「桜の樹の下には」 と 「檸檬」    [感想文]

「桜の樹の下には」と「檸檬」は、言わずと知れた 梶井基次郎の代表作である。
何故、数有る梶井文学の中でも この二作品が 時代を超えて生き続けいてるのか?

作品そのものの完成度の高さは大前提として 特筆すべきは以下にあるであろう。
------我々一同が それらのモチーフに対して 同じように もやもやとした観念を抱き、梶井の提示する答えによって 「そうだ!それだ!!」 と 気付かされる 共感する ということである。

小説のモチーフの中には、当時は身近なもので 多くの人の共感を呼んだが 現代人にはどうもあまりピンと来ない というものが少なくない。
それは、道具や衣服や食べ物などの物質のみならず 身分制度や思想といった観念的なものに於いてもいえる。
3301.jpgあまりピンと来ないモチーフに対しては------何かに置き換えて見事にはまる場合を除いて------共感のしようがない。
けれど、「桜」も「檸檬」も 現代人の誰もにとって 非常に近しい物である。
そして、我々の多くは 作中の「私」と同じことを思う。

檸檬は、「レモンエロウのチューブを絞り出したようだな」 「そこだけ 何か空気が違って感ぜられるな」 と。
桜は、「あんなに美しく咲くなんて 何か信じられない」 「真っ盛りの状態は 神秘を発散する」 と。

しかし 我々は、その先にあるもの そこから下降したところにあるものが何なのかが 釈然とせずに 思い淀むだけである。
檸檬を手にした我々は、重さを確かめたり さまざまな色彩の上に乗せてコントラストを享しんだりするが、最終的に何を成すべきか解らずにいる。
そこに 「爆弾のように仕掛け置く」 と来る。
「ああ!そうだ!! 自分もそれがしたかったのだ!」 「これこそが 檸檬に最も相応しい扱いだったのだ!」 と はっと気付かされる。
「桜の花の生命力の前には 人間の命など かげろうの如くである。 が しかし、そんな言葉ではとうてい納得できぬ 背骨を這うような恐ろしさがある」
梶井は、「それぞれの樹の下には 死体が埋まっているからだ」 と 教えてくれる。
「そうだったのだ!!」 と 溜飲が下がる。

「桜」と「檸檬」は、将来も 我々にとって身近な物であり続けるだろう。
あり続ける限り この 我らが梶井の代表二作品は 熱く 鋭く 命の鼓動を打ち続ける筈である。


3302.jpg

 
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コメント 29

muzik

文章を読んでまして、
坂口安吾の「満開の下」も思い出しました。
すいません、脱線ですね
by muzik (2010-03-30 07:45) 

ake_i


引っ越しですか?

by ake_i (2010-03-30 16:06) 

雉虎堂

今うちの近所の桜の木の下には
酔っ払いが眠ってます。それもたくさん(ё_ё;)
寒いのになあ、凍死しないかなあ。
交通事情の悪いところに人知れず
咲いている桜じゃないと
今ではなかなか梶井が言うような
幽玄な雰囲気を保てないかもしれませんね(^^ゞ
by 雉虎堂 (2010-03-30 17:54) 

ぼんぼちぼちぼち

muzik さん

そう、坂口安吾も 桜といえば浮かびやすね!
やはり 満開の桜は 何か得体の知れない妖しさを発散し
 人間界の理屈を破壊してしまう力を持っているんでやすなぁ~
by ぼんぼちぼちぼち (2010-03-30 20:23) 

ぼんぼちぼちぼち

ake_i さん

あっしは 相も変わらず、西荻窪の 西日だけが差す四畳半のアパートに ひっそりと住んでおりやす。

先日、パソコンはお引っ越ししやした。
今までは、「いきさつ・第九章」で 白塗りの謎の男に貰った使い古しのバイオのノート型でやしたが 
今度はhpでやす! すいすい~でやす\(◎o◎)/
by ぼんぼちぼちぼち (2010-03-30 20:31) 

nyankome

丸善河原町店も八百卯も閉店してしまって寂しい限りです。
by nyankome (2010-03-30 21:19) 

emiemi40

こんにちわ。

「檸檬」ときくと、高村光太郎さんを思い出してしまいます。妻千恵子さんが無くなる時に欲しがったものですよね。
by emiemi40 (2010-03-30 22:16) 

ぼんぼちぼちぼち

雉虎堂さん

うわ~~ そーなんでやすかーー
それは見たくない光景でやすなぁ~
もしかして、下には真っ青のビニールシートでやすかー?
だったらなおさら嫌でやすなぁー
せめてゴザならまだ風情が・・・
ビニールシートより凍死率も低いでやすし~
by ぼんぼちぼちぼち (2010-03-30 23:22) 

ぼんぼちぼちぼち

nyankome さん

そうでやすなぁ・・・
あっしは東京に住んでいるので実感としてはないでやすが
無くなるの 寂しいでやすね。

あっしんちの近くだと、太宰が好きだった陸橋というのが
三鷹に未だ残ってやす。
無くなったら寂しいなーと思いやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-03-30 23:27) 

あんず-M

ご訪問、nice!ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。m(_ _)m
by あんず-M (2010-03-30 23:31) 

ぼんぼちぼちぼち

emiemi40 さん

それもありやしたね!
がりりと噛んでトパアズ色の香気の立つ様が
印象深かったでやす。

智恵子さんの切抜絵も はっ!とさせられる感覚の作品でやしたね。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-03-30 23:37) 

