意志の勝利・隠喩の将来 [感想文]

芸術の表現方法の一つに 「隠喩法」 がある。

一口に隠喩法と言っても その手段や 言わんとする核を埋める深さは その作家 作品により様々なのではあるが、抑圧され 言論の自由の無い 厳しい状況下であればある程、作家は そこに 毛細血管を縫い合わせるが如くの慎重さと 真っ赤にたぎる鉄ほどの情熱で挑むのは 必然である。

自分は 昨年夏、「意志の勝利」 を観た。02071.jpg
ベルリン生まれの女性監督 レニ・リーフェンシュタールが、彼女の過去の作品を高く評価していたヒトラーに懇願され 1934年9月4日から6日間にわたり ニュルンベルクにて開かれた ナチ党全国大会の模様を追った 記録映画である。

即ち 「プロバガンダ映画」として創られた作品であり、今回の公開にあたっては 映像芸術的に優れている点と 反面教師として受け取りましょう という事が強調されていた。

成程、この監督の 映像美に於ける リズム 緩急のつけ方 バランスの取り方 引き込み方の計算は見事だな と、うすら寒い恐ろしさすら感じつつ観進んだ。
と、クライマックスの 作品中最後のヒトラーの演説シーンに入った時、自分は 「あっ!」 と 息を飲んだ。
02072.jpgそれ迄、完璧な英雄として映されていたヒトラーの 原稿に目を遣るショットが、何度も何度も 執拗に出てきたのである。
演説するヒトラー、原稿、原稿を見るヒトラー、原稿を捲るヒトラー、演説するヒトラー、原稿・・・・・・・・・・
自分は、「リーフェンシュタールは、決して 表立って表すことは許されないが ヒトラーは張り子の虎だと言っているのだ」 と 直感した。

後、ヒトラー ナチ党が どれ程 黒い巨大な翼を羽ばたかせたかは 説明するまでも無い。
結果、彼女は この映画を撮っていたが為に 最期迄 ナチ協力者として 負の運命に翻弄され続けることとなったという。

今回の公開で、あの場面を 自分と同じに解した人が どれくらいいるかは解からない。
又、黒い翼の下に息絶えていった人々の命は 二度と 取り戻せない。
しかし、自分は いつか 近い将来、必ず 「あれは ヒトラー張り子の虎映画だった」 と解明される日が来ると 信じている。

「それでも それでも それでも 私はこう思うのだ!」
どれだけの圧力の下にも、深く 密かに 己れの意志の刻印を打ちつけずには生きられない、それが 表現者なのだから。

02073.jpg

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kurakichi

私もこの映画を観たのですが あのラストシーンには何か違和感を感じていました。
リーフェンシュタールは確かに ヒットラーは張子の虎だ と思っていたのでしょう。
そしてあのような表現をして それがぼんぼちさんや私に伝わったとすれば あの映画はまさに リーフェンシュタールの意志の勝利だったと言えると思います。
by kurakichi (2010-02-07 06:48) 

manamana

芸術性が高いのに、プロパガンダのひと言で葬り去られていると
聞いています。
一度見てみたいと思います。
by manamana (2010-02-07 09:08) 

nyankome

レニ・リーフェンシュタールの作品は、ベルリン・オリンピックの記録映画「民族の祭典」、「美の祭典」を観ました。
確かにナチスの宣伝に利用されたという点は否定できませんが、彼女の作品はそれだけで切り捨てられるべきものではないと思っています。
by nyankome (2010-02-07 12:39) 

MIKE

ヒトラーという人物;良い/悪いは抜きに、独特の感性を持ち合わせていたと思うんですが、ロジカルにドイツ国民を口説き落とすには、きっと難があったでしょう - 恐らくゲッペルスあたりが準備した原稿を読みあげてたんでしょうね・・、で、リーフェンシュタール女史;”正体見たり”なトコを遠回しに残そうとしたんでしょうか・・
by MIKE (2010-02-07 13:01) 

せつこ

ご訪問ありがとうございました。
by せつこ (2010-02-07 15:54) 

ぼんぼちぼちぼち

kurakichiさん

そう、リーフェンシュタールの意志の勝利!
大々的勝利の来る日を望みやす。

今だ、本国ドイツでは 上映禁止のままだそうでやすね・・・・。

by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-07 17:43) 

