レモンスカッシュの思い出 [喫茶店・レストラン・カフェ]

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我が家は、家では殆ど食事をしない家庭だったので、私は子供の頃、ほぼ毎日、レストランか喫茶店に連れて行かれた。

小五の時の事だったーーー
私は喫茶店で、レモンスカッシュを初めて頼んだ。
すると、普段から、口の端をピクピクけいれんさせて、不機嫌な母親は、それに輪をかけて、ピクピクを激しくさせ、「このっ!親不孝モンがあっ!」「アタシに恥をかかせやがって!」「帰ったら、テメーを許さねーかんな!」と、私をののしった。
私は、一体全体、何が母親の逆鱗に触れたのか「???」のまま、レモンスカッシュを飲み干した。

家に着くなり母親は、「ごらぁ!レモンスカッシュなんか飲みやがって!! 周りの男の客やウエイターに『この娘は、妊娠してるから、酸っぱいもんが飲みたいんだ』って、誤解されたに違いあんめぇ! このっ!恥っさらしめがっ!! アタシは、妊娠してる娘と一緒にいる女だと思われたに違いねぇ!! 親不孝モンがあっ!!」と、ボッコボコに私を殴り、私は、冷たい廊下に記憶を失った。

母親にボコボコにされ、冷たい廊下に記憶を失うのは、毎日の事だったが、いつもは、「テストが100点じゃなかった!」とか、「ピアノの練習が5分足りなかった!」とか、「都営住宅に住んでる貧乏人の子と仲良くしてるそーじゃねーか!」とか、そういった理由だったが、その時からは、「レモンスカッシュを飲んだ」という新しい理由が加わった。

そして、私の記憶が薄れる頃には、「産みたくもねーのに、勝手に産まれてきやがって!!」という本音が必ず出るので、その前の言葉は、今思い返すと、そこにたどり着かせて、私を冷たい廊下に沈める為の理由づけだったと判断できるのだが。
だから、何をしようとしまいと、必ず一日一度は、私を冷たい廊下に沈めてウサを晴らす理由を、常に探していたと判断できるのだが。
当時の私は、母親の逆鱗に触れてボコボコにされる日がない事を祈りつつ、目の色を伺い、呼吸をするのにも怯えながら、生きていたのだ。

それにしても、小五の少女が、「レモンスカッシュを頼む→ふしだらな性行為をした→妊娠をしている→いやらしい」、こんな飛躍した理由を、よくも考えついたものだと、呆れ返る現在である。
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