絵を描くのに向かない人はいるか [画家時代]

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私は画家時代、それから画家を辞めてからかなり長い年月、習いたいという人に 絵をお教えしてきたのですが、その中で、よく こういう質問を受けました。
「絵を描くのに向かない人っていますか?」
答えは、「います」です。

絵を描くのに向かない人には、私がお教えしてきた体験上、ニタイプいらっしゃいます。

先ず、一タイプ目はーーー
「理解」ではなく「記憶」の部分の脳を使って学ぼうとするかたです。
そういうかたはーーー
「先生!これは何号ですか?」
「F6ですね」
「Fの6号なんですね。F6 F6 F6、、、ハイッ!先生!覚えました!」
「先生!これは、何という色名ですか?」
「カーマインですね」
「カーマイン カーマイン カーマイン、、、ハイッ!先生!覚えました!」
「ここでは、バックは、グリーンに赤を少し混ぜた色を、うっすらと塗りましょう」
「ハイッ!先生!赤いバラを描く時は、グリーンに少し赤ですね!覚えました!」
「いえ、今回は、白い一輪挿しに赤いバラだけを描いているから、このバックの色が適切なのであって、脇役に、レモンを置いた場合、ぶどうを置いた場合、又、一輪挿しの色が違う色になった場合、テーブルクロスを敷いた場合などなどで、そのつど全て、何色のバックが適切かが違ってきます。 
それに、何号かや色名も、画材屋さんになる訳ではないので、覚える必要はないですよ。 
このくらいの大きさに描くのが相応しいからこの大きさを選んで、たまたまそれがF6だったというだけであり、赤いバラを描くのに適切であったのが、たまたまカーマインという色名であっただけで、覚えなくとも、『これと同じ大きさの水彩紙を下さい』『このチューブと同じの下さい』と画材屋さんに行けば それで済む話しですから。 
絵を描く時は『記憶』ではなく『理解』の部分の脳を使って、『こういう絵が優れているのだ!』と、描くたびに、理解を重ねて学習をしてゆかれて下さい」
と言うと、そのようなタイプのかたは決まって
「絵を描くって、難しいんですねぇ、、、」
と、途方に暮れたお顔をなさいます。
そして、前述の様な質問はなさらなくなっても、「理解」で学習するという事が、そのようなタイプのかたには無理らしくて、全く上達しない場合が殆どです。

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ニタイプ目はーーー
美的感覚がはなはだしく間違っているかたです。
「美しさの基準って、万人それぞれ全部違うものでしょ?」というお声も出てきそうですが、又、美術は芸術の一分野ですから、正解は必ずしも一つではなく、ある程度の幅はありますが、明らかにこれは間違っている、というのはあります。

ある生徒さんに、極めて彩度の高い色だけしか使わないかたがいらっしゃいました。
そして、「赤いバラを、赤ーくキレイに見せたいんだけど、こんなに鮮やかな赤を使っているのに、全然 キレイな赤が目立たない」と仰るので、私は
「赤いバラの鮮やかさを引き立てるには、バックを補色を混ぜるとかして彩度の低い色を使ってごらんなさい。彩度の低い色と隣合っていることで、彩度の高い色は、より彩度高く見えるんです。 
それから、バラの葉っぱに限らず、葉っぱというのは、そのような彩度の高いビリジアンではありませんよ。
ビリジアンに少し赤を混ぜて鈍らせてごらんなさい」
と言うと、そのかたは、「私は、そんな汚い色は使いたくないっ!」
と、ガンとして使わず、それでいて、「バラの赤がキレイに見えない、バラの赤がキレイに見えない」と繰り返すのでした。
どうやらそのかたは、極めて彩度の高い原色以外は全て、「汚い色」と感じておられるようでした。
ですから、桜色も、薄紫のスミレも、淡い黄色のハイビスカスも、そのかたは、「何でこんな汚い色の花があるんだろうねぇ。汚くって、見ていられない!」と仰るのでした。

美的感覚というものを、みなさんに解りやすく説明するとーーー
女優さんに例えるのが解りやすいでしょう。
若かりし頃の加賀まりこさんと、若かりし頃の松坂慶子さんは、どちらが美人?と多くの人に聞いた場合、意見は二分されるでしょう。 又、「二人とも甲乙つけがたい美人だよ」と仰るかたも、少なくないでしょう。
けれど世の中には、「加賀まりこも松坂慶子も酷い醜女だよ。女優でダントツ一番美人なのは、なんといっても片桐はいりだよ!」というような事を、主張するかたというのが、ごく一部にいらっしゃるのです。
つまり、そういうかたは、美的感覚が間違っている、と言えますね。

極めて彩度の高い原色以外は全て「汚い色」と感じていた生徒さんも、色彩に於いての美的感覚が間違っているのです。
そういうかたには、「淡い色やくすんだ色の中にも、美しい色というのはたくさんあるんですよ」と何度説得しようとしても、ご自身の美的感覚こそが正しいとガンとしてゆずらなく、彩度の高い色だけで描き続けるので、主役にしたいものが前に出ず、画面全体のバランスが取れずに、少しも上達しませんでした。

これらのかたが、たった一人で描いて、自室に飾って悦に入るのは、勿論 自由です。
けれど、師について少しでも上達したいとか、美術展で入選したいとなると、美術の専門家の第三者に肯定されなければなりませんから、このニタイプのかたは、明らかに、絵を描くのに向かない人、と言えます。

人それぞれ何かしら自分に向く分野というのは、必ずあると思うので、このニタイプのかたは、絵は描かずに、他にご自身に適した趣味をお探しになった方が、どんどん上達するし、ご自身も楽だと思います。
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