかも イクラでやす！
今日の夜食用にと 大切に取ってあったのでやしょう。
あっしは、心の中の拳に、再び しかも先ほど以上に力がこもりやした。
あっしは、さっきから小腹が空いているものの お茶漬けや 焼きおにぎりを頼むほどの現金は、既に持ち合わせていなかったのでやす。
又、クレジットカード、銀行のカードの類も持たない、いえ 持てる程の身分でも無いのでやす。
蟹田氏は、興奮のためか景気付けのためか よりいっそうビールを意味無くあおり、口の周り中を泡だらけにしながら 大仰に 骨太で毛むくじゃらの腕を振りやした。
「ジャ--------イ ケ----------ン・・・・・・」
------------次回に続くでやす-------------
次回がとっても気になります・・
柿ピーといくらおにぎりの行方は・・（*^_^*）
by ★とろ (2009-10-14 07:50)
大変面白い書き出しでした。
興味津々です。
by kurakichi (2009-10-14 08:19)
★とろさん
kurakichiさん
コメントありがとうございやす。
あっし、ぼんぼちの 情けなく恥ずかしいアナログ人生最後の日
次回は16日に公開いたしやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-14 10:17)
こんばんは＾＾
ご訪問ありがとうございました♪
by mimimomo (2009-10-14 19:34)
本日 柿ピー独り占め。（笑）
by 七色音 (2009-10-14 19:38)
えっ？
有刺鉄線を強く握れるかとか、アルミホイールを思い切り噛めるか？
最近の酔っ払いって、そんな事を？
by 淳司 (2009-10-14 21:20)
初めまして♪
先程はご訪問頂き、有難うございました＾＾
今後とも、宜しくお願いします。
by c-yukky_z (2009-10-14 22:05)
訪問＆nice!ありがとうございます
前記事も拝見しますね(⌒∇⌒)ﾉｼ
by nano (2009-10-14 23:21)
mimimomoさん
美しい写真 楽しませて頂きやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-14 23:47)
七色音さん
ちょうど 柿ピーつながりで目にとまりやした。
歌、聴いてみたいでやすねー♪
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-14 23:49)
淳司さん。
最近、そんな事で勝負するのは
蟹田氏とあっし位のものだと思いやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-14 23:56)
c-yukky_zさん
ビートルズは不滅でやすなぁ・・・
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-15 00:02)
nanoさん
恐縮でやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-15 00:05)
ご訪問ありがとうございます
福岡にも住んでおられたんですね
フォトリストも拝見いたしました、次回が楽しみです(*^。^*)
by ピカチュウ (2009-10-15 00:28)
おはよう御座いやす。
ご訪問有難う御座いましたでやす。
by 旅爺さん (2009-10-15 06:54)
はじめまして！
空飛ぶ食欲魔人ことオストドと申します！
このたびはご訪問＆コメントありがとうございます！( ^)o(^ )
どうぞこれからも宜しくお願いいたします！
by 空飛ぶ食欲魔人 (2009-10-15 07:38)
初めまして。
ご来訪&コメありがとうございました!
ジンジャーハイボール…初めて知りました…
by キャシー (2009-10-15 08:47)
ご訪問ありがとうございます。
次回を楽しみにしています。
by ｋｕ−ｓａｎ (2009-10-15 10:23)
こんにちは。＾＾
訪問頂き～ありがとうございます。＾＾
続きが楽しみです。＾＾）
by keykun (2009-10-15 11:33)
ピカチュウさん
はい。住んでやした。思い出深い土地でやす。
福岡ネタは、今後も小出しに使ってゆく予定でやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-15 12:25)
旅爺さん
里芋の収穫風景、興味深く拝見させて頂きやした。
孫芋というものがあるのには驚きやした！
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-15 12:32)
空飛ぶ食欲魔人さん
こちらこそ 宜しくでやす！！！
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-15 12:34)
キャシーさん
キャシーさんの昨日の写真の一枚目
黄色い提灯に 「ジンジャー」とありやすね。
見えない側には 「ハイボール」と 書かれているんでやす。
ジンジャーハイボールというオリジナルカクテルを出す
ナイス！！！な飲み屋でやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-15 12:43)
ku-sanさん
keykunさん
この後、あっしも想像だにしなかった出来事に巻き込まれてしまいやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-15 12:48)
これは私小説という捉えで宜しいのでしょうか
by 十割より二八 (2009-10-15 18:54)
ご訪問、ありがとうございます。
お話がどうなるのか、興味津々です＾＾！
by kacochan (2009-10-15 20:58)
kacochanさん
あっしも、牛のたたき大好きでやす！
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-15 22:17)
はじめまして、こんばんは。
ご訪問＆nice!をくださりありがとうございました☆彡
by ちはる＠ナベ (2009-10-15 22:49)
十割より二八さん
私小説と捉えて頂けると幸いでやす。
あっしの様な者が、自ら そう記すのはおこがましいので
カテゴリーには「作文」としてありやす。
ドキュメンタリー、体験記、日記と 私小説の違いは
前者が、事実に忠実に 事実を伝える事に一番の力点が置かれているのに対して
私小説内の実体験の部分というのは、
テーマに突き進む為の装置の一つでやすね。
あっしが何故、今回の 「いきさつ」で この形態を選択したかと言いやすと
作品内の「あっし」と 皆さんにコメントさせて頂く「あっし」が同一である事が
テーマに直結する大きな意味を持っているからでやす。
稚拙な作品でやすが、全九章 お付き合い頂けると嬉しく思いやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-15 22:50)
ちはる＠ナベさん
御自身の意見をストレートに書かれていた所
大変 興味深く思いやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-10-15 22:56)