映画「アートマン」  [感想文]

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「アニメーション映画の中で どの作品が一番好きですか?」 と問われたら、私は迷わず 「アートマン」を挙げます。

「アートマン」----1975年 松本俊夫先生により創られた 赤外線フィルムを使った11分のスチルアニメーションです。
キャメラは、般若の面を被った人物の周囲を寄ったり引いたりしながらぐるぐる廻り、前半中 そのテムポがゆっくりとなることで 作品自体の構造が説明され、ラストに向かうや めくるめくスピードにより 何故このような構造として創られたかという理由が提示されます。
一見 コマ抜き技法に観えますが、約500の地点から、露出を閉じたり開いたり、また ブルーやグリーンのフィルターをかけることで 敢えて赤外線による色調を消し肉眼で観えるのと同じ色味を出したり と、1カ所5パターンづつ、つまり約2500のコマから構成された 紛れもないアニメーション作品です。
「アートマン」という語は 古代インドの言葉で「我れ」という意味だそうで、この作品の狙いは、観客に 観ている内に我れを忘れてしまわせる----というところにあるようです。

実際 私は、初めて観た時、あまりの衝撃に まさに我れを忘れるが如く 身じろぎひとつ出来ずに画面に吸引されてしまいました。
同時に、「鑑賞するだけでなく 趣味の稚拙なお遊びでいいので 自分でも映像というものを創ってみたいなぁ」 という思いが 生まれて初めて湧き出でてくるのを覚えました。

松本俊夫DVD.jpg
理由は----
赤外線フィルムに拘りたかったからでも 作品中でその構造を解き明かすことを真似てみたかったからでもありません。
「たった一人で創ることのできる映画」があるのだと 明確に認識したからです。
----仕事として喰うためであればこんな戯言は無論言っていられない訳ですが----趣味・お遊びで何か作品を創って愉しもう という時に、どの分野でやるにしろ、私は 自分以外の人間の意思がわずかでも入るのが嫌なのです。
ほんの一言の意見であっても 絶対に許せないのです。
それなら最初からまるで創らないほうが明らかに愉しくいられるのです。 

この「アートマン」以前には実験映画では寺山修司の短編を観ていましたが、寺山さんは映像の専門家ではないだけに 複数人の協力があって完成に至っているのが詳らかに解り、撮るという立場に関しては、ストレスの伝播は受けても 憧れはみぢんも萌芽しませんでした。
そして「アートマン」をきっかけに、松本俊夫先生の個人映画の世界深くに歩を踏み入れずにはおれなくなりました。

みなさんも御承知の通り、現在(いま)、機材はものすごいスピードで優しく懇切丁寧に安価になりつつあります。
私のような機材オンチの素人にも手におえるものが出てくるかも知れません。
今はこうして 言葉という手段を使った趣味に夢中ですが、もしも長生きできたら、一作くらい 映像作品を創ってみたいなぁ・・・と、一人 夢馳せています。
「アートマン」が 具象をモチーフとした構造映画作品であるのに対して、加工に加工を重ねたアブストラクトなスチルをアニメーション技法で抽象表現できたら・・・・例えば----2012年12月29日に公開した記事「テーマ『映画』で綴りきて」の画像が 様々なリズムでパラパラと動き、途中 パッ!パッ!と ネガ加工のコマをスパイス的に効かせられたら・・・・など と。

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ackylacky

 YouTubeで見て来ました。
高校生の息子が学校で友達と映画を作って全国大会に出したと、去年の夏に言っていたくらいで、動画制作も身近になりました。私も写真をしている方のスライドショウ的な作品の音楽を付けたことあります。
ここに貼り付けられている画像は素敵なので、アニメーション作品を作られれば素晴らしいものになる気がします。ぜひ挑戦してくださいね。
by ackylacky (2013-01-10 11:39) 

森田惠子

アートマンは「真我」と訳されていることが多いと思います。
自分の中に居る、本当の自分というような意味合いで、なかなか、、本当の自分に気付けないのが人間なのだと・・・。
by 森田惠子 (2013-01-10 12:28) 

太陽の玉子

今年も宜しくお願いします。
by 太陽の玉子 (2013-01-10 19:44) 

ぼんぼちぼちぼち

ackylacky さん

おぉ! アートマン、ゆーちゅーぶでご覧になりやしたか!
スチルアニメーションの歴史を学ぶ上で必ず登場する達作で
これを観て「自分も個人映画を作ってみたい!」と思った人も少なくないと思いやす。

