あっしが雫だったころ  [小説]

あっしは、ただ ひたすらに 落下してやした。
この地球(ほし)の重力に逆らうことなく、------いえ、逆らおうにも、ここが地球である以上 逆らえるはずもなく------ただただ 落下してやした。

-------これは、あっしが前世で 雫だったころのお話でやす。
夜更けの都市に静かに降る 雨の雫の一粒だったころのお話でやす。

あっしは、いつ どんな形でもって 雫であることの生を了えるのだろう?
雫である生を こうして 一瞬一瞬ちぢめながら 自問してやした。

誰れも上ることのない 古い小さなビルの屋上の空調の機械の脇に 音もなく砕けるのか、客がつかまらずに彷徨するタクシーのフロントガラスに丸く落ちるや ついとワイパーに拭い去られてしまうのか、アスファルトの引き立ての白線を より白々と光らせ流れるのか・・・・
いずれにしろ、あっしも あっしの他の雫達も、いつかは この 周囲の世界を逆さに膨らまし映す身を 必ず了えるのでやす。
未来永劫 永遠不滅の雫など、ここが重力ある地球であるかぎり ありえないのでやすから。

しずく1.jpg------夜更けの都市上空に雫として生を受けたことは けっこう幸せだったんじゃないか?
あっしは、少しづつ 生の了りに近づきながら思いやした。
何故なら、眼下に惜しげもなく広がるまばゆい銀河をこの身に映せることは、雫として、理屈抜きに 享しく 心地よく ハッピーだったからでやす。
雫仲間には、「都市の銀河なんてものは 所詮は まがいものなんだよ」と、したり顔で眉をひそめる者もおりやした。
確かに それが本当かも知れやせん。
けど、あっしは、この銀河が何より好きでやした。
この銀河の輝きを満喫し、全身に映し出すことより気持ちのいいことなんて 雫として他にないんじゃないか とすら感じてやした。
あっしがここ以外の世界を知らなかったからかも知れやせん。
きっと そうだからでやしょう。
でも、あっしは、それでかまわないと思いやした。
まがいものの銀河しか知らずに まがいものの銀河を美しいと感じ まがいものの銀河を全身に映して了える一生も、あっし自身が満足なら それでいいじゃないでやすか。

あっしは、一瞬でも永く 都市銀河を映し享しみたいと願ってやす。
しずく2.jpgそして、紡錘型の身体が崩れる一刹那は、身いっぱいに銀河をキラキラと映し 綺麗なものの上に 酔いとろけ果てたいと祈ってやす。
まだ空高くいるうちに 運悪く ヘリコプターの羽に砕け散るのだけは辛すぎやす。
現に、あっしのすぐ下に、濁音に打ち砕かれ 地上にはまだまだなのに 雫であることを了えた 悲しい仲間の一群が見えやす。
地上まで辿り着けたとしても、最期にこの身に映るのが、玉子のカラや歯型にえぐれたハンバーガーの腐りながら詰まるゴミ袋だったり、安風俗店のピンクと黄色のひび割れた看板だったら、吐き気にもがき苦しみそうでやす。
都市銀河上空に生を受け、きらめきを映し享しめる----ということは、逆を返せば、そんなものの上に生を了える可能性も十二分にありうる ということでやす。

どこに落ちるか、あっし自身には選択権はありやせん。
小粋なカフェの窓に 銀色のエスプレッソマシーンを覗きながら ガラスに儚い草を一すじ描いて果てることができるか・・・と思いきや、無情な風に 道の向かい側の浮浪者の集め積んだ古週刊誌の山に飛ばされ どろりと滲んでしまうかも知れず、あるいは また・・・・

あっしは、ぐんぐん落下しながら 自問しやした。
あっしは、いつ どんな形で 雫としての生を了えるのだろう?
自問したところで、落下の距離が長くなるわけでも 綺麗なものの上に落下できるわけでもないのに、それでも 自問せずにはおれやせんでやした。
 
あっしは、いつ どんな・・・・
しずく3.jpg



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コメント 27

イヴママ

とっても面白い視点ですね。
雫がどこへ落ちるかってことを考えたこともありませんでした。
by イヴママ (2012-03-10 10:50) 

