飢餓との戦ひ  [詩・詞]

「生きる」ということは 私には 精神の飢餓との戦いであるように思われてならない
ゼロの地点から 一歩一歩 歩を足し進めて 彷徨いながら 目指す何かを見い出すのではなく
巨大なスリバチ型の泥の底より 地上のゼロ地点に到達するために 死に物狂いで這い上がる行為だ と
----這い上がるためには 一つ また一つ 精神の飢餓を克服してゆくしかなく
その飢餓を克服する手段は 常に一つであり 
手段が何処にも見つけられなくとも 代用など 決してできはしないのだ

今 私は----
泥まみれの両手を下げて スリバチの淵に佇立している
もう 見知らぬ誰かがいたずらに投げた石に 頭蓋も身体も破壊されようと
かまわない
きが.jpg

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 子守り女のブルース  [詩・詞]

                                      作詞・ぼんぼちぼちぼち
                                      作曲・未定
                                      編曲・未定
俺が飲んだくれていたら 女が赤ん坊をおぶってやってきた
俺が飲んだくれていたら 女が赤ん坊をおぶってやってきた
女はすっとんきょうな声を立てて 赤ん坊をあやし始めた
いったい どうしちまったんだい?

俺は 女があんまり滑稽だったもんで ヘドを吐いた
俺は 最悪な気分になって ヘドを吐いた
お前は 厚化粧の唄うたいじゃなかったのかい?
なんてこったい!

俺はねぐらに帰っちまったけど 気づいているのさ
俺はねぐらに帰っちまったけど 解っているのさ
お前は 俺に誉め讃えてほしかったんだと
町一番の働き者だ この調子だよ!と

だがな そうは問屋がおろさねぇ
だがな そうは問屋がおろさねぇ
お前 俺の前でだけは 厚化粧の唄うたいでいておくれよ
俺の酔いがさめっちまうぜ お願いだ!

ブルース詞.jpg


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 ヤマイモ  [詩・詞]

どしゃぶりの中----
ヤマイモのつるが 絡まり合っている
蛇のように
二本のヤマイモのつるが 絡まり合っている

二本のつるが絡まり合っているのは
都会の 駐車場の片隅である
一辺は 直方体の車止めの並ぶ 灰色のコンクリート
もう一辺は 「月極・2万円」と書かれた金属看板の打ち付けられた やはり 灰色のコンクリートの壁
その隙間60センチほどの幅の泥から 二本のヤマイモは伸びているのだ

二本のヤマイモは
空へ向かう為に巻き付く物が何も無いので 互いに 絡まり合っている
絡まり合ったつるは 倒れ 倒れるままに壁沿いに伸び
泥にまみれている
片側は どす黒い水に浸かり もう片側からは はね返った黒水が 滴り落ちている

誰かが 目ざわりだと 引き抜こうとしたのだろう
数多 張ろうとしていたに違いないスマートな愛の形の葉は 無惨にちぎれ ちりぢりに 輪郭すら留めていない
排気ガスと放射能の澱みに 二本のヤマイモのつるは 
無言の裸の蛇のように 絡まり合っている

しんと 静まり返った土中----
地上のつるが 絡まれば絡まるほど
地下茎は 肥え太るのだ
この都会の片隅に 収穫の日の目を見ることなどないと 百も承知の上で
ねっとり 糸を引きながら ひっそりと 肥え太るのだ
二本のヤマイモの 望むと望まざるとに関わらず
地下茎は 土中深くに むくむくと 濃密に 肥え太るのだ
白いマグマさながらに
ヤマイモ自らにも 押し留めることなどできずに
土中奥深く 果てしなく 
膨張し続けるのだ

どしゃぶりの中----
ヤマイモのつるが 絡まり合っている 
蛇のように
二本のヤマイモのつるが 絡まり合っている

やまいも.jpg

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 からすの羽根  [詩・詞]

道を歩いていて よく からすの羽根を拾う
だからといって これは お金を落とす人の数より 羽根を落とすからすの数のほうが多い ということではない
単に からすの羽根なんぞは 今時 子供でも見向きもしない というだけの話である

しかし 私には 何か特別 貴重なもののように思えてならず
かといって ひらひら弄びつつ持ち帰ったところで
書斎のペン立てに ルーペや鋏やペーパーナイフと一緒に 投げ入れておくだけで
結局 年末の大掃除時に ペン立てを洗うついでに捨ててしまうのだ

こんなことを もう何十年と繰り返している
だから 私の想像力は 所詮 深夜の机上 60センチ四方の羽ばたきなのだ


からす.jpg



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 角砂糖  [詩・詞]

ひとつ またひとつ 私は 呼吸(いき)を詰めて 積み上げる
四角の小ささを 指先に感じながら
白の眩しさに 少しだけとまどいながら
ひとつ またひとつ 積み上げる

