「横浜ホンキートンクブルース」聴きくらべ [感想文]

「横浜ホンキートンクブルース」-----1980年に、俳優の藤竜也氏・作詞 元ゴールデンカップスのエディ潘氏・作曲で作られ、エディ潘氏の歌唱によりヒットした イエローブルースの大傑作である。
過ぎ去った恋のみれんにブルージィに溺れる大人の男が、エディ氏の 上顎にカーンと軽く響かせる声の出しかたにより、心地良く 重過ぎないタッチで表現されている。

この「横浜----」、その後 幾人ものかたによってカバーされており、聴きくらべてみると、同じ歌詞でありながら それぞれ歌い手さんの個性・歌い方によって 微妙に違う主人公像・違う心情・違う情景が浮かびあがってきて 実に面白い。
よって今日は、その中で特に私が心を突き動かされた 数人のカバー作品を紹介してみることにする。

先ず、松田優作氏。
荒くれ者が路傍の空き缶を蹴飛ばしながら 自暴自棄になっている情景が浮かばずにはおれない。
ブルースというジャンルは、歌詞・感情を前面に出して メロディも音程も自分なりに崩して歌うのに相応しいので、役者が歌うのによく似合う。

ヨコハマ1.jpg同じく役者の原田芳雄氏もカバーしている。
力強さを備えながらもひょうひょうとした ふられ男の滑稽さに ついにんまりとしてしまう。
崩しかたは松田氏以上で、殆ど台詞のように歌っている。
「♪たとえばブルースなんて 聴きたい夜は・・・・」という一節があるのだが、「ブルース」の部分を モダンブルースの王者「BBキング」と歌っているところも興味深い。
私は個人的には、松田氏も原田氏も 日本を代表する名優だったとは認めているが、自身の個性をこれでもかと前に出す強烈な演技は嗜好に合わなく 役者としては好きにはなれない。
しかし、ブルース歌唱ではこれくらい自身に引き寄せて自身を出して表現することに 違和感を覚えず魅力を感ずる。

又、宇崎竜童氏も、二種類のバージョンで歌いあげている。
この歌は元々がスローテムポなのだが、元歌とほぼ同じテムポで歌っているものと かなりのスローで弾き語っているものとがある。
「♪たとえばブルースなんて・・・・・」の部分は、前者バージョンは「ジョンリー・フッカー」 後者は「エルモア・ジェイムス」と変えているところも、宇崎氏の敬愛するブルースミュージシャンがうかがえて楽しい。
さすが 本業がミュージシャンのかただけあって、音程に忠実で 根の張った底力が感じられる。
私は、数人の好きなカバー作品の中でも特に、この宇崎氏の 元歌とそう変えていないテムポのバージョンが気に入っている。
歌詞の世界観が 独自の世界観としてはなれ過ぎずに、---つまり、自身の個性を巧く出しつつも 元歌への敬意というものが伝わってくるからである。

そして、歌詞を作った藤竜也氏も歌っている。
ヨコハマ.jpgこの歌は元々違う歌詞が付いていたところに、「曲はいいけど詞は良くないから 俺が書き変えてやるよ」といった調子で、横浜を愛する藤氏によって今の詞に決定され、売り出されたらしい。
軽々と頓狂な男 といった像で表現されている。
「♪ブルースなんて・・・・」は、「♪トム・ウェイツなんて・・・・」である。
あえて王道のブルースミュージシャンでないところが意表をついていて心憎い。
又、間奏中に長々と台詞を入れているので、情景や主人公の心情が具体化されている。
ここまで説明されてしまうと、観客にゆだねる世界が少なくなって 好き嫌いが極端に分かれてしまうかもしれないが、たくさんの「横浜----」主人公像のある中では こんな像もあっていいのではないかと 私は思う。

この名曲、女性歌手も歌ってはいるのだが、やはり男の歌だと痛感する。
男でこその喜びと悲しさをめいっぱい経験してきた大人の男が歌って 初めて立ち上がり成立する世界である。
女性で歌ってサマになるのは、和田アキ子さんくらいではないだろうか?
一度、和田アキ子さんの歌う「横浜----」も聴いてみたいものである。

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