ディブ松本

「雫」は生死や使命、人生感に喩えられますが
私は大河となる生き方をしたいです。
by ディブ松本 (2012-03-10 11:22) 

さきしなのてるりん

いずれ天に上るのです。どのようなしずくも昇華するのです。わぁ、きれいだなぁ。あはっ。自分で言って自分でおかしがってる。
by さきしなのてるりん (2012-03-10 11:38) 

キャスリーン・ケリー

いつもながら 深いですね~。。。
人生を凝縮したかのようです
by キャスリーン・ケリー (2012-03-10 13:07) 

きょん

雪のひとひらって本思い出します。
どこに到着しても、またいずれは巡って空に還って行くんですね。
水は不思議な存在ですね。
こちらで雪として降りてきた滴たちは、
今すごい勢いで地面へと吸い込まれて行ってますよ。
またいつか戻ってくるのかな。
by きょん (2012-03-10 13:28) 

tomomame

これが、ぼんぼちさんの生き様、
スタイル、信念、美意識…なのかな。

芸術系の人には、一般人の常識では測れない
融通のきかない面がある…気がします。

昔漫画で読んだ天才バレリーナのお話にも、
「翼がある者には腕がない」というフレーズがありました。

by tomomame (2012-03-10 18:10) 

そらへい

都会のネオンサインの彩りを鮮やかに映した滴の
一瞬の輝きも素敵ですが
堆積した落ち葉のうえに、こそっと静かな音を立てて落ちる
滴の一生も私は嫌いではないですね。
by そらへい (2012-03-10 21:05) 

ぼんぼちぼちぼち

みなさん

午後には雨の上った東京・杉並の今日 こんばんはでやす(◎o◎)/
みなさんの地域はどうだったでやせうか?

さまざまな感想 ありがとでやす。
とても興味深く読ませていただいてやす。
今回の話、公開するまで あっしとしては「ありがちな 誰もが思ってる感覚だろーな」って認識だったので 
コメントを読ませていただいて初めて己れが見えやした。

>「翼がある者には腕がない」・・・確かにそういうものかも知れないなぁと 最近になって気付いたあっしでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2012-03-10 23:34) 

まほ

キラキラと銀河を写しながら落下していき、
最後は、都会の片隅、道ばたに咲いた小さなタンポポの花へ、
・・・なんて感じが、私は好きかな♪
by まほ (2012-03-11 03:29) 

サンダーソニア

雫であった自分が蒸発したら
引力に逆らうって どんな気分でしょうね。

by サンダーソニア (2012-03-11 17:11) 

ふにゃいの

人生そのものですねぇ。
自分で考え自分が行きたいところに
行っているようで
そうとも限らないような。
そしてラストはどこに行きつくのやら…

by ふにゃいの (2012-03-11 17:43) 

mito_and_tanu

雫の立場で考えて見る...思いつきもしませんでした。
すごい。
by mito_and_tanu (2012-03-11 21:22) 

ぼんぼちぼちぼち

みなさん

今日は、仕事で(といっても大した仕事ではないんでやすが)東京・郊外の国立に行ったぼんぼちでやす。
夕方、空は青いのに雨がぱらりぱらりと降ってるのをアスファルトに見やした。
みなさんの地域はどうだったでやせうか?

あぁ なるほど、「最期はタンポポへ・・・」それが理想 と思い描くかた 多いかも知れやせん。
言われて初めて気付きやした。 多数派の人との感性の違いみたいなものを。

蒸発するとき どんな気分なんでやせう・・・
さっき自分が堕ちた場所を見降ろすんでやせうか・・・

 
>自分で考え自分が行きたいところに
行っているようで
そうとも限らないような。
そう、そうなんでやすよね。
特にここに焦点をあてた記事は、近いうちに一つ書きたいと考えているところでやす(◎o◎)b

この作品の発想、公開前は すごくありきたりだろーなと認識していただけに
思いつきもしなかったと言っていただけて すごく嬉しいでやす・ぺこりっ。
by ぼんぼちぼちぼち (2012-03-11 22:11) 

