映画「H2О」  [感想文]

今日は、私が極めて見事だと思う実験映画を一つ 紹介したいと思います。
「H2О」。
米・写真家であり前衛映像作家としても活躍した ラルフ・シュタイナーにより、1929年に創られた 氏・初の映画作品です。

本編12分の中、ストーリーというものは無く、人物も登場せず ナレーションも字幕も入らず、ギターの爪弾きの流れに乗り、一貫して、水が 白黒で映し出されます。
雨が降り 樋などから溢れた雨水は 激流となり、そして、しだいに 穏やかな淀みへとたゆたい、水上に伸びる杭や草を逆さに揺らぎ映し、光の加減により 様々な水模様を創ります。

ですから、この作品には 別段 暗喩的な意味合いが込められている訳ではなく、言はむとしているのは、観てのとおりの「水の視覚的な美しさ」です。
「水というものが、流れることによって 淀むことによって 映ることによって 反射することによって観せる美しさ」そのままです。
一見、一寸した人になら撮れそうな映画です。
しかし、私は、この作品は そうそう誰れにでも撮れるものではない、80年以上昔に創られていながら 今もって 実験映画史上に残り続けるだけの明確な理由がある と認識しています。

みず3.jpg
その理由とは-------
水に対する捉えが、日常から非日常へ 具象から抽象へ 表層から奥底へと ぐーーーーーっとズームしてゆくところです。
冒頭の、雨や 樋から溢れる水は、「水が水であるということ」を 客観的に伝えています。
そして、映画中程の、棒が斜めに水に刺さっている辺りから 徐々に図案的表現になり、数多の杭や 葦かと思われる草が映り込むショットで、私達は、「水というものは こんなにも美しかったのか!」と、日頃 生活の中で接しているそれから少し離れ、「水の造形美」の世界に 一歩 引き込まれます。
その後、画面には 水面のみが揺らめき、その様は、日本画家・福田平八郎の代表作「漣」を思いおこさずにはおれなく、まさに、引き算にて構築された「動く絵画」さながらです。
「動く絵画」は、画面からはみ出すほどの楕円を 鱗のような幾つもの小さな楕円を 黒々とした太い曲線を 消え入りそうな淡い曲線をめくるめく展開させ、あるいは、またたく星のようにきらめき、いつしか 私達は、これが「水」であることを忘れ 一編の抽象美の世界に 完全に酔いしれてしまいます。

本編を観了ると、題名も いかに計算され尽くした 作家の自信に裏打ちされたものかが 納得できます。
これ以上はない無機質な 単なる化学式のみの題名。
この題からは予測もつかない 究極の図形美-------。
「H2О」。
実験映画史に残るべくして残った達作だと 改めて 深く頷かずにはおれない作品です。

みず1.jpg


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ラブスコール

なんだかドキドキしました。。。
by ラブスコール (2011-12-17 06:06) 

PATA

水は美しいです。是非見たい映画ですね。
by PATA (2011-12-17 11:20) 

ノンノン

ぼんぼちぼちぼち様今日は、先日はnice!&コメントを本当に有難う御座いました。
普段私達の目には日常・表層・具象として写っている水の美しさを改めて認識させられる映画なのでしょうか?
水というものは美しいと私は思います。
by ノンノン (2011-12-17 12:27) 

yakko

こんにちは。
機会があったら「H2О」を見てみたいです・・・
by yakko (2011-12-17 13:06) 

きょん

想像するだけでゆったりとした異空間に連れ込まれそうですね。
そういった短編映画はどこを探したら見られるんでしょうか?
機会があったら見てみたいですね。
by きょん (2011-12-17 17:43) 

藤並 海

白黒というところで
見る人それぞれに色を想像させるのかもしれませんね
「H2O」僕も見てみたいです
by 藤並 海 (2011-12-17 22:25) 

ぼんぼちぼちぼち

みなさん

今回の記事は、映画 写真 絵画 デザイン 以外に興味のないかたには そっぽ向かれるという前提で公開したんでやすが
予想外に さっそく幾つものコメントいただけ 嬉しく驚いてやす・ぺこりっ。

>普段私達の目には日常・表層・具象として写っている水の美しさを改めて認識させられる映画
そうでやす、そういう映画でやす(◎o◎)b
映画史に残り続けるべくして残る 実に秀逸な作品でやす。