ぼんぼちぼちぼち

manamanaさん

あの 映像の完成された美しさには 圧倒されやす。
先月、DVDにもなったようでやす。
是非、観てみられてくださいでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-07 17:51) 

ぼんぼちぼちぼち

nyankomeさん

ベルリンオリンピックの記録映画のほうは
あっしは未だ観ていないので 是非観たいと思っていやす。

今回の 劇場公開とDVD化により
より多くの人が 「封印し続けてはいけない作品だ」と 
認識することになることを願いやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-07 18:09) 

ぼんぼちぼちぼち

MIKEさん

まさに あの場面は 
隠喩・暗喩の底力を痛烈に感じた 「正体見たり!」 といったシーンでやした。

余談でやすが、劇場ロビーには
いつも通りに コーラとポップコーンが売られていて ちょっと笑ってしまいやした。

by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-07 18:24) 

ぼんぼちぼちぼち

せつこさん

こちらこそ ありがとうでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-07 20:33) 

hiroq

ご来訪、ありがとうございます。
by hiroq (2010-02-07 20:42) 

空兵ーS

「叫び」で有名なムンクの絵に
「思春期」という作品があります。
この絵を見たとき、この絵が饒舌すぎるくらい饒舌だったので
思わず、わかった、わかったと絵に向かって呟きました。
たぶん、そんな感じの直感なんでしょうね。
by 空兵ーS (2010-02-07 21:29) 

lock

nice&ご訪問ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
by lock (2010-02-08 01:12) 

tacit_tacet

25年ほど前に多摩市市民会館で上映された時も、「映像としては素晴らしい。だが、、映画がこのように利用されてはいけないという教訓として受けとめるべきだ」という前説がありました。

ヒトラーの演説に聴衆が惹き付けられていく場面で、若い女性が思わず舌で唇を舐めるシーンの下世話な官能性に大きな違和感を感じました。この記事を拝読して、あのシーンにも無言のプロテストが込められていたのかと気付きました。
by tacit_tacet (2010-02-08 03:09) 

未来

彼女は悪名を残しましたが、
たとえ何を撮っても芸術至上主義者だと思うのです。

by 未来 (2010-02-08 07:13) 

emiemi40

すばらしいですね。そんなふうに映画をとらえたこともなく、ぼんぼちぼちぼちさんが観たような映画に、出逢ったこともないです。無意識に避けているのかも・・・・


ところで、質問なのですけれど…ぼんぼちぼちぼちさんが、一番おちついて思索し、文章をかける時間帯とかありますか?あったら教えてほしいと思いまして。早朝とか、深夜とか。人によって違うというのはわかっていrのですけれど…
by emiemi40 (2010-02-08 09:12) 

じぃじぃ

おはようございます、応援になります。
(^▽^)/

by じぃじぃ (2010-02-08 09:33) 

ぼんぼちぼちぼち

hiroqさん

こちらこそ ありがとうでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-08 10:46) 

ぼんぼちぼちぼち

空兵-Sさん

「あっ!わかった、そういうことだつたのか!!」
といった感じでやした。

ムンクといえば、「叫び」のモデルが ビニール製の大きな人形になっているのを
雑貨屋で見かけやした。
ひょうきん極まりなかったでやす。
ムンク自身、死後、作品がこのような二次的加工をされ
そして、全く別の解釈が生まれるとは
夢にも思わなかったと思いやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-08 10:57) 

ぼんぼちぼちぼち

lockさん

こちらこそ ありがとうでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-08 10:59) 

ぼんぼちぼちぼち

tacit_tacetさん

25年前にも多摩市で上映されていたんでやすね!

なるほど、唇を舐めるシーン ありやしたね。
そう指摘されてみると 妙に官能的でやした。

あっしが気がつかないでいる暗喩箇所
他にも何箇所もあるのではないかと思いやす。
そういう所 発見したら 皆さん 教えてくださいでやす!



by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-08 11:11) 

ぼんぼちぼちぼち

未来さん

全く同感でやす。
あの撮りかたは、芸術至上主義者でないと
絶対に撮れないと思いやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-08 11:18) 

ぼんぼちぼちぼち

emiemi40さん

そうでやすか。
いつか、機会があったら こういう映画も観てみられてくださいでやす。

一番よく書くのは 夜でやすね。
風呂から上がって 酔いが軽く醒めてから・・・というパターンが多いでやす。
休みの日には、喫茶店にノートを持ち込んで 長居をすることもしばしばでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-08 11:26) 

qooo

なるほど〜。
是非、見てみたいですねえ。
作品に、とても興味がわいてしまいました。
張り子の虎か〜。
by qooo (2010-02-08 16:27) 