土芽

どんな形で生を了えるのだろうか、常に不安です。
でも傍からどんなに哀れられて了える一生であっても
自身が満足ならそれでいい。でも満足できるかどうかは疑問です。
雫のように逆らわ(え)ず、身を任せてみようか。。。
by 土芽 (2012-03-12 06:41) 

ぴぃ

都市銀河は偽銀河かもしれないけど、
「眞の都市銀河」なのだからきちんと美しい。
生命の終着点は気になるけど、
短くも長い人生のたった1点なのだから、
不本意でも仕方ないと考えることにしてます。
by ぴぃ (2012-03-12 07:51) 

つなみ

お待ちしていました。
あっしが〇〇だったころ。
大好きなんです。
今回は雫なんですネ。
私も、息を引き取るときに
自分がなにであったかを知るのだと思います。
by つなみ (2012-03-12 16:44) 

銀

久々のあっしシリーズですねぇ(^.^)
最初の出だしで
えっ、あれっ!隕石?と思ってしまいました^^;
雫の気持ちがわかるって凄いです!はは^^;

by 銀 (2012-03-12 19:56) 

ぼんぼちぼちぼち

みなさん

ネパール山岳地帯のやうな寒さだった東京・杉並の今日 こんばんはでやす((◎o◎))
みなさんの地域は如何だったでやせうか?

どんな形で生を了えるのか、常に不安でやすよね・・・・。
元々、あっしはそういうことを強く考えて生きてきたのでやすが
一年前からは より 具体的に切迫感を持ち ぐるぐると繰り返し思ってやす。
その時の運命に覚悟を決めるしかない・・・と 覚悟を決めてやす。
運命の時がいつ来るかは解らないけれど
好きなこと----お気に入りの映画や音楽や書物を堪能したり 好きな街やカフェを満喫したり たらふく旨い食べ物や酒を味わったり----
そんなことを悔いなくしておきたいな・・・と。
でも、やっぱ もっともっと愉しみたかったって いまわの際には思うんでやせうなぁ、欲ってきりがないでやすからね。
by ぼんぼちぼちぼち (2012-03-12 22:24) 

にすけん

 今回も写真が美しい!落下中の視点から見る景色の動きのイメージがよくわかります。不思議な楽しさを感じますね。
by にすけん (2012-03-13 01:27) 

ぼんぼちぼちぼち

にすけんさん

今回も写真 お誉めいただけ光栄でやす・ぺこりっ。
やはりこの作品に付ける画は、主人公の雨粒から観た風景イメージだよなー と。
で、ストックしてた画像集の中から それぞれ別時空で撮ったものを色調加工し 色相を統一しやした。
因みに一枚目は、渋谷のモヤイ像側にある大陸橋で撮ったものでやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-03-13 12:05) 

さる1号

おぉ、大好きな”あっし”シリーズ
今回の”あっし”も深く感じいりました。
生はいつ、どんな形で終わるのだろう・・・
自分で求め決められることと、求めようもなく決める事ができないことも
by さる1号 (2012-03-13 12:48) 

ぼんぼちぼちぼち

さる1号さん

あっしの拙い作品を読んでいただいて そんなふうに感じていただけたとは嬉しい限りでやす・ぺこりっ。
いつ どんな形で終わるのか、考えたところでどうなるわけではないと解っていながら ぐるぐる考えてしまいやす・・・。

by ぼんぼちぼちぼち (2012-03-13 21:19) 

ラブスコール

なんだかいつも考えさせられるし
読んでいて、想像するのが楽しいです♪
by ラブスコール (2012-03-14 06:57) 

ぼんぼちぼちぼち

ラブスコールさん

そう言っていただけるなんて 至福でございやす・ぺこりっ。
今のあっしの気持ちを 雫に託してみやした(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-03-14 21:36) 

sig

こんにちは。
最近はやりの映像表現である、超スローモーションで落下する雨滴を見ているようでした。

by sig (2012-03-16 14:12) 

ぼんぼちぼちぼち

sig さん

sig さんにそう感じていただけたとは本望でやす・ぺこりっ。
人間にとってのほんの一瞬が 雨粒にとっては
人間の一生くらいな長さ・・・そんな発想からこさえてみやした(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2012-03-16 22:38) 

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