ぼんぼちぼちぼち

あんず-Mさん

こちらこそ よろしくでやす♪
by ぼんぼちぼちぼち (2010-03-30 23:40) 

末尾ルコ(アルベール)

梶井基次郎・・一番好きな日本人作家の一人です。

                        RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2010-03-30 23:59) 

yoikosan

とっても溜飲が下がる評論文で、私もすっきりいたしました。
また、その一文だけ知っていて、作者名は知らずにいました。梶井基次郎さんとおっしゃるのですね。勉強になりました。
ちなみにまだ、桜は一枝も見ておらず、やっと木蓮の落花を見て、先日のお話 納得しました。

by yoikosan (2010-03-31 00:53) 

tatchan

こんにちは。
この2作品は私も生涯忘れられません。
とくに「桜の樹の下には」
安吾の「桜の花満開の下」とともに自分の桜観に
大きな影響を与えています。

それにしても「檸檬」の舞台の
京都の丸善がもうなくなってしまったのは
残念ですね。
by tatchan (2010-03-31 10:33) 

ミムラネェ

こんにちは
ご訪問&nice! ありがとうございました
一文のフレーズは知っていたのに読んだことがありませんでした
こちらの感想を読ませていただいて、是非読んでみたくなりました~
ありがとうございます( v ^ - °)なんだか得をした気分です♪
by ミムラネェ (2010-03-31 14:05) 

ぼんぼちぼちぼち

末尾ルコ(アルベール)さん

そうでやしたか!
氏の作品では他に 猫の耳や肉球を描写した「愛撫」も
猫好きには大きく共感できるところでやすね♪
by ぼんぼちぼちぼち (2010-03-31 18:03) 

ぼんぼちぼちぼち

yoikosan さん
ミムラネェさん

あっしが自己満足で書いているものに対してそんな風に思っていただいて
なんだか恐縮でやす・ぺこりっ。

「檸檬」は 教科書で知っていたけれど
「桜の---」のほうは このフレーズだけは耳にしているものの・・・
というかた多いようでやすね。
何故 こちらは教科書には載らないんだろー とあっしなりに考えたんでやすが
たぶん 性的に直接的な言葉が用いられているからかな・・・? と。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-03-31 18:20) 

ぼんぼちぼちぼち

tatchan さん

京都の丸善 どんな理由でなくなってしまったんでやしょうか?
文学の舞台になった場所がなくなるの 実に寂しいでやすなぁ・・・
あ、今 思い出したんでやすが
「檸檬」が発表された直後、文学青年達によって
あちこちの本屋に檸檬が置かれ去られたそうでやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-03-31 18:30) 

じぃじぃ

おはようございます、応援になります。
(^▽^)/
絵の具のチューブから搾り出す。
本当にそんな感じですよね。

by じぃじぃ (2010-04-01 09:40) 

イブ

こんにちは イブです この春の時期 だんだんと花開く桜を見ると 頭に浮かぶのは歌人西行のこと。春の花の下にて死にたいと詠ったように 桜の花は風に散って いつの間にやら枝からひとひら またひとひらと離れていく…亡骸の上に根を張り花を咲かすなら あの潔さや凄み 花が見せる表情の多彩さも納得がいきます。
今日は風が強く、咲いた花はだいぶ散りそうです。

またおじゃま致します。
by イブ (2010-04-01 14:37) 

岩見沢鷹人

nice!有り難うござました。我々北に住む人間にとっては長い長い冬に対して耐え忍んだご褒美だと思っています。
by 岩見沢鷹人 (2010-04-01 20:22) 

空兵

梶井基次郎さんの「檸檬」
読んだときは、なんとも思わなかったのに
あとからすっかり魅了されていた自分に気づきました。
「桜の樹の下・・・」
は坂口安吾さんの
「桜の森の満開の下」とこんがらがってます。
by 空兵 (2010-04-01 23:04) 

ぼんぼちぼちぼち

じぃじぃさん

そう、実に見事な例えだなーと思いやすね♪
by ぼんぼちぼちぼち (2010-04-01 23:23) 

ぼんぼちぼちぼち

イブさん

ほんとうに 今日は風が強かったでやすね彡
今年の桜は 楽しめる期間が短いのでやしょうか?
そんな中 そろそろ井の頭公園も 物凄い人が出ているんでやしょうなぁ。
人の多くない桜下で、歌人・文士に思いを馳せたいでやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-04-01 23:34) 

ぼんぼちぼちぼち

岩見沢鷹人さん

北のほうは 様々な花が一度に咲いて
それは見事な景だそうでやすね♪
ご褒美 満喫されてくださいでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-04-01 23:37) 

ぼんぼちぼちぼち

空兵さん

確かに 題名も似ていて安吾の作品とごっちゃになりやすいでやすね。
「檸檬」あっしも 最初に教科書で知った時は
映像を脳裏に描けたものの 表層しか理解できなかったように記憶しておりやす。
その後、何度となく繰り返し読んで ああ、なるほど名作だなぁ・・・と。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-04-01 23:53) 

yuka

私も読んでいて、急に、色や音、風が急にリアルに吹いてくる経験をしたことがあります。ああいうときのことは、いつでも、すぐに、まるで今起こったかのように時間を越えて思い出されるから不思議です。
by yuka (2010-04-15 17:51) 

ぼんぼちぼちぼち

yuka さん

そう、人間の観念って不思議だなぁ と思いやすね。

by ぼんぼちぼちぼち (2010-04-16 00:02) 

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