リアリズムとは [感想文]

「リアリズムとは何か」 と問われて 答えに困る者は、そういなかろう。
しかし、リアリズムは、その場 その時で 実に多様である。11271.jpg

たとえば、腐りかけたリンゴを描くとする。
写真そっくりに 腐りかけたリンゴを描いて 「老い」 を表現するとする。
この場合、リンゴの描き方そのものはリアリズムだが、表現方法は 抽象的である。
逆に、赤っぽい丸に しわらしき筋が入っていて そこに 蝿らしきが沢山 たかっている様に 観ようによっては観える物を描くとする。
そして、「ここに、腐ったリンゴが在ります」 ということを言わんとする。
この場合、描き方はリアリズムでは無いが、表現方法は リアリズム以外の何物でも無い。

又、何を以ってリアリズムとするかは、相対的に決定される場合も少なくない。11272.jpg

それが時間軸におかれた場合は、かつてはリアリズムであったものが そうでは無くなったり、又 その逆になったりもする。
岸田國士や今村昌平は、当時はリアリズムと誰もが呼んでいたが、後に よりそれらしい作品が 多数 出現したために そう呼ばれなくなった。

先日、日本映画学校出身の人と、どうも話しが噛み合わないので よくよく聞いてみると、その人は かつての今村昌平リアリズムを 「様式」 と呼び、それに対して 棒立ちで 片方の肘から先だけを動かして ポソポソポソポソとしゃべり、大して何も起こらないで終わる芝居のことを それと指していたのだった。
当然、現実の人間は 全員が棒立ちで 片腕だけを動かしながら 終始 ポソポソとしゃべったりはしない。

映画「電車男」 のコピーは 「ネット発 奇跡のリアル・ラブストーリー」 で、この リアル という意味を 「いかにも現実にありそうな」 と解釈してしまうと、「なんだ、違うじゃないか」 となってしまう。
この場合の リアル は、アニメやネット上ではなく、生身の女性と恋愛をした、という意味のリアリズムである。

現実の世の中に 起承転結があるのか という観点から判断すると、不条理演劇の代名詞とも成っている 「ゴドーを待ちながら」 こそがリアリズムである。

四十年程前に テレビドラマで 「便利屋」 を生業とする若者の話を演っていて、それは 作る側も観る側も 「荒唐無稽だが夢がある」 と認識していたが、今となっては ごくありふれた リアルな一職業に成ってしまった。

リアリズムは、光の方向によって形を変える影の様なもの と言っていいかもしれない。



11273.jpg

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kurakichi

この言葉は自分はこういう意味で使っていて 且つこれは一般の人も同じような意味で使っている という ある種思い込みの世界で使われているのですね。
詩人の言葉は その音を含めたイメージや言葉それ自体の違った解釈で 私を驚かせてくれます。
ぼんぼちぼちぼちさんはやはり詩人でしたね。
by kurakichi (2009-11-27 06:53) 

kiyoakit

「リアリズム」って一言で普段は使ってしまうけれど考えてみればかくも多様なとらえ方が出来るのですね。
by kiyoakit (2009-11-27 07:14) 

くじら3312号

nice!ありがとうございました^^
by くじら3312号 (2009-11-27 08:02) 

斗夢

言葉ですべてを言い切っているつもりでもほんのひとかけらだけであったり。
だから哲学という分野があるのかな。
by 斗夢 (2009-11-27 08:18) 

ナカムラ

リアリズムと現実は当然違うし、「写実」という概念だから・・・概念が変われば表現だってねえ。このあたりの整理は逆にシュールレアリスムのアーティストたちが行ったように思っています。物質対象化することによって。
by ナカムラ (2009-11-27 09:58) 

ぼんぼちぼちぼち

kurakichiさん

詩人でやすか・・・・・とても恐縮でやす。
言葉に限らず、人に何かを伝えようとする場合
ある時点で客観的に俯瞰し、その後で自分はこう、と進めることが
重要だな と考えておりやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-27 10:00) 

ぼんぼちぼちぼち

kiyoakitさん

そう思いやした。
今回記事上に載せなかったことでも
話が噛み合わなくて初めて気づかされたリアリズムの捉え方の違いが幾つもありやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-27 10:12) 

ぼんぼちぼちぼち

くじら33125号さん

こちらこそ ありがとうございやす。


by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-27 10:14) 

ぼんぼちぼちぼち

斗夢さん

言葉で全てを言い切っているつもりでもひとかけら・・・・
ほんとにそう実感しやす。
哲学・・・・難しい分野でやすな。
あっしのような者が読むと、
言葉の迷宮に翻弄されてしまいやす。


by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-27 10:35) 

