もう一度観たい名作「ステイト・オブ・ドッグス」 [感想文]
もう一度観たい---しかし、観ることの叶わない名作映画というのがあります。
1998年製作 モンゴル・ベルギー合作の「ステイト・オブ・ドッグス」も、そんな作品の一つです。
極めて完成度高く仕上げられていながらも、2002年の日本初公開以降 私の知る限り再映はなく、DVD化もされていません。
モンゴルには、「犬は死ぬと人間に生まれ変わる」という言い伝えがあるそうで、その言い伝えを下敷きに、主人に理不尽に捨てられ野良犬となり果てた末、野犬狩りに射殺され、人間を信じられなくなるものの、逡巡の末 男児の命に宿ることを選ぶという 一匹の犬の魂を語りべとした 抒情的ドキュメンタリー作品です。
末端の犠牲者と成らざるを得ない犬の視点で以って、激動のモンゴルに翻弄される人々や容赦なく殺されてゆく犬達が、馬頭琴の奏でや詩を効果的に響かせながら、淡々と映し出されます。
私がこの作品を名作だと思わずにおれない最も大きな理由は----
語りと画との絶妙な距離の取り方にあります。
語りべの犬はパッサルという一匹ですが、映像中ではどの犬がパッサルとも限定されず、幾多の犬が 渇いた街をうろつき 射殺され 大赦色の荒れ地にころがり風化してゆきます。
語られる言葉の意味と画の内容も 必ずしも瞬間瞬間 一致してはいません。
つまり、作品全体が、長編朗読物のイメージ映像に近いニュアンスで、観る者の内側に果てしない世界を広げ、パッサルは あれら一匹一匹 現代モンゴルの犬すべての代弁者であり、ひいては 今は絶望的だけれど明るい光を信じてみようじゃないか、というモンゴル国そのものであるようにも感じられるのです。
是非とも もう一度、否、二度三度・・・勘定しきれないほど反芻したくてならない名作です。
タグ:ステイト・オブ・ドッグス
原題のNohoi oronで検索したらYouTubeで見れました、たぶんモンゴル語で字幕は英語でしたので台詞は判らないので少しだけ。
荒涼とした風景と音楽がいいですね。
動物愛護の方は、見ない方がいいです。犬好きの方は特に。
たぶん、モンゴルは遊牧民の国ですから人間と犬との関係は我々より強いのですね。
by ackylacky (2013-07-21 09:59)
リアルです!
昨日河原で、哀しい犬に出逢いました。
その背景は分かりませんが...
何もしてあげられませんでした。
by 柴犬 (2013-07-21 10:21)
「ステイト・オブ・ドッグス」ですか、ここまで書かれますと
是が非でも見てみたいですね、えっ「犬好きの方は見ない方がいい」
そうですか見る度胸もなさそうだし、DVD化もされて居ないんでは
見られませんね・・・ホッ!
by Hide (2013-07-21 12:28)
主人公の姿を限定せずに観衆の理解の巾を拡げるかのような
語りの距離感、色々考えさせられそうですね。
ご紹介をちょっと読んだだけでもモンゴルの文化や歴史を
本気で伝えようとしている作品からの真摯なメッセージが
にじみ出ている感じがします。
ステキな作品みたいですね。
by すーさん (2013-07-21 12:30)
ackylackyさん
今、「Nohoi oron」で検索かけて ゆーちゅーぶで観やした。
全編きっちり観れやした。
探してくださってありがとうございやす。
感謝感謝でやす・ぺこりっ
十年以上も前に一度観たきりだったので 記憶がおぼろげなとこもだいぶありやすが
語りの概ねの内容は----
先ず、冒頭に近い部分で「僕は野犬狩りに殺された」と説明されやす。
途中、山羊と共に暮らしている場面は 主人に可愛がられていた頃の回想。
そして、魂が逡巡し---
女性が出産する辺りで、「やっぱり、もう一度 人を信じてみて 人間に生まれ変わることを選ぼう」---と。
そう、遊牧の民にとっては 犬は大切な家族であり財産だったんでやすよね。
でも、文明化の波や政治の激流で人々の暮らしが大きく変わらざるを得なくなった。
犬を捨てる側も 決して気まぐれに捨てている訳ではなく、そこにはやむにやまれぬ事情があるのだけれど
でもやっぱり、死んだ犬の目がアップで映されるところや 道に転がる死骸がまたがれてゆくショットは 殊に胸が痛みやすね。
この映画は、そういった ニュースでは報道しない 激動の国の末端の犠牲者達の存在を静かに伝えている 映画というものの役割を大きく果たしている作品のひとつだと思いやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-21 14:37)
柴犬さん
野良犬?