淳司

表現者・・・
その道は険しいですねぇ(><)b
by 淳司 (2010-02-08 19:29) 

yongo

ご訪問&ナイスをいただきありがとうございました。リーフェンシュタールはの映画は一度見てみたいと思っています。観る機会がありましたら、ラストを注意深く観察しようと思います。
by yongo (2010-02-08 20:58) 

ぼんぼちぼちぼち

qoooさん
yongoさん

是非 観てみられてくださいでやす。
あっしは、あの場面を観た他の方々は どう思われるのか
とても興味がありやす。
もし、観られた折には 感想などを聞かせていただけたら幸いでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-08 23:50) 

ぼんぼちぼちぼち

淳司さん

険しいでやすなぁ・・・・
それでも 何かに突き動かされるように 表現を続けなければおれないのが
表現者なのでやしょうね。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-08 23:55) 

鴨吉

ご訪問&nice1どうもありがとうございました!
by 鴨吉 (2010-02-09 17:20) 

tokoharu

ご訪問&nice! ありがとうございました^^
by tokoharu (2010-02-09 19:21) 

青竹

ご訪問くださりありがとうございます。
リーフェンシュタールは、民族の祭典で知っていましたが、当時はナチスのプロパガンダに迎合しているだけのように思っていました。
水面下での抵抗をしていたのでしょうね。
少しでも反ナチの匂いを嗅ぎ取られると、即座に収容所送りだったでしょうから。全体主義というのは怖いです。
by 青竹 (2010-02-09 19:39) 

k-meg

ご訪問ありがとうございました・・
観てみたくみたくなりますね。 作品を観ることは、作者がなにを「表現」
いいたかったかを探す事ですものね。どんな、秘密が隠されているのか?

by k-meg (2010-02-09 22:55) 

きょん

nice!ありがとうございます。
映画というと見るのは話題になってるものか、娯楽性の高いものばかりなので、こういった作品は敷居が高いというか、敬遠してしまうというか、なかなか手が出ません。
でもぼんぼちぼちぼちさんのブログを見て、少し興味がわきました。
今度機会があったら見てみたいと思います。
by きょん (2010-02-10 10:25) 

ぼんぼちぼちぼち

鴨吉さん
tokoharuさん

こちらこそ ありがどうでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-10 11:18) 

ぼんぼちぼちぼち

青竹さん

こちらこそ ありがとうございやす。

そう、全体主義 怖いでやすね。
そして、そういう国は 隠喩・暗喩表現先進国と成りやすね。
東欧(現在では中欧)、ロシア等の映画は
そういった観点から 思わずうなってしまうものが多いでやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-10 11:36) 

ぼんぼちぼちぼち

k-megさん

こちちらこそ ありがとうでやす。

先月、DVDにもなったようなので 是非 観てみられてくださいでやす。
どんなジャンルの芸術作品に於いても
「作者が何を言いたかったのか」を探り考えるのは
とても興味深い作業でやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-10 11:42) 

ぼんぼちぼちぼち

きょんさん

そうでやすか! 機会があったら是非!!
商業映画以外は観ないというかたは けっこうおられるようでやすな。
確かに 敷居の高さは感じるかも知れやせんね。

テレビ番組や出版物に様々な方向性のものがあるように
映画も 色々な作品が存在していて然るべきだと思っておりやす。

あっしは、商業映画も好きなので 近々 その感想も記事にしたいと思ってやす。



by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-10 11:56) 

mau

マインカンプもアンネの日記も読んでる私。気になる映画ですね。見てみたいです。
by mau (2010-02-11 21:52) 

ぼんぼちぼちぼち

mauさん

是非 観てみられてくださいでやす!
あと、ポーランドのアンジェイワイダ監督の「カティンの森」も
チャンスがあったら是非!
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-11 22:36) 

Len

<どれだけの圧力の下にも、深く 密かに 己れの意志の刻印を打ちつけずには生きられない>
 自分の仕事にも、こういう気概だけは持ちたいです。それほどのことはしてませんが。
by Len (2010-02-12 05:49) 

ぼんぼちぼちぼち

Lenさん

そうでやすなぁ、実に。
しかし、あっしも 仕事は妥協しまくりでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-02-12 10:02) 

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