スライドショー的な作品の音づけをされたのでやすね!
どんな感じに仕上げられたのか とても興味をそそられやす(◎o◎)b

今回の画像は、アートマンが収められているDVD「松本俊夫実験映画集Ⅱ視想の錬金術」のジャケット写真をPCで色調加工しやした。
色調加工を加えてないものは、やはり松本俊夫先生の映画を紹介したときの過去記事 「つぶれかかった右眼のために」の緑のでやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-10 21:41) 

ぼんぼちぼちぼち

森田惠子さん

詳らかな訳をありがとでやす・ぺこりっ。
古代インド語、深いでやす(◎o◎)
by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-10 21:48) 

ぼんぼちぼちぼち

太陽の玉子さん

こちらこそよろしくでやすっっ(◎o◎)/
by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-10 21:49) 

Sizuku

もう10年以上前になりますが
妹がハンディカメラを使って5分くらいの映画を作ったことがありました。
(受講中の講座で課題が出たそうです。)
たった5分で映画?とはじめは半信半疑でしたが
見せてもらってすごく新鮮な驚きを感じたことを思い出しました。
5分って意外と長いんだなぁと思ったのです。
編集は死ぬほど大変だったとのことでしたが、時間内に自分の描きたい世界がちゃんと収まっていて感動しました。

いつか実現させてみたいと思う何かがあるのは素敵なことですね^^
ぼんぼちさんの夢が叶いますように・・・☆
by Sizuku (2013-01-11 12:59) 

ぼんぼちぼちぼち

Sizuku さん

へい、ありがとでやすっ、もしも長生きできたら 実現させたいでやす。
やっぱ アブストラクトなスチルアニメーションで(◎o◎)b

そうでやしたか!妹さんが!!
編集は大変だけど とても面白い作業でやすよねo(◎o◎)o
妹さん御自身の感慨もひとしおだったのではないかと お察ししやす。


by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-11 20:23) 

楓〇

私に創れる動画は、パラパラ漫画くらいかも・・・。
by 楓〇 (2013-01-11 23:16) 

ぼんぼちぼちぼち

楓〇さん

パラパラ漫画こそ 元祖アニメーションでやすねo(◎o◎)o
小学生の時、教科書の端っこに描いて遊んだかたも多いのではないか と思いやす。
あと、うちわ画。 うちわの表に鳥、裏に鳥かごとかっていうモチーフがよく扱われる あれね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-12 09:53) 

ジル

すごく明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。
「アートマン」も松本俊夫さんも知りませんでした。なんか面白そうですね。
アートマンとブラフマンと言ったら、佐藤史生の漫画で読んだくらいw

rss読めせて頂きますね。
by ジル (2013-01-12 12:46) 

ぼんぼちぼちぼち

ジルさん

あけましておめでとうでやす(◎o◎)/
こちらこそ 今年もよろしくでやすっっ。

今回の記事、興味を持ってくださるかたはものすごく少ないだろうな と予測していただけに
そう思っていただけて嬉しいでやす・ぺこりっ。

あっしは逆に、佐藤史生の漫画 知りやせんf(◎o◎)
どんな漫画なのかな・・・
by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-12 17:17) 

cafelamama

松本俊夫のアートマン、評判は聞いてますが、未見の作品です。
高校生の時、8㎜フィルムで個人映画を撮ろうと思ったのは、
やはり松本俊夫の影響でした。
「表現の世界」「映像の発見」の2冊は僕のバイブルでした。
by cafelamama (2013-01-12 18:13) 

おきぬ

アートマン、1975年の作品となるとずいぶん昔ですが
それでも色あせない魅力があるのですね。
いつか見てみたいです♪
by おきぬ (2013-01-12 18:50) 

ぼんぼちぼちぼち

cafelamama さん

嗜好に合う合わないは別としても、やはり 松本俊夫先生の存在は大きいでやすよね。
あっしも、「表現の世界」「映像の発見」持ってやす。
あと、「映画の変革」「幻視の美学」「映像の探求」も。
映像以外の表現手段や商業の劇映画作品までの広く深い評論は 何度読んでも学ぶところが大きいでやす。

矢口書店や模索舎などに足を運んでて 最近 気付いたのは、
松本先生のようなスタンスの映画評論書籍って 他に殆どないんでやすね。
あと思うのは---
アート・実験系の映画を創る作家さんには 演技について疎い人も少なくないのだけれど
松本先生は 演技についてもきっちり解っておられるな(あえて意義あって素人を使って 結果、芝居ができているか否かは別として)というのもありやす。
舞台の台本も一作書いておられるし。(これ、探し続けてやすが 今だ見つからず・・・)

