不思議な郵便局員さん [独り言]

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あれは、私が西荻窪に越してきて間もなくの頃だったので、およそ二十年ほど前のことである。
近所の郵便局で、保険の加入の手続きをしようとした時だった。

窓口に、四十才くらいの女性の局員さんが、担当者として座った。
一連の書類に書き込みをすると、局員さんは、「では、身分証明になる物をご提示ください」と仰った。
私はパスポートも免許証も持っておらず、何処で身分証明をするにも健康保険証を提示しているので、この時も、健康保険証を出そうとした。

すると局員さんは、「新しい健康保険証ではなく、古い健康保険証をご提示ください」と仰った。
古い健康保険証は、先日 区役所で新しい健康保険証が与えられた時に回収されたので、その旨を伝えると、局員さんは、
「えーーーーーーっっっ!!! 古い健康保険証、持ってないんですか? 古いほうのじゃないとダメなんですよーーー!」
と、驚きの声をあげた。
「はい、新しいのを受け取った時に、古いほうは回収されたので、私の手元にはもうありません」
「いやーーーーー、ダメなんですよねー、新しいほうのでは。 古いほうのじゃなくっちゃ」
「えっ?!、、、何処で身分証明をする時でも、新しいのが出されてからは新しいので通用してますけど、こちらに限っては、新しいのではダメなんですか?」
「はいっ!ダメなんですっ! 古いのじゃないと、、、、、、困ったなぁ、、、、、少々お待ちくださいっ」
奥のデスクで仕事をしていらっしゃる局長さんらしき初老の男性に何やら話しかけ、しばらくやり取りをしていた。

窓口に戻って来るや、片手を縦にして、「すいませんっ!ごめんなさいっ! やっぱり新しい健康保険証は、身分証明としては使えませんっ!古いほうのじゃなくっちゃ」
「ええっっ??? 古いのはもう、回収されちゃったしな、、、、、どうしてここだけ、、、、、」
私は、あまりの疑問に心の内がいっぱいになり、新しい健康保険証を右手で顔の横にかかげ
「どうしてこちらだけ、これではダメなんですか?」
と、少々 声を荒立てた。
すると局員さんは、「あっ!!それです!それです! それが欲しかったんですっ!!」
ぱっと目を見開いた。
「あの〜〜、これ、新しい保険証ですけど」と返すと
「はいーーーーーーっっっ!!! いいんです!いいんです! これが欲しかったんです!」
勢い良く発するや、奥の局長さんに、「持ってました!持ってました!」と声を飛ばした。
そして、新しい健康保険証で身分証明の確認を取り、保険加入の手続きを完了させたのだった。

私は、首を傾げ傾げ帰路についた。
あれから二十年ーーー
何百ぺん思い返しても、今だに、不思議な郵便局員さんであった。

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