企画展「日本の映画館」を観に行き [感想文]

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先日、国立映画アーカイブス展示室で開催されている企画展「日本の映画館」を観に行った。
タイトル通り、日本の「映画館」の歴史を、時系列で、写真 ポスター パンフレット モニターその他で以って、大規模ではないものの 解りやすく 押さえるべき所はしっかりと押さえた 好感の持てる企画展だった。

関東大震災前の幟旗を斜めに数多立てた着色写真は、映画がいかに庶民の娯楽の王道だったかを物語り、震災後の浅草六区の 芋を洗うが如くの人の頭の数から 当時の浅草がいち早く復興し 東京一の大繁華街だったかが手に取る様に見え、戦後、主要な街々に映画館が建ち始めた時代のそれは、いずれも瀟洒な凝った造りの建築で 映画というものが人々にとって どれ程とっておきのお出掛けの場だったかを象徴しており、60年代には ATG作品を主に掛けていたアートシアター新宿で公開された作品ポスターも貼られ ATG好きの私は「あぁ、もう少し早く生まれてさえいれば、アートシアター新宿に、あの作品もこの作品も足を運んで観られたのに!」と唇を噛んだ。

そして私がリアルタイムで体験しているミニシアターの時代のブースに来ると、聴き覚えのある女性のナレーションが流れているのに気がついた。
声を追って近づくとーーー
なんと! 同SSブロガーである事をきっかけに交流させて頂いていたドキュメンタリー映像作家の森田恵子さんの「まわる映写機 めぐる人生」が、モニターに映し出されていたのだ。
「まわる映写機 めぐる人生」は、私も公開時に観に行き、主にミニシアターを運営する方々や、映写技師さんのお仕事ぶりを取材した作品だった。
悲しい事に森田さんは、一年ほど前に、まるで まだみずみずしい果実がぽとりと木から落下してしまった様なあっけなさで、大病のために、この世からいなくなってしまったのだった。
私は観映後、森田さんに、「地方にもミニシアターってあるのかな?って気になっていたんですけど、頑張ってるミニシアターもあるんですね!」と笑顔を向けると、「はい、あるにはあるんですけど、東京に比べると、まだまだ少ないんですよ」と 淋しく笑顔を作られたのが忘れられない。
お育ちの良さが伺える とても品が良く物静かな方だった。

新たな発見と、再認識と、小さな悔しさと、思いもかけぬ懐かしさと悲しさ、といった ごったな感情を胸に、私は会場を後にした。

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さて、では、私にとって 特別に思い入れの深い映画館はどこだろう? と自問してみると、三館浮上した。
アップリンク渋谷 イメージフォーラム シネマ下北沢。
いずれもミニシアターである。

先ず、アップリンク渋谷は、公園通りとファイアーストリートの間の坂道に在った頃からしばしば通っていた映画館で、スタン・ブラッケージやヤン・シュヴァンクマイエルなど、他ではなかなか扱われない作家の作品を上映してくれていて、その度に 勇んで坂道を登ったものだ。
奥渋へ移転してからは、私が最も敬愛し続けている松本俊夫先生の短編実験映画全作品が 何日間にも渡り映られた企画には、大興奮した。
客席は連日、松本俊夫先生ファンで ぎっしり埋めつくされた。

次に、イメージフォーラム。
こちらは劇場の他に研究所の運営も営っていて、私はこの研究所で、「世界実験映画史」と「インスタレーション」の講座を受講し、劇場上映はまず行われない貴重な作品の数々を、先生の詳らかな解説付きで観られた事が、非常に大きな糧となった。
寺山修司の「市街劇ノック」が、記録映像としても遺されており、それを観る事が出来たのも、熱烈な寺山ファンでありながらも まだ子供だったという理由で行けなかった私は、感涙せずにはおれなかった。

そして、シネマ下北沢。
これぞ、私の中で、「こんな映画館があったらいいのになあ!」という夢が具現化された ウッディで温もりに溢れる カフェカウンターも併設された 私の嗜好にパズルがカチッとハマった、私にとって、これ以上はない映画館だった。
経営者の一人で映画スタイリストでもある宮本まさ江さんと、映画にまつわるシンポジウムでダイヤローグを交わす機会もあり、映画スタイリストは、役者さんより早く現場に到着して 役者さんが帰ってからでないと帰れなく、撮影期間中は連日 睡眠時間が2時間という 過酷なスタイリストのお仕事の現実も打ち明けてくださり、物心ついた時から高2の了りで母親の方針で泣く泣く諦めるまで、スタイリストを仕事とするのが夢だった私は、「あぁ、もしも夢が叶ってスタイリストになれたとしても、私だったら、どこかの時点で音を上げていたかも知れないな」と溜め息をついた。
又、せんえつながらも、「シモキタは演劇の街でもあるので、本多さんの劇場全てとシネマ下北沢が提携して、同作品や同テーマの映画・演劇をいっせいにやる企画なんてのも 面白いと思います!」と発したら、宮本さんは、「そうですね、いいですねぇ」と頷いてくださったのも良き思い出である。

この三館のうち、イメージフォーラムを除くニ館は、すでに、無い。
身悶えするほど切ないけれど、街から次々と、ミニシアターが消えてゆきつつある。
ミニシアターの時代も、終わりに向かいつつあるのだ。
しかし、無味乾燥の大手シネコンしか知らないで「映画館を知った」つもりでいる人ばかりの世の中になってほしくはない。
せめて、現存するミニシアターは、遺り続けてほしいと、心の中で手を合わせるばかりである。
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