これらの点からも 偉大な先生だと実感してやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-12 19:25) 

ぼんぼちぼちぼち

おきぬさん

最初にコメントくださったackylackyさんが ゆーちゅーぶで観れたとおっしゃってるので お時間あったら観てみられてくださいでやす(◎o◎)b

この作品、映像の学校の実験映画史の授業では 必ずといっていいくらいテキストに組み込まれてると思いやす。
勿論現在(いま)は あえて赤外線フィルムを使うこともなくいろいろできる訳でやすが
1975年当時に ああいった試みをされた という発想や冒険、すごいと思いやす。
そして、作品創りへのエネルギーが 時代を超えて伝播してきやすo(◎o◎)o
by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-12 20:26) 

カリメロ

松本俊夫のアートマン、初めて聞きました。
そんなに素晴らしい映像なのに、その世界の方しか知らないのは残念ですね。
ま~日本って人の功績への評価って、そういうところですが^^;
今度探して見てみたいと思います♪
by カリメロ (2013-01-13 13:57) 

rantan-nya

今はカメラで簡単に動画も撮れる時代ですから、新しい才能も出てくるのかも・・
なんて思います。 もちろん、作品として撮るのは別なのかもしれませんけど^^;
ぼんぼちさんの作品、観てみたいですね~
画像に使われている色彩が独特なので、そのあたり、とても興味があります!
くだらない話ですが・・ 
わたしはハンズのかわりに、お近くのアートマンへ行きます。 
多分、店名は芸術の人artmanという意味との掛け言葉だと思うのですが、
元々はそんな意味があったのですね^^;
by rantan-nya (2013-01-13 15:32) 

ぼんぼちぼちぼち

カリメロさん

仰るとおり、殆どその世界の人しか知らない作品でやすね。
映像を学んだ人は 授業でテキストとして扱われているので ほぼ全員知ってやすが
それ以外だと アート・実験系の映画が好きで積極的に観ている人でないと知らないように思いやす。

で、あっしが何故、アート・実験系映画ファンだけを対象としたブログでもないのに こういう類いの作品を時々記事に取り上げるかというと----
先ず第一には、自分が好きで勝手に書きたいから というのがありやす。
そして第二には----
決して 興味を持っていただかなくても 好きになっていただかなくてもいいんでやす。
こういう作品も世の中にはあるんだ ということを知ってほしいのでやす。

世の中には、大手レンタルビデオ店の映画をかたっぱしから全部観たら 映画というものの概要を把握できると信じている人がいやす。
セルまたはセルから発展したCGアニメが アニメーション技法の全てだと思っている人がいやす。
勿論、それらの作品やそれらの作品を好きな人を否定しているのではく
それらは、沢山ある映画ジャンル アニメーション技法の その中の一つなんだよ と ということを 頭のかたすみにでも認識していただけたら・・・と思うのでやす(◎o◎)b


by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-13 15:57) 

ぼんぼちぼちぼち

rantan-nya さん

そう、昔は 個人映画を創ろうには まず
機材に長けていることと経済的に余裕のあることが最初の条件としてありやしたけど
今は その二つの枷がなくなりやしたもんね。
ネット観てると 誰が創ったのか判らない作品で ものすごくクオリティの高いのとかありやすね。

ハンズよりアートマン派なのでやすね。
ああいった店は 見て歩くだけでも楽しいでやすよねo(◎o◎)o

アートマンの意味、あっしもこの映画を観て解説を聴くまで知りやせんでやした。
タイトルだけ知った時点では、やはり芸術の人だと思ってやした(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-13 16:24) 

さきしなのてるりん

豚の映像みっけ。めがまわった。(笑)もっとエッチ映像の本題に入った映像が面白かった。音を消してみてたのでストーリーはわからないけど滑稽な感じが伝わってきた。
by さきしなのてるりん (2013-01-13 16:49) 

ぼんぼちぼちぼち

さきしなのてるりん さん

豚さんの映像でやすか!
ゆーちゅーぶで豚って検索入れると拾えるのかな?
動物の動画って 猫をはじめ ついいろいろ観ちまいやすo(◎o◎)o
by ぼんぼちぼちぼち (2013-01-13 21:23) 

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