アップリンク渋谷が2021年5月20日で閉館 [映画・演劇雑記]

関東圏在住の映画ファンなら「知らなければモグリ!」と言い切れる 他館ではめったに上映されない クオリティの高い珠玉の映画作品を次々と上映していた 渋谷の映画館「アップリンク渋谷」が、2021年5月20日で以て閉館してしまう事を、映画好きの親友伝で知った。
やはりコロナ禍に因するものだという。

私がアップリンク渋谷で、感動のカウンターパンチをくらい クラクラと昂揚しながら劇場を後にした数は 知れない。

アップリンク渋谷、最初は、同渋谷の街の中でも、公園通りとファイアーストリートの間の坂の途中に、「アップリンクファクトリー」という劇場名で在った。
「ここが映画館?」と目を丸くせずにはおれないほどの、ほんとうに小ぢんまりとした空間で、特に面白味を感じたのは、座席がてんでバラバラの意匠の ソファや椅子が寄せ集められ 並べられているところだった。
まるで友人宅の屋根裏部屋で、近隣の人にすら気づかれずに 自主上映会を開催する様な、そんな ミニマムで温もりを感ずる空間だった。

私はアップリンクファクトリー時代には、スタン・ブラッケージの一連の作品を観た事が、記憶に強い。
中でも「思い出のシリウス」は、死んでしまった愛犬シリウスに対する 哀しくてやりきれない情感が、さながら キャメラが身体の一部、つまり「目」そのものになったが如きストレートさで伝わってきた。
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後に奥渋ーーー東急デパート渋谷本店を代々木方面の小路に入った イマドキのミーハーな渋谷とは別世界の 静かな大人の通りへと移館し、そこでも私は、数々の感動や発見や映像理論の何たるかの再認識をさせていただいた。

殊 歓喜せずにはおれなかったのは、私が日本で最も尊敬する映像作家・松本俊夫先生の短編実験作品が、何日間にも渡って 全て上映された事である。
既にDVDにて所有している作品が多かったが、近年の より抽象的理論的になった作品には、改めて 松本先生の偉大さを痛感した。

海外で一番好きなアニメーション作家ヤン・シュヴァンクマイエルの諸作品が映られたのも、忘れられない。
これも自宅でDVDで勘定不可能なほど再観している作品が殆どだったものの、やはり スクリーンで観る オブジェクト クレイ ピクシレーション等の様々な技法のアニメーションには、息を飲まずにおれなかった。

他には、ロシアの大傑作暗喩映画「不思議惑星キン・ザ・ザ」や、やはりロシアが製作した カフカ原作の「変身」も、完璧な完成度で、芸術先進国ロシアの 理論・技術・エネルギーを目の当たりにできた。

それから、奥渋に移館し スクリーン数が増えても変わらなかったのが、座席のセンスだった。
スクリーンによっては、アップリンクファクトリー時代そのままに、ソファや椅子の寄せ集めだったり、別のスクリーンでは、座席がずらりとディレクターズチェアだった。
つまり、観客全員が、監督気分で鑑賞ーーーなのである。
「そこ違う!」と思ったら、思わず「カーーーット!!テイク2!」と叫びそうになってしまいそうであった。

そんな貴重な文化を飽和した映画館が、一つ消えてしまうとは、ここでも「コロナ憎し!」と恨まずにおれない。
尚、近年出来た 同経営者によるアップリンク吉祥寺とアップリンク京都は、これからも存続してゆくそうなので、今後は それら二館に、この独自の文化を継承していただきたいものである。
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