映画・梶芽衣子主演「女囚さそり」シリーズ4作品 [感想文]

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1972年から1973年にかけて梶芽衣子さん主演で公開された「女囚さそり」シリーズ4作品。
私は、映像理論を勉強する以前にVHSでなんとなくといったきっかけで観、あまりに意表を突く面白さに嬉しく驚き、約30年後の映像理論を勉強後の最近 再観したのだが、初観の時以上に 如何に計算高く構築された見事な大傑作作品群であるかが詳らかに分析出来たので、ここに感想を述べたいと思う。

4作品は続き物であり、梶芽衣子さん演じる無口で純粋な女・松島ナミが、惚れた男に計画的に騙され罪を被せられ 女囚となり、脱獄を繰り返し、自分を陥れた人間を次々と鮮やかに殺してゆく という、篠原とおる氏のコミックス原作の 娯楽超大作である。
続き物ではあるが、一話一話が完結したシノプシスとなっているので、どれか一話だけを抜粋して観ても 理解に苦しむ事なく、存分に楽しめる。
女囚の囚人服が 胸元の開いた横縞のワンピースであったり、ナミが殺しを決行する時のファッションが 梶芽衣子さんでこそキマる 黒で統一された大きなつばの帽子にパンタロンというのも、徹底した非リアリズムで観客の気分を高揚させてくれる。

そして、テーマはーーー
国家・体制を悪 松島ナミを善と描き、要するに 60年代学生運動で結果的には敗北の形となってしまったが、ここに一人 今も国家・体制に反発し続ける どんなに踏みにじられようが屈しない 凛とした分子がいるのだ!という隠喩による打ち出しである。

4作品それぞれに特筆すべき点を挙げるとーーー

第1作「女囚701号/さそり」 監督・伊藤俊也 1972年8月公開
暴力&エロスといった過激なシーン満載の作品である。
第1作目だったので そういった要素を前面に出して客の入りを見込んだのかも知れないが、暴力にしてもエロスにしても、何故その様な展開となったのか 理由づけに無理がなく、つまり無駄な暴力要員 無駄な脱ぎ要員がいなく、矛盾や不快を覚えずに 頷き納得しながら観すすめる事が出来る。

第2作「女囚さそり第41雑居房」 監督・伊藤俊也 1972年12月公開
第1作が当たって活動屋として好きな事をやれるのが許されたのか、かなり 観念的・抽象的・演劇的な手法で構成されている。
こういった理由から、私はこの第2作が、シリーズ中ダントツに好きである。
白石加代子さんが、我が子殺しの女囚を あの鬼気迫る演技で演られているのだが、大抵の劇映画だとあれほど演劇的に演られてしまっては全体のマチエールにそぐわない場合が多いが、この作品は上述の手法で作られているので、しっくり溶け込んでいて、みぢんも違和感を感じずにいられる。
また、オープンセットで 廃材を積み上げた山が作られているのも、退廃的で渇いた雰囲気を演出していて効果的である。
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第3作「女囚さそり けもの部屋」 監督・伊藤俊也 1973年7月公開
第2作で多くの観客から「あれは解りづらい!」という評が来たからか?作風は第1作の様な通常のドラマツルギーとなっている。
「けもの部屋」の「けもの」とは、ナミと出逢った女が 工場の事故で頭のおかしくなった実兄の性欲を満たす為の愛情から自ら身体をあずけ 果ては妊娠してしまう、という挿話から来ている。
一方、ヤクザの女親分を李麗仙さんが 衣装・メイク・演技いずれも非現実的に演られていて、この部分も娯楽作品として手放しで楽しめる。

第4作「女囚さそり701号 怨み節」 監督・長谷部安春 1973年12月公開
これまでの3作の伊藤俊也氏に替わって 長谷部安春氏がメガホンを取ったシリーズ最後の作品。
監督は替わっても、当シリーズのカラー・テーマは変わらずに、異質感を覚えずにすんなりと観了できる作品である。
田村正和さん演じる反体制分子が、過去に国家に酷いリンチを受けた回想シーンも出て来たりと、当シリーズ全編の奥底を流れるテーマが劇中の現実の出来事と重なり合う 非常に解りやすいシナリオとなっている。
結局ナミに殺されてしまう警部・細川俊之さんの薄笑いを浮かべた演技も、静寂の怖さをはらんでいて 唸らずにおれない。

以上のシリーズ4作品、ここまでの達作に押し上げたのは、勿論 監督や脚本の力量もあっての事は言うまでもないが、もう一つの大きな要因は 梶芽衣子さんの「お顔」に他ならないと思う。
劇中で「さそり」とあだ名されるのに相応しい 人を刺すが如きの鋭い眼差しに鷲っ鼻。
あのキツいお顔あってこそ さそりをさそりたらしめて、4作品の完成度をぐぐっと高めているのである。
映像は舞台と違って、いくら役に相応しい名演技が出来たとしても 風貌がそぐわなければ成立しないケースが多々ある。
今でも梶芽衣子さんといえば「女囚さそり」とイメージされるのはそこにあり 当然の事であろう。

最後にちょっと余談になるが、以前 私の知り合いの役者を生業としていたかたが梶芽衣子さんとお話しした事があるそうで、素の梶芽衣子さんは さそりシリーズの松島ナミの人物像とは真逆の性格で、とても明るく気さくであっからかんとした ケラケラと良く笑うかたなのだそうだ。
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