で、この映画、どこで観れるかというと-----
あっしが最初に観たのは、10年以上前、渋谷のイメージフォーラムの講座の中ででやした。
怒涛の数の実験・前衛・短編映画が次々と講義つきで上映される中
当作は殊 印象深く、また観たいものだなぁと ずーーーっと思ってやした。
でも 劇場公開には なかなかめぐり逢えなくて。
と、最近、よく利用する 高円寺のオービスさんというレンタルビデオ屋さんで、アヴァンギャルドシネマアーカイブスといった内容のDVDのシリーズが出てるのを発見し(レジの横に イチ押しー!みたいな感じで堂々と置かれてたんで、発見というより オススメ商品だったので といったほうが相応しいかもでやすが)
それを借りたら、半 予想通りで入ってやした。
まぁ、勿論、この作品が入ってるであろうことのみを期待して借りた訳ではなく
「既に観た作品が多そうだと予測される中、このシリーズはどうしても順に観てゆきたいo(◎o◎)o」との気持ちの上でやすが。

ディスクについて少し説明すると----
米国が、英語圏の人にむけて創ったもので
つまり、一枚目は殆どマンレイ(仏)だったりするんでやすが
それには 英語の字幕つきで、英語圏の作品に於いては そのまま。
レンタル店の店長さんが、ネットで取り寄せたものだそうです。

なので、劇場で観ることのできる機会は----
尺からしても、短編・実験映画の特集の一つとして なら 可能性としてありそうでやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2011-12-17 23:17) 

まほ

何分ぐらいの作品なのでしょう?
水だけを追っている映像なのに、飽きさせない力量があるのですね。
水の流れや炎には、人間何か本能的に惹かれるような気がします。
by まほ (2011-12-18 02:20) 

cheese999

「H2О」の題名で思ったのが、
私が好きな「U2」です。この2文字に「you two」、「you, too」の意味が込められているとか、いないとか。
(^_0)ノ

by cheese999 (2011-12-18 05:38) 

さくらこ

今でこそ色々な映像作品がありますが、
80年以上も前にそんな企画立てたのが凄いですね。
by さくらこ (2011-12-18 17:44) 

春分

大人の階段昇る 君はまだシンデレラさ♪
あ、そのH2Oじゃなく。というか、そっちはご興味ないか。
映画は「コヤニスカッティ」みたいな感じかなぁ。知りませんでした。
by 春分 (2011-12-18 20:38) 

ぼんぼちぼちぼち

まほさん

12分の短編でやす(◎o◎)b
飽きさせない力量・・・そう、ぐーーーーっと惹きこまれて はぁと感嘆のため息・・・そんな作品でやす。
炎にも 同じものを感じやすね。
あと 砂とか。
by ぼんぼちぼちぼち (2011-12-18 23:10) 

ぼんぼちぼちぼち

cheese999 さん

なるほど、U2には そういう意味が込められているかもなんでやすね。
あ、今思い出しやしたが、ミッキー吉野さんが率いてたゴダイゴは
行って死んでまた行く という含みもあってのゴダイゴなのだそうでやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2011-12-18 23:17) 

ぼんぼちぼちぼち

さくらこ さん

実にそう思いやす。
何の分野でも、人真似は、器用な人ならできるけれど
最初に発想した人というのは凄いと思いやす。
このラルフ・シュタイナー氏は 元々写真の世界のかただったので
だからこそ、時間の存在する画面 というものを考察することに
人一倍敏感であり、鳥瞰視できたのだと察しやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2011-12-18 23:23) 

ぼんぼちぼちぼち

春分さん

あぁ、その歌、流行りやしたね。
あっしの青春期ど真ん中の時代でやす。
でも、ひねくれ者のあっしは、自分の思春期~青春期に主流だった音楽は苦手でやしたf(◎o◎)

この映画は「コヤニスカッティ」と比較すると
メッセージ性や思想というもののない、ただただ視覚的な美しさを追究したものでやすね。
具象から抽象への視覚的な美しさの深層を追究しました といった(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2011-12-18 23:40) 

TOSIYA

ぼんぼちぼちぼち さん

こちら(htpp://ff.im/-OwHFr )への nice! ありがとうございました。

また、遊びにきてください。


by TOSIYA (2011-12-19 22:18) 

ぼんぼちぼちぼち

TOSIYA さん

へい、こちらこそ ありがとでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2011-12-20 12:46) 

扶侶夢

評論が冴えていました。素敵な映画を紹介してくれてありがとう。記憶にとどめておいて、いつの日か必ず…見たいです。
by 扶侶夢 (2011-12-22 21:21) 

ぼんぼちぼちぼち

扶侶夢さん

あっしの拙い評論を そんな風に感じてくださったなんて光栄でやす・ぺこりっ。
機会があったら是非・・・(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2011-12-22 21:29) 

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