昨夜 ガラスの食器棚の奥に 角砂糖の小箱を見つけたのだ
気まぐれな片付けのおりに 偶然 発見したのである
食器棚に角砂糖があったことなど もうほとんど忘れかけていたのだが

偶然発見したから積み上げているかというと 確かにそれはそうなのだけれど
しかし 決して 時間(ひま)つぶしぢゃあない
いつ崩れたってかまわないという気持ちで積み上げているんぢゃあない

それなら 塔とか城とか 何かしら形になるものを目指しているかというと
私の頭の中には 何の完成図も ない

けれど-----
ひとつ またひとつ 私は 呼吸(いき)を詰めて 積み上げる
四角の小ささを 指先に感じながら
白の眩しさに 少しだけとまどいながら
ひとつ またひとつ 積み上げる

防音ガラスの四角い窓を セスナがきらめきながら ゆっくりと横切っていった

角砂糖.jpg

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 ぬし  [詩・詞]

冬了り-----
庭の睡蓮鉢の水が 木枯らしでもないのに 「くわん」と 揺れることがあった
「蛙かな」 と思った
「蛙だろうな」 と思った

若葉 萌え初むるころ-----
鉢の縁に 私のこぶし大ほどの蛙が 肘をはり 真一文字に口を結び 我が邸を 「むん」と 凝視していた
さながら 小さな庭の「ぬし」だった

次の日 窓を開けると-----
「ぬし」は 同じように 「むん」と そこに居た
その次の日も 「むん」と居た

次の次の日-----
睡蓮鉢の縁は 雑草に隠れかかっていた
「ぬし」がやっぱり「むん」と居るのかどうか 私は 履き物に泥がつくとめんどうなので 庭に歩み出なかった

いつしか-----
睡蓮鉢ぜんたいが 雑草におおわれた
あいかわらず 「ぬし」は「むん」と「ぬし」をやっているのかな と思ったが
私は 着ている物が草の露に濡れるとめんどうなので 部屋から出なかった

ぬし.jpg


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 消しゴムころがった  [詩・詞]


             消しゴムころがった
             いつもなら 慌てて拾い 修正するところだが
             今日は このまま 書きすすんでみることにした
             人生には こんな頁も ひとつくらい あっていいかもしれない


けしごむ.jpg



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 紙の王冠  [詩・詞]

    夕の雑踏------
    紙の王冠を頭に乗せた男がいた
    小さな男の子の手を引いていた
    -------そうか! 今日は日曜日だったのだ!!

    紙の王冠の男は 
    今夜 座布団の王座に大仰に腕を組み 
    むむ・・・と おどけて 下唇を突き出してみたりするのだろう
    明日の夜も あさっての夜も
    むむ・・・と やるのだろう

    しかし いつか
    王冠は 茶の間の隅に 埃をかぶり
    ゲーム機か何かの重みに
    へにゃりと たわむのだろう

    私の父は
    日曜日-----
    奴隷の衣裳で 我が家に居た
    日曜日だけ奴隷の衣裳をまとったんじゃあない
    日曜日だけ 家に居たのだ
    だから
    私は奴隷以外の父を見たことがなく
    むしろ
    居た というより 来た というほうが正しかった

    私が十八になったとき
    奴隷の父は 日曜日も家に来なくなった
    何のことはない
    もう 奴隷の役を担う義務がなくなったからだった

王冠.jpg

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 月  [詩・詞]

   月は
   手が届かないから いい
   爪先立って 脇腹が痛くなるほど手を伸ばし
   それでも およそ届かないから いい

   およそ届かないと解っていても 中指の先がかすめるかのポーズをとってみるのが いい
   そして 中指の爪の先に 仄かな白い反射をみるのが いい

   単なる科学的反射と解っていながら 「私のために雫を分けてくれた」 と
   胸いっぱいに呼吸(いき)をするのが いい

   指を折り曲げ 「私の雫」を頬に押しあてながら
   「ありがとう」 と 微笑み仰ぐのが いい

月.jpg


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 シミ   [詩・詞]

  とっておきの純白のTシャツを おろした
  雑踏で すれ違いざまに コーヒーがかかった
  シミになった
  帰ってすぐに洗ったが シミは消えなかった

  諦めずに くり返し洗った
  こんなシミ いつか消してやるぞと誓って くる日もくる日も洗い続けた
  シミを消すことに 心血を注いだ
  シミは 薄くなった

  まだだまだだと 洗い続けた
  シミを消すために 日日(にちにち)を生きた
  完全にシミが消えたので 物干し竿に勇み通し はっとした
  ここにあるのは もはやTシャツなどではなく 荒野にちりぢりにひるがえる敗者の白旗なのだ と

しみ.jpg



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