映画「つぶれかかった右眼のために」  [感想文]

松本俊夫DVD.jpg

幾多存在する映画ジャンルの中に ドキュメンタリーがあります。
ドキュメンタリーと一言に言っても、隠されていた真実を一人でも多くの人間に知ってほしい という信念の元に創られた作品、様々な立場の人のインタビューを挿入し 多視点的考察に重きをおいて構成された作品、極力淡々と撮り手の主観は抑えに抑えて観客にゆだねた作品など 多彩です。
今回紹介する一作は、映像作家の芸術的感性の占める割合の非常に高い むしろアートシネマと分類するほうが相応しい ドキュメントに材を取ったコラージュ映画です。

1968年 「つぶれかかった右眼のために」 監督・松本俊夫氏
ヒッピー ゲイボーイ 学生運動 金嬉老事件 CМ ポスター 等々、当時のありとあらゆる 事件 風俗 流行が、三台のプロジェクターにより----画面・右 画面・左 そして両者にまたぎかぶる形でもうひとつ----脈絡なく同時進行し、唐突にストップモーションにて了る、という構成の13分の短編です。
----初映時は、ストップモーションと同時にマグネシウムフラッシュが焚かれたそうで、余りの意外性に度胆を抜かれた観客も多かったと聞きますが、残念ながら 私はそれは体感していません。

何故 この作品がマルチプロジェクションで創られているかについては、松本先生自ら DVD特典音声などで説かれていますが----DVDでは1ディスクに3プロジェクター分収まっています----当時という時代を通常の映画形式と成っている線的叙述で表わすには 余りにも爆発的で多義的で混沌としていたからという理由で、私はそれを聴いた時、「あぁ、なるほど」と 深く頷かずにはおれませんでした。

また、コラージュというものは単なる既存のモノの寄せ集めではなく 独自のアート性・世界観が立ちあがる表現手段である ということも、この作品を語る上で欠くことはできません。 
私は個人的にもコラージュが非常に好きで、例えば今、我が家のトイレットスペースは、「生命」というテーマで以って壁中ペタペタやっていますが、こんな一寸した遊びの範囲の中ですらも 如実にそれを感じています。

ですから、この「つぶれかかった右眼のために」は、明らかに 1+1+1=3ではなく、一見 脈絡なく詰め込まれているかのように思われるショットの数々は、緻密に相乗性を狙った松本先生の計算高さによって構築されている 松本先生にしか創り得ない芸術作品であることが強く認識できます。

そして、ラストのマグネシウムフラッシュは、ペーパーコラージュに置き換えると、紙という素材のみでは言いたい事を伝えきれずに ゴムとか小枝とか布とか金属とかを立体的にくっつけた といった所でしょうか。
松本俊夫DVD.jpg

nice!(456)  コメント(22)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 456

コメント 22

にすけん

 御無沙汰してスイマセン。
 振り返ればドキュメンタリー映画を見た回数は数えるほどしかありません。
 映画は創作の常套手段のひとつですが、そこに報道ばりの事実情報伝達のニュアンスが絡むドキュメンタリーには、別次元の難しさがあるのでは。
by にすけん (2012-09-09 11:54) 

PATA

ドキュメンタリーは好きで良く見ています。
今回ご紹介頂いた作品は芸術性が強そうですね。
by PATA (2012-09-09 14:19) 

ぼんぼちぼちぼち

にすけんさん

お久しぶりでやすっ(◎o◎)/
そうでやすね、ドキュメンタリー創りは、仰るとおり、多くのかたが日頃愉しんでおられる劇映画とは別次元の難しさがあると思いやす。
地震後、原発関連のドキュメンタリーも創られているようでやす。
個人的意見としては、大手のレンタルビデオ店にも もっとドキュメンタリーを置いて頂きたいと思っておりやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-09 19:49) 

ぼんぼちぼちぼち

PATAさん

そう、この作品を分類分けすると、「ドキュメントに材を取ったアートシネマ」といったところでやすね。
ドキュメントも 料理次第でこんな芸術作品になるんだよ っていう。
日本実験映画界の第一人者・松本俊夫先生の代表作の一つでやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-09 19:58) 

rantan-nya

この題名は、同時進行で流れることと関係しているのでしょうか?
題名に妙に惹かれてしまいました・・
by rantan-nya (2012-09-09 20:17) 