現代の日本で野良犬を見かけることは 非常に稀でやすね。
捨てられてしまったのでやしょうか・・・・
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-21 14:39)
Hideさん
ackylackyのコメント通りに「Nohoi oron」で検索かけたら 全編きっちり観れやした。
ご覧になるかならないか おまかせしやすでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-21 14:43)
すーさんさん
へい、とても意義の大きな作品だと思いやす。
私達は報道によって、世界の国々がどのような状況にあるのか知る訳でやすが
そのしわ寄せが犬にきているのだ などとは想像だにしない。
そこを教えてくれるのが ドキュメンタリー映画の役割だと思うのでやす。
この映画は決して、犬に対してこういう扱いをせねばならぬ などと結論を出しているわけではなく 観る者にゆだねているんでやすね。
だから あっしら各々が考えずにはおれなくなる。
この映画、本当に知ってよかったと思いやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-21 14:55)
非常に興味をそそられるお話でした。
是非観てみたいと思いましたが、観られないのですね。
by johncomeback (2013-07-21 15:46)
私も興味をそそられました。いつもユニークな記事と写真を楽しみにさせていただいています。コメントありがとうございました。
by モリガメ (2013-07-21 18:13)
johncomebackさん
↑上のコメント欄にて ackylackyさんが、原題の「Nohoi oron」で検索かけると観ることができると教えてくださいやした。
さっき観てみたら 全編きっちり観れやした(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-21 19:00)
モリガメさん
モリガメさんのようなかたにあっしの拙いケータイ写真を観ていただくのはお恥ずかしいかぎりなのでやすが
無手勝流に愉しんでやすf(◎o◎)
今回の写真は、この映画のチラシをPc上で色調加工したものでやす。
落花生、ゆでても美味いでやすね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-21 19:05)
たいへん興味をひくコメントでしたので、是非観てみます。
対象との距離感や視点の捉え方によってテーマの説得力が違ってくるので、私にとっても勉強になりそうです。
by 扶侶夢 (2013-07-21 19:30)
興味深く読ませて頂きました。
機会があれば是非観て、感じてみたいです。
by b.b.mk2 (2013-07-21 19:39)
そんな名作見たいものです。記憶にとどめておきます。
by JUNKO (2013-07-21 19:40)
15年前か。つい、最近のような。ずっと、昔のような。
わんわん物語は50年前。
さっき、見たけど、ドキュメンタリー、遊牧民の様子は生活感がある前向きなものだと思いました。ただ、この、15年間で、そうとう変わっただろうとも。
アメリカが50年間で変わったのと、日本が40年で変わったのと同じように。
昔、野犬いました。群れ作って歩いていましたもの。
by ロゼ (2013-07-21 20:28)
扶侶夢さん
b.b.mk2さん
JUNKOさん
上のコメント欄にてackylackyさんが教えてくださったように、原題でぐぐるとゆーちゅーぶで観ることができやす。
ゆーちゅーぶのは英語字幕でやすが、あっしは日本公開時に劇場で観たので日本語字幕でやした。
観る側に強く訴えかけようとすると つい噛んで含めるように押しがちになりやすが
この ちょっと突き放しているくらいの距離の取り方は 逆に強烈に心に響きやす。
お時間あったら 是非・・・(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-21 20:59)
こんな映画を知っているというのは
やはりマニアックなのではと思います。
それはともかく
お話を聞いている限り、おもしろそうな映画ですね。
by そらへい (2013-07-21 21:00)
ロゼさん
そう、仰るとおり 15年前とは変ったでやしょうね。
ちなみに、この作品は、4年くらいキャメラを廻し続けて創られた作品なのだそうでやす。
野良犬、あっしが子供の頃いやしたね。
「噛まれると狂犬病になるから近付いちゃいけないよ」と 大人達に言われやしたね。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-21 21:07)
そらへいさん
うん、やはり人様には「ぼんぼちは映画マニア」と言われるのだろうなぁと思いやす。
でもぼんぼち、本数は 決してたくさん観ているほうじゃなかったりしやす。
気に入った作品を何十回も観る派でやすね(◎o◎)b
このころって、映画と芝居を週に二本くらいづつ観てて
単館系の映画は観まくってやした。
そんな中、「いい出来の作品だよ~」と聞いて行ってみたら ほんとによくて
一度しか観てなかったけれども 強く印象に残ってて
いつか記事にしようと、ブログを始めた当初から考えてやした(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-21 21:22)
ぼんぼちさん、こんばんは^^
犬が撃たれるシーン等は辛すぎて直視できないかもしれないと思うのですが
絶望的な状況の中に光・希望を見出そうとしている所に惹かれます。
youtubeで観ることが出来るという事なので、検索してみますね。
by Sizuku (2013-07-21 22:00)
USのAmazonでDVDを見かけました。
EU向けの、リージョン2のPALのDVDは発売されていたようですね。
リージョン2でも、日本はNTSCなので、日本のDVDで再生OKかどうかは、
要確認かと。。
by さといも野郎 (2013-07-21 23:34)
あ~これ絶対に泣いちゃいそう~!!(^o^)v
by macinu (2013-07-22 07:44)
Sizukuさん
ラストのワンショットで ふわっと救われた気持ちになると同時に うるうるきちゃいやす(◎o◎)b
「Nohoi oron」で検索かけると すぐ出やす。
これを探してくださった ackylackyさんに感謝でやす\(◎o◎)/
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-22 10:23)
さといも野郎さん
おぉ!情報ありがとうございやす・ぺこりっ
そういった意味からも 今回この記事公開してよかったでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-22 10:29)
macinuさん
創られた虚構の物語でないだけに、ぐっと胸にせまるものが強いでやす。
果たして文明がすすむことが一概によいと言えるのか・・・
そんなことも考えさせられる作品でやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-22 10:37)
よく知らないのですが、モンゴルにも不幸というか悲しい歴史があったんでしょうかね。
by momiji (2013-07-22 23:28)
映画を観る前にあなたの名文に感動です。書き馴れていますね。プロですか? この名解説に「ステイト・オブ・ドッグス」を私も是非見たいと思いました。
by 暁烏 英(あけがらす ひで) (2013-07-22 23:39)
こんばんは!
