チップの思ひ出 [独り言]

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母親が死んで27才で完全な自由を手に入れた私は、「これから何をして人生楽しんでゆこうかな?」と考え、すぐに浮上したのが、当時 住んでいた街に在った憧れのカクテルラウンジでアルバイトすることだった。

その店は、オーセンティックなショットバーというにはだいぶ広めで、テーブル席も幾つもあり ピアノも置いてあり生演奏も出来る ホテルのラウンジ形式で経営する 主にカクテルを提供するかなり気取った店だった。

アルバイトは、シェイカーとミキシンググラスこそ触れさせてもらえなかったが、カクテルのレシピを覚えたり スピリッツやリキュールの味や歴史の説明が出来るように勉強したり ビルド物(グラスの中で作るカクテル)を作ったり カウンター越しに礼儀正しく接客したり、と 覚えねばならないことは山ほどあったが、私は自分が知りたかった世界だったので、楽しみながらも意欲的に仕事をしていた。

単価の高い店だったので、客層は50代以上が殆どだった。
中ーーー、珍しく 30代と40代の男性4人組の 友達であるらしいグループがいた。
彼らは特別 おぼっちゃまといった雰囲気でもなく 全員気さくで、月に一度くらいの割で ふんぱつしてちょっといい洋酒を堪能しに来るのが大の楽しみ、、、といった様子だった。

ある時、会計の了った4人に、赤いチェックのチョッキをキメた私は ドアの所で、「ありがとうございました。 またのお越しをお待ちしております」と 両手の指を腹に揃えて重ね 45度の会釈をした。
ーーーと、その中の一人の男性が、一万円札をピラッと私に差し出した。
この店ではチップをくれる客は少なくなかった。
従業員一人一人に三千円づつ配ったり マスターに一万円渡して「みんなで分けてね」と言ったり。
が、彼らがチップをくれたことはそれまでなかったので、「今日は羽振りがいいんだな」と思った。
そして、「え〜〜〜 こんなに頂けませぇ〜〜ん!」と嬉しさを隠せない口調で身体をくねらせ 掌を出した。
すると、4人の目は一瞬 点になり、万札を出した男性が大笑いしながら明るくこう発した。
「お前にやるなんて誰が言ったかよぉ! タクシー代にするから崩してくれって言おうとしたんだよ! ハハハ・・・・」
他の3人も大爆笑した。

いやはや、大笑いしてもらえて救われた。
あの時、しら〜〜〜っと冷めた空気になっていたら、私は凍りついて粉々に砕け散っていたこと必至だった。 
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