ぼんぼちぼちぼち

rantan-nyaさん

強烈に記憶に残る題名でやすよね。
これは完全に あっしの臆測でやすが----
やっぱマルチで撮られている作品である ということが大きいと思いやす。
あと、政治的・思想的な意味での「右」というのもあるのかな、と(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-09 20:47) 

まほ

テレビのドキュメンタリーは好きなのですが、
映画は、テレビほどは観る機会が無いので、
どうしても、面白そうなテーマの方向に走ってしまいます(反省)
つい娯楽色優先。。。



by まほ (2012-09-10 02:40) 

ぼんぼちぼちぼち

まほさん

一般的には まほさんのようなかたが多いと思いやす。
もしも映画で観るとしたら、ミュージシャンの仕事・生きざまを追ったものとか
地域密着物で市民会館で映るのとか ではないかな・・・と(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-10 10:31) 

薔薇少女

大昔、松本俊夫監督の『薔薇の葬列』を映画館で観ました!
大学祭でも上映されてました!
当時はカッコつけてATG系の映画館へ入り浸っていました!
初恋地獄篇が印象深いです!
by 薔薇少女 (2012-09-10 19:02) 

tree2

写真面白いです!
by tree2 (2012-09-10 19:21) 

ぼんぼちぼちぼち

薔薇少女さん

おぉ! 薔薇の葬列 観られやしたか!!
この作品も、松本先生の代表作の一つでやすね。
役者ではない本物のニューハーフのかたが出演されていることに意味のある メタシアター的要素を取り込んだ 斬新な一作でやすね。
この作品も 先々 ひとつの記事として紹介したいと考えてやす(◎o◎)b

初恋地獄篇・・・いつでも観れると思って観てない。 観なくっちゃo(◎o◎)o
by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-10 20:34) 

ぼんぼちぼちぼち

tree2さん

写真は、この映画が収められているDVD「松本俊夫実験映像集Ⅱ視想の錬金術 」のジャケ写でやす。
この作品を含めて短編が8作品盛り込まれてやす(◎o◎)b


by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-10 20:42) 

風太郎

一時期ドキュメンタリー映画に夢中になり、しまいにはドキュメンタリーならば何でもいいとニュース専門映画館に入り一日を過ごしました。
by 風太郎 (2012-09-10 20:54) 

ぼんぼちぼちぼち

風太郎さん

そうでやしたか! 深くハマられやしたなぁ(◎o◎)
ドキュメンタリーも数を観てゆくと、視点・撮り方などなど 様々な発見があって面白いでやすよね。
by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-10 21:16) 

KIM

まったく関係の無い話で恐縮ですが、
無事、見つかりました。
コメントありがとうございました。
by KIM (2012-09-10 22:43) 

ぼんぼちぼちぼち

KIMさん

それはよかったでやすっo(◎o◎)o
あっしんちの近所でも、色んなペット捜索願いの張り紙をみかけやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-10 22:57) 

ナツパパ

実際その場で見てみたいです。
これはなにか触発されそうな気がします。
by ナツパパ (2012-09-11 15:16) 

水無月

とても変わった作品ですね。
だけど妙に気になる~機会があれば観てみたいと思います!
by 水無月 (2012-09-11 20:02) 

ぼんぼちぼちぼち

ナツパパさん

そうでやすね。
あっしは、初映であるとか大きなスクリーンであるとかには そう拘るほうではないのでやすが
やはりこの作品は、初映時のマグネシウムフラッシュを体感してみたかったでやすね。
68年頃に青春時代を送られていたかたは、殊に響くものがあるかと察しやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-11 20:21) 

ぼんぼちぼちぼち

水無月さん

仰るとおり、とても変わった作品でやすね、あらゆる観点に於いて。
劇場上映されるとしたら、他の松本俊夫先生の短編幾つかとワンプログラムとして組まれると思いやす。
時代を観るという視点からも アートという視点からも、興味深い作品でやす。
機会があったら是非(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-11 20:31) 

さきしなのてるりん

独自のアート性・世界観が立ちあがる表現手段でトイレをいのちのテーマで彩るとは。。。ぼんさまのトイレをのぞいてみたい。(私って悪趣味だなぁ(笑))
by さきしなのてるりん (2012-09-11 21:42) 

ぼんぼちぼちぼち

さきしなのてるりんさん

まぁ、あっしのトイレは、ちょっとした遊びの範囲でやすがf(◎o◎)
いつか機会があったら、画像アップするかも でやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2012-09-12 11:40) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0