ぼんぼちぼちぼち

ナカムラさん

凄く専門的なコメントをありがとうございやす。
映像界のシュルリアリストでは 
まずヤン・シュヴァンクマイエルがあっしの頭に浮かぶので
氏の作品で「あー、成程!」と思いやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-27 10:44) 

空飛ぶ食欲魔人

こんにちわ!
いつもご訪問&Niceありがとうございます!(●^o^●)
オストドはどっちかと言うと・・・リアリズムには馴染めないんでしょうね。
何しろ・・・夢が多すぎて・・・
その反面、我が家のネコ目トド科のメストド1号は、リアリズム派ですね・・
<(_ _)>
by 空飛ぶ食欲魔人 (2009-11-27 11:22) 

kyo*

一言で言ってしまう言葉も人それぞれ・・・
想いや方向性を少し変えて使ってしまったら
また少しだけ違ったものに感じられたり・・・?私には難しいですね^^
by kyo* (2009-11-27 13:30) 

ぼんぼちぼちぼち

空飛ぶ食欲魔人さん

そうでやすか。
オストドさんは、いつまでも 夢見る少年なんでやすね!
それに対してメストドさん・失礼!は、家計をあずかる役割もあって
現実主義なんでやすね!

by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-27 20:52) 

よしころん

ご訪問ありがとうございました♪
by よしころん (2009-11-27 20:55) 

ぼんぼちぼちぼち

kyo*さん

難しいでやすか。
では、こんな例えではどうでやしょう?

「おしゃべり」という言葉がありやすね。
これも、時と場合により
「秘密を他人にばらして回る」だったり「妙な間を作らなくて楽しい」だつたりと
全然違う感覚で使われたりしやすね。
又、ネットが普及してからは、その上でやり取りすることも そう言う様になりやしたね。

まぁ、こんなニュアンスのことと思っていただければ 幸いでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-27 21:06) 

ぼんぼちぼちぼち

よしころんさん

こちらこそ ありがとうございやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-27 21:11) 

ake_i

リアリズムの事をこうして考えてみたことは具体的にないですね。
ただ、仕事がら、こういった内容のことは輪郭として話しているような気がします。
いきつくところ、光の当たり方、言葉のいいまわし、物を見る角度から人それぞれ同じものを見ていても違うものとなる。
でも、それがほぼすべてリアリズムの表現法なのでしょう、個々で。
人の見方によって形を変える影のようなものでしょうか。
絵画の世界では、リアリズムに着眼するととても面白いですね。
by ake_i (2009-11-28 00:49) 

ぼんぼちぼちぼち

ake_iさん

丁寧なコメント 大変嬉しいでやす。
絵画の世界では、リアリズムは 具象 写実 と呼ばれることも多いんでやすが
どの範囲までがそうか という境界線もまた 観る人によって様々だったりするようでやす。 
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-28 09:24) 

SilverMac

第二次大戦後、イタリヤ映画が「ネオリアリズム」と呼ばれていたと思います。「自転車泥棒」などは記憶に残っています。
by SilverMac (2009-11-28 10:52) 

空兵ーS

その昔、紀伊国屋劇場?だったかな
漫才師の星セントルイス演じる
「ゴドーを待ちながら」を見ましたが、
隣にコケティッシュな女の子が座ったので
そっちが気になって、あまり覚えていません。
私にとっては、芝居より隣の女の子こそが
リアルでした。
by 空兵ーS (2009-11-28 22:08) 

ぼんぼちぼちぼち

SilverMacさん

「自転車泥棒」 名作でやすなぁ・・・・

ネオ・・・・・この言葉で又 ひとネタ出来そうだな!と思いやした。
あっしが初めてこの言葉に出会ったのは
マーガリンのネオソフトでやした。
今も ネオ という文字を目にすると
あっしの脳のスクリーンには、半分ブルーの箱がフラッシュしやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-28 22:25) 

ぼんぼちぼちぼち

空兵-Sさん

そう・・・・舞台上で起こっていることより 隣の席のほうがリアルなものでやす!!!

「ゴドーを待ちながら」は、様々な役者さんが演じられてますね。
星セントルイスも演ってらしたんでやすね。

あっしは以前、シティーボーイズの少々ベケット的なコントを観に行った時
うっかり その前にトイレに行かなかったために
体を揺らして笑えなかった経験がありやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-28 22:38) 

nyankome

ご訪問&niceありがとうございました♪
by nyankome (2009-11-29 00:00) 

