浅草〜神保町へ行った日の出来事 [独り言]

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六月下旬某日、浅草へ。

目的は、下駄を買うためである。
私は毎年、真夏には、和柄のTシャツにフルレングスのスカート そして下駄、というコーディネートが定番なのであるが、ここ何年か愛用していた下駄が、底がすり減って 次の代のに替えなければならなくなっていたからである。
合わせるアイテムの色合いから、鼻緒は赤と決めている。
とにかく下駄屋の多い浅草の店を五、六軒もあたれば、求めている赤い鼻緒の下駄を見つけ出せる可能性は 非常に高いと予測する。

私は、ファッションアイテムに対する情熱・愛が人並み外れて強いので、あまりの興奮に 朝、ずいぶん早くに目がパッチリと覚め、午前十一時には 浅草駅に着いてしまった。

さあ!ここからが勝負!下駄屋を見つけては入り、私のために作られて待っていてくれた!と言えるほどに深く愛せる一品を探しに探すぞ! 先ずは、定番の仲見世通りから、、、
ーーーと、仲見世通りに入って左側三軒目くらいに下駄屋を発見!

仲見世通りは、浅草の中でも観光地中の観光地だから、店員さんは「二度は来ない客」として、けんもほろろに扱うだろうと覚悟しつつ、居並ぶ下駄を物色し始める。
「いらっしゃいませ!お気に召すものがおありでしたら、どうぞ履いてみられてください」
中年のご主人が、腰も低く満面の笑みで 出て来てくださった。
私は嬉しく驚き「ありがとうございます」と会釈をして顔を上げると、、、赤と白の柄の鼻緒の下駄が、運命の一瞬の如くに目に飛び込んだ。
無地の赤よりも、遥かに洒落感に溢れている!
「これ、履いてみていいですか?」
「はい、どうぞどうぞ。こちら、桐製になっております」
ご主人は、椅子を用意してくださった。
鼻緒の調整をせずとも、履き心地満点! 見た目も満点!!
まさに、私を待っていてくれた愛しの下駄である。
迷うことなく「これ、ください!」と ご主人に笑顔を向ける。
私が「和柄のTシャツと長いスカートに合わせたいんです」と言うとご主人は、「それはお洒落ですねぇ!」ますますの笑みを返してくださり、専門用語で何というのか判らないが、鼻緒の裏側の部分に丸い金属を打ち付けてくださり、丁寧に包装紙に包んでくださった。
その間、私のとりとめのない与太話にも ニコニコと応えてくださった。
プロ中のプロのお店に当たったな!と 感激しきりである。

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私は嬉しい半面、ポカンとしてしまった。
何故なら、浅草に着いてものの三分ほどで目的が達成されてしまったからである。
これからどうしよう、、、
とりあえずは、せっかく浅草まで来たのだからと、裏通りを選んで 作品に昇華しそうな写真を撮って歩く。
裏通りは、古いもの 朽ちたもの 乱雑なものの宝庫で、撮れ高、高し!

と、和布や水引で作られた小物とアクセサリーの 和モダンといった風な店が在るのに気づく。
店の表に 水引を編んで作ったブレスレットが何色も並んでいる。
私は、「これは下駄コーディネートの時にぴったりだ! のみならず、ちょうど今着ている黒地に赤のエスニック調の刺繍のワンピースにもバッチリじゃないか!」と その中の赤いブレスレットを凝視する。
「いらっしゃいませ!よろしかったらお着けになってみてください!」
三十代くらいの女性店員さんが、感じ良く店表まで出て来てくださった。
私は店表のアルコール消毒液で両手を湿していたので、「赤いブレスレットを着けてみたいのですが、、、すみません、手が濡れているので着けていただけますか?」と 店員さんに着けていただく。
バッチリである! 今着ているワンピースにも、そして 下駄コーディネートにも間違いなく!
「ありきたりじゃなくて素敵ですね!これに決めます!」と言うと、「では、サンプルではない商品を、お出ししてお着けしますね」と店員さん。
着けてくださりながら、「これは磁石で留めるようになっています」
ーーーその瞬間、私の脳裏には「磁石って、何かがちょっと引っかかったら、すぐに外れてしまわないだろうか?」との不安がよぎったが、「取れやすいようなら、後日 自分で磁石を外して金具と金具を直接留めればいいのだし」と楽観し、店を後にした。

浅草に来た折には必ず立ち寄る ゆうるりと空気の流れる前時代的な「待合室」という喫茶店で休憩しようと向かったが、あいにく休業日だった。
他の喫茶店で休んで 再び浅草裏通り写真撮り歩きをしようかとも考えたが、少々暑い日だったし、リトルシガーも吸いたくなったので、神保町まで移動し、馴染みの喫煙可の喫茶店「神田 伯剌西爾(かんだ ぶらじる)」で一服し、夕は、やはり馴染みの 伯剌西爾からほど近いタイ料理屋で飲み食いして、今日のお出掛けは〆とすることとした。

伯剌西爾に、いつものように「こんにちは」と入店。
二時間ほど、アイスコーヒーとリトルシガーを堪能し、「ごちそうさま」と 伯剌西爾の階段を上がる。
「ブレスレットも、ほんとに買って良かったな。これから、愛して愛して愛し抜くからね」と 悦に入り手首を見る。
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十五分ほど歩き、タイ料理屋へ。
「こんにちは!」
「コップンカー!」
明るく笑顔を交わし合う。
注文を済ますと、先ずは手を洗っておこうと洗面所に立ち、手首を見ると、ブレスレットが、ない!
伯剌西爾からここに来るまでの道中、落としてしまったのだ。
二時間ほど飲み食いしながら「あー、あんなに素敵なブレスレットだもの、もうすでに誰かに拾われているよなぁ、、、後日、あの店に行って『お友達にもプレゼントしたいので』という理由付けをして同じものを買い、そして家に持ち帰ってすぐに磁石から直接金具に付け替えよう」などと思案する。

会計を済ませ、「でもダメ元で、伯剌西爾からここまで歩いて来た道を、一度だけ辿り戻ってみよう」と歩き出す。
この道はこちら側の舗道を歩いて、ここで信号を渡り、こっち側の舗道に移って、、、と記憶を辿りつつ、、、ない、、、ない、、、やっぱりあるわけないよな、、、と進み行くと、白山通りの東側舗道に 磁石が外れた状態でアスファルトにペタリとへばりついているのを見つけた!
あぁ!なんという不幸中の幸い!
私の愛の深さ故、誰にも拾われずに そこで私を待っていてくれたのか!!
愛とは運命ぞ!!!

愛しのブレスレットをバッグに収め、家に帰るや、早々に 磁石を外して金具同士をつなぎ合わせた。
めでたし、めでたし。
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