ぼんぼちぼちぼちさんの文で十分です♪
いえ とても興味があるんですけど
今はちょっと耐えられないような気がして・・・。
感じて 考える前に
涙と鼻水で窒息するかも^^;
動物ものは弱いんです。
by ちゅんちゅんちゅん (2013-07-23 04:10)
momijiさん
元々社会主義だったところに民主化の波が押し寄せ 憲法も変わり
結果、今だに大きく揺れ続いている状態のようでやす。
この映画は、新たな「モンゴル国」となる寸前の作品でやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-23 10:48)
暁烏 英(あけがらす ひで) さん
書くことに関しては、まったくのズブの素人でやす。
そんなふうに思っていただいけて 恐縮でやす・ぺこりっ
このブログを通して様々なジャンルの言葉を公開させていただいてやすが
感想文・解説が、あっしなりに一番難しく いつも「こういう書き方で果たして上手く伝わるだろうか?」と逡巡しながら推敲してやす。
今回の文も 自信があるとは言えないものだったのでやすが
とても安心できやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-23 11:13)
ちゅんちゅんちゅんさん
うん、それでやしたら、仏の「皇帝ペンギン」のほうが安心して観れやすね(◎o◎)b
子ペンギンが禽鳥に食われてしまう箇所もありやすが
そういう悲しい現実もあるのだと知らせつつも 襲われた瞬間でカットされていて 生々しい映像は続かないでやすね。
行進してて つるりんこと滑ってしまうペンギンもいて ほっこり和めるシーンも多かったでやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-23 11:24)
出た~・・・犬のかわいそうな話は無理なのだ・・・。
私がビル・ゲイツくらい金持ちだったら
全世界のかわいそうな動物たちを保護するんだ。
子ペンギンが禽鳥に食われるのはいいのです。
(上のコメントの話ですが・・・)
自然のことはOKです。
人に理不尽にされることほどかわいそうなことはないのです。
by イヴママ (2013-07-23 15:11)
見れないとなると尚更見たくなりますね
どんな世界観なんでしょかね?
by moto_mach (2013-07-23 19:51)
イヴママさん
うんうん、すごく解りやす。
自然の摂理に組み込まれているのは肯定できやすよね。
・・・・そんな中、あっしが一番泣いてしまったのは「かわいそうなぞう」でやす。
悲しすぎる・・・(ToT)
理屈としてはね、この映画も似たような類いの悲劇て゛やすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-23 21:59)
moto_machさん
上のコメント欄にて ackylackyさんが、原題の「Nohoi oron」で検索かけると ゆーちゅーぶで英語字幕版が観られると 教えてくださいやした(◎o◎)b
お時間あるときにでも 是非~
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-23 22:05)
今のチベットが中国に支配されているように、大きな国に飲み込まれて苦しんでいる民のイメージが浮かんできました。
犬は風刺なんでしょうね。上映禁止されていたのかもしれませんね
by よいこ (2013-07-24 15:07)
よいこさん
日本で再映がなかったり 日本版DVDが発売されていない理由は
おそらく、観客動員数・購買者数が見込めないからだと思いやす。
モンゴルも、かつては中国の侵略を受けたという過去から 反中感情をもっているモンゴル人も少なくないようでやすね。
うん、犬は、モンゴル人そのものの象徴のようにも受けとめられやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-07-25 09:42)
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