ひまわり

訪問&niceありがとうございました。
言葉を相手に伝えようと、気持ちをこめて発言しても、
こちらの気持ちの半分も伝わらない時もしばしばです。
発言したことは事実でも、本意が伝わらなければ言葉の効力も
半減だし、ホント難しくて何が何だかわからなくなってきました。
by ひまわり (2009-11-29 00:05) 

lucksun

先日はご訪問ありがとうございました。
リアリズムについての考察、たいへん興味深く読ませていただきました。
“リアル”を感じることって、人それぞれで最も個人的なことだから
人と共感しづらいのではないかと思います。
かといって、現実をそのまま描写しても、ちっとも面白くないですよね。
うーん、深い……。


by lucksun (2009-11-29 01:43) 

白熊パパ

アートではリアリズムを突き詰めるとキュビスムになるのかな?
マヌケなコメントでなんかすいません・・・。
by 白熊パパ (2009-11-29 02:00) 

okko

ご訪問有難うございました。
コメントなしのナイス押しは個人的に好みではありませんので、もう1度、ジックリと読ませて頂きます。
↑のMacさんと同世代、ネオ・リアリズムはイタリア映画で台頭したのでしょう。ロッセリーニなどなど。
非現実的である現実・・・・今のところはそんな風ににしか解釈ができません。的外れでしたね。
by okko (2009-11-29 09:48) 

Ariel

ぼんぼちぼちぼちさん、こんにちは〜。
電車男、みてないですけど.....バス男なら観ました。
by Ariel (2009-11-29 11:44) 

ぼんぼちぼちぼち

nyankomeさん

こちらこそ ありがとうございやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-29 21:11) 

ぼんぼちぼちぼち

ひまわりさん

こちらこそ ありがとうございやす。

実に そう思いやす。
言葉で他人に伝えることの難しさ、痛感していやす。
それでもなお、言葉で何かを伝えようとせずにはいられないあっしでやす。

by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-29 21:22) 

ぼんぼちぼちぼち

lucksunさん

こちらこそ ありがとうございやす。

そう、何をリアルに感じるかは 実に人それぞれで
「えっ?そこにリアリティを感じたの???」
と 驚くことしきりでやす。

現実をそのまま描写しても面白くない・・・・・
これも、実にそう思いやす。
ただ写真そっくりに何かを描いたところで
「・・・・それで、一体 何が言いたいのだ?」
ということになりやす。
写真そっくりの中にも「何を言いたいのか」が見えて
初めてそれが「表現」となる と思いやす。
 
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-29 21:38) 

ぼんぼちぼちぼち

白熊パパさん

写実派の画家が、自己の表現を突き詰めて行った時
キュビズムに移行する人も
ずっと写実で より素晴らしい作品を生み出す人も
また別の派に移行する人もいると思いやす。

個人の作風の移行というものは、美術史上の大きな流れとは
一致しなかったりしやす。


by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-29 21:53) 

ぼんぼちぼちぼち

okkoさん

こちらこそ ありがとうございやす。
もう一度、じっくり読んでいただけるとは 恐縮でやす。

あっしは、現実的な非現実 だと考えておりやす。


by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-29 21:58) 

ぼんぼちぼちぼち

Arielさん

こんばんは!
「バス男」 まだ観ていないので、観たいと思っているところでやす。

「電車男」については、先々 ひとつの記事として感想を綴りたいと考えておりやす。

by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-29 22:05) 

kokoa

ご訪問&niceありがとうございました(^_^)
by kokoa (2009-11-29 23:36) 

ぼんぼちぼちぼち

kokoaさん

こちらこそ ありがとうございやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-11-30 09:36) 

okko

非現実的な現実であれば、リアリズムとよぶよりは、抽象的と呼ぶほうが適切であるような気がします。
シュール・リアリズム、横文字にするとよくわかりませんけど、上の青いリンゴを見て、抽象画ばかり描いている身内をフッと思ったので。
いずれにしても、定義は難しいですね。
by okko (2009-11-30 14:10) 

ぼんぼちぼちぼち

okkoさん

そう思いやす。
シュールリアリズムは 「現実を超えてしまった」と考えるのが
一番解り易いかと思いやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-12-01 09:22) 

SILENT

正岡子規の
写生と言う言葉
写実とは何かわかりません
リアリズムも深そうでいて現実のがもっと深いと思うのが
最近です

by SILENT (2009-12-02 10:38) 

ぼんぼちぼちぼち

SILENTさん

そうでやすね。現実より深いものは他にないと思いやす。

by ぼんぼちぼちぼち (2009-12-02 19:51) 

イチロ

ご訪問、ありがとうございます。
僕の師匠が、いつも言っていた言葉に、物事を多面的にとらえよ。
という言葉があります。
それを再認識させられる記事でした。
by イチロ (2009-12-13 23:33) 

ぼんぼちぼちぼち

イチロさん

こちらこそ ありがとうございやす。

物事を多面的に捉える というのは大事なことだと思っておりやす。
尊敬できる師匠をお持ちで羨ましいでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2009-12